《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》83

フランツから話を聞き――ナタリーはエドワードの即位に明るい気持ちになった。というのも……きっと彼なら賢王になり、國をちゃんと導いてくれるだとじたから。それと彼が前へ進みだしたじがして――。

『しかものう……エドワードからナタリー嬢への言伝を頼まれているんじゃ』

『そ、そうなのですか⁉』

『うむ。どうやら、即位に向けてエドワードは忙しいようでのう……。まあ、分を明かさなかったこともあって……わしが伝書鳩を申し出たとでもいうのかもしれんがのう……ほっほっほ』

『ま、まあ……』

ナタリーが驚いた表をしている中、フランツは服の元に手をれて小さな紙を取り出す。おそらく、限られた時間の中でエドワードがナタリーに向けて書いてくれた言葉なのだ。よく耳をすまして聞こうと、集中していると。

『なになに……おしゃべりなフランツが、言ったかもしれないけれど――むっ!失敬な!わしほど、靜かな醫者はおらんだろうに……』

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『ほ、ほほ……』

『遮ってしもうてすまんのう……続きは――まずは、無事に帰って來れたこと、本當に良かった。君は無茶をしがちだからね……ゆっくりと休むように』

はじめのおどけた口調から、真面目な雰囲気に変わってフランツは言伝の容を読む。どうやら、フランツの分を知った上でもエドワードとフランツは友人としてうまく関係を築けているのだろう。

『手紙みたいに長々と書くわけにはいかないから――端的に話すね。優しい君は、王城での滯在に僕の計らいがあると、気遣ってしまうかもと思ってね』

『……っ!』

『変に気遣って、うまく休めないのは本末転倒だよ。しかし……お禮はいらないと言っても君は気にしそうだね』

言伝の容に、ナタリーは目を大きく開く。エドワードはどこまで先回りして、考えているのか……彼の機転に尊敬をじながらも、疲れさせてしまっていないか心配になってしまう。しかしそうしたところも、エドワードにはお見通しなのかもしれないのだが。

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『だから、お禮に代わって……年に一度くらいでいいから、手紙を送ってくれないかい?』

『え?』

『嬉しい報せや普段の日常、そういったことを送ってほしいんだ。王位を継承して、君に滅多に會えなくとも――君が元気にしている姿が分かれば、僕も安心するからね』

『……っ!』

『君の手紙を楽しみに待っている――エドワード……だそうじゃ』

エドワードからの言伝を読んだフランツは、『ほっほっほ』と笑う。そして一拍置いてから、『ナタリー嬢はちょーっとばかし、重い“友人”がおるようじゃな』と軽口を言った。それに対してナタリーは、フランツを優しく見つめ。

『ええ、ですが――手紙を書いて、心配な彼を安心させたいと思いますわ』

『そうか、そうか……王城は広すぎるからのう……きっと心の支えにもなるわい』

言伝からじるエドワードの優しさに、ナタリーが笑みをこぼしていれば――フランツが先ほどと雰囲気を変え、『伝えねば、ならんことがあるんじゃ』と暗い聲を上げた。

『わしと、王城におる醫師たちが診た結果――ユリウスの魔力そのものが、違う魔力へ変容しておった……ファングレーの魔力ではないユリウスは、もう魔力暴走は起こらないじゃろう』

『まぁ!そうなのですね……!良かった……』

『しかしな……ナタリー嬢、ユリウスに注いだ――お主の魔力はもう、戻らないんじゃ……すっかりと、消えてしまったようで、の』

『そう、ですか……』

フランツが言った事実に、嬉しいと何とも言えないが混ざる。ユリウスの魔力暴走がもう起こらないことは、喜ばしく自分のことのように嬉しく思った。一方で、なんとなく分かってはいたものの、あらためて癒しの魔法が使えないことに――切なさもじたのだ。

(でも悔いが無いようにと――私が決めたことなのだから)

ナタリーはフランツの言葉を聞き、一瞬いろんながないまぜになったものの、自分の意思を思い出し――気持ちを切り替える。そして、フランツに聲をかけようと思った時。

『ナタリー嬢、すまんかったな……』

『……え?』

分を隠していたこともそうじゃが、セントシュバルツの事に……巻き込んでしまって』

そう言葉を告げるとフランツは頭を下げて、謝った。フランツが言うには、ファングレー家はセントシュバルツで化けという扱いをけていたこと、そして魔力暴走をした暁にはフリックシュタインに管理を任せる