《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》80
ユリウスのから、じわじわと黒いよどみが生じている――認めたくない現実に、沈黙の時間がし続いたのち。ユリウスがおもむろに口を開いた。
「君は……何も悪くない。これは、俺の宿命なのだから……」
「……」
「君の――他者を思いやる心は、とてもかけがえのないものだ。しかし、これ以上ここにいては、君を大切に思う人々を悲しませてしまう」
そして、ユリウスは、ナタリーに頭を下げて――。
「……君が生きてくれること――幸せでいることが、一番大事なんだ……だから早くここから」
真っすぐと、そして思いを込めるように。
「……逃げてくれ」
そう、彼はナタリーに言った。
その言葉を聞き、ナタリーは思わずが詰まり……無言になってしまう。そして何度も脳で反芻すれば――彼の言葉から痛いほど伝わってくる想いに理解がいく。
ナタリーの幸せのために、逃げてくれ……と。理では分かっているのだ、きっと地下跡で起きた魔力暴走とは比にならないくらいの、危険な狀況だということ。
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逃げたほうが安全、分かっている……分かっているのだ。
(でも、それが私の幸せになるなんて……)
ユリウスの言葉を思い出すたびにナタリーは、ふつふつと抑えきれないが溢れてきて――。
「わかりませんっ!」
「……え?」
「宿命だなんて、そんなもの……私は認めませんっ!」
ユリウスの言葉とは反対に――ナタリーは彼の方へ近づいていきながら、口をしっかりと開く。
「そもそも、あなたは私に言わないことが多すぎるのです!」
「それは――」
「言えないことがあるのは……仕方がありませんわ。ですが、そうだとしても一人で勝手に決めつけておりませんか?」
頭を下げていたユリウスが、ナタリーの言葉に反応して顔を上げる。そしてその間に、彼のもとへナタリーは辿り著き、彼の側へ腰を落とし――膝立ちになった。
「私の幸せは、ここから逃げること――ではありません」
「……」
「たしかに、ここに來るまで……お父様、お母様、周りの大切な人たちに、心配をかけてしまいました」
「それなら……今からでも、遅くは――」
ユリウスが、気遣うように――ナタリーへ聲をかける。その聲を聞き、ナタリーは自分を鼓舞するようにきゅっと手を握りしめ。
「でもっ!私は、ここから離れませんの!」
「……っ!」
そうナタリーが告げれば、ユリウスの赤い瞳が大きく揺れた。そう言われるとは思わなかったのか、驚きを隠せないユリウスを前にしてナタリーは続ける。
「それに、優しさだとか、使命で私はここに來ているわけではありません」
「そ、れは――」
「ここにいるのは、私の意思なのです!」
ユリウスは、ナタリーの言葉にが固まってしまったのか瞬きをするだけだった。そんな彼に語り掛けるようにナタリーは、一息ついてから口を開く。
「あなたと再び出會った日から……私、おかしくなってしまったんです!」
「っ!」
「私にはない力で、あなたは助けてくれて……しかも、気遣われて。冷たいと思っていたのに……溫かい気持ちにもれてしまって。ずっとずっと、心臓がおかしくなっていますの!」
「す、すまない……」
ナタリーの言葉にユリウスは呆気に取られているようだった。そして自分を見つめる彼に一度開いた口をそのままかし、さらに言葉を紡ぐ。
「でも、それ以上に……あなたの優しさに、想いに、どうしようもなくが焦がれて――手放したくないんです!」
「……っ!」
「あなたと、もっと話をして……時には季節で移りゆく景を見たり、他もなく笑いあう。そんな日々がしくてしかたないと――そう、思うんです……っ」
ナタリーがユリウスの瞳をしっかりとみつめれば、ユリウスは息を呑み――「俺が……しく眩しい君を……守るのが……だというのに、そんな、そんなことは……」とぶつぶつと小さくつぶやいているようだった。
そんな様子にナタリーはじれったく思い、彼の両肩に手を置き――。
「かっ……」
閣下――と呼びかけようとして、ナタリーは口を閉ざす。その時、ふと思い出したのは、彼が戦爭で重傷を負った際のことだ。寢言だったが、ナタリーの名前を無意識に呼んでいた彼の姿がそこにはあって。
(私だけが、呼べないのなんて――過去に囚われているなんて……そんなのは)
――いやだ。
「ユリウスっ!あなたは、どうなのですか……!」
「っ……」
「魔力暴走や過去のこと、あなたが言いづらそうにしている事実は関係ありませんわ!私が焦がれているのは、今のあなたなのです。だから――」
(……私は過去の彼を含めて、すべてをすることはできない。けれども、ひたむきで不用な優しい彼を――)
「だから……今のあなたの気持ちを、私は知りたいのです……!」
ナタリーのアメジストを思わせる瞳が、ユリウスの姿を捉える。真っすぐな瞳に抜かれたユリウスは口を震わせ、はくはくと音が出ない聲を上げた。
數秒、數分――まるで時が止まったかのように、互いを無言で見つめあっていれば、ユリウスが絞り出すように聲をあげ。
「俺は――……」
そう言葉を紡いだのち、赤く輝く瞳からツーっと滴が流れる。そのまま、再び口をかし――。
「君と……っ、一緒にいたい……そばに、居たいんだ」
そう告げたユリウスの瞳は、熱を帯びていた。そして。
「ナタリー、君を……している」
堪えきれずに涙を流しながらも、ユリウスはナタリーに語り掛けた。
そうしてユリウスの言葉をじっと聞いたのち、ナタリーは自然と彼の頬に手をばす。リアムにした時と同じく、赤い瞳からこぼれる滴をそっと指で優しくぬぐった。
ナタリーが膝立ちをしているため、下にある彼の顔を見て涙を拭いていたはずだった。
なのに、ぽたりと……また彼の頬に水滴がついてしまっていることに、疑問をじていると。ユリウスの瞳がまんまるく、ナタリーを見つめていることに気が付く。
彼が「大丈夫か?」と心配そうに気遣う中、ナタリーは自然と笑みがこぼれていて。
「ふふ、家族揃って――泣き蟲さんが多かったんですのね」
そう明るく言うナタリー自の目からも、ぽろぽろと涙が流れていたのだ。ユリウスは、ナタリーと視線を合わせながらも、事態を飲み込むのに必死な様子だった。加えて、なにやら歯がゆそうな表をしていた。
というのも、ユリウスに巻き付く黒いよどみが彼の上半にまで浸食を始め――地面で姿勢を支えていた彼の手を、い留めるように拘束していたのだ。
ユリウスの様子に気が付いたナタリーは、痛ましそうに眉をひそめてから……ふと、辺りを窺う。すると、周辺がまた暗くなりつつあることが分かり――ナタリーは意を決するように、ユリウスの肩に置いていた手にきゅっと力をれ。
「共に、ここから出ましょう」
「そ、れは……」
ユリウスに言葉をかければ、彼はその容に戸いを見せていることが分かった。きっと、自の魔力暴走で迷をかけていると自責をじているのかもしれない。
そんな彼に、ナタリーは「大丈夫です。私を、信じてください」と言葉をかける。そして、続けて。
「あっ!それと……お返事がまだでしたね?」
「え?」
「私も――」
ナタリーは自の瞳からこぼれる涙を気にせず、らかな笑みを浮かべた。そのまま癒しの魔法をかけるため、中にある魔力を集めたのち――手に力を込めながら……ユリウスの顔に近づき。
「あなたを、しております」
そう言葉を紡ぐとナタリーは瞳を閉じ、ユリウスのに――自のでれた。
手だけではなく、全で魔法を発するかのように……ユリウスのへ自の魔法を注いだ。
ユリウスの魔力暴走が、抗うように反発をしてきてピリピリとした違和や……熱いほどの火傷にも似た痛みを起こす。しかし、どれほど痛くとも――ナタリーは決してユリウスから離れなかった。
そしてナタリーの脳裏には、いくつもの思い出が再生される。
――自分が怪我しようとも、私を、家族を守ってくれた姿
――私が悲しまないようにしてくれた、不用な優しさ
――屈託のない彼の……笑顔
確かに、怖くて距離をとっていた時もあった。
しかし今思い出すのは、ユリウスとの溫かい日々で、そのすべてが。
(とても、おしいの)
ナタリーの中でも、いつの間にか……こうもユリウスの存在が大切になっていて――そんな彼を死なせたくない、そう強く思うのだ。
『いい?後悔をしない気持ちを大切にしなさいね』
(お母様、私――後悔はありませんわ……!)
ナタリーの背中を押してくれるように、出かける時に聞いたお母様の言葉が、脳で思い出された。自分の気持ちを確かめて、さらににある魔力をかき集める。
そして抗うユリウスの魔力へ、癒しの魔法を一杯かけ続けた。
――ビュンッ。
大きな風が辺りに吹き荒れる――そんな音が聞こえた。おそらく、ユリウスの魔力とナタリーの魔法が反発しあっているからこそ、起こっているのかもしれない。
その風と共に、縄が引きちぎれる音も響き始める。
しかし、あまりの強い風にナタリーが勢を崩してしまいそうになる。そんな時、ぎゅっとナタリーのを支えてくれる――逞しい腕のに気が付いた。
きっと風によって、ユリウスの手を拘束していた縄が消えたのだろう。彼の支えをじて……大丈夫だ、とナタリーは自分に喝をれ、さらに魔法を強めていく。
すると同時に、ナタリーの頭に熱がこもる。そこから――全が熱くなった、その瞬間。
まるで煌煌と輝く太の如く……ナタリーの手からは、大きなが生まれた。
それは、まぶたを閉じているナタリーにもわかるほどのまばゆいとなり、暗くなっていた辺りをかき消すように包み込んだ――。
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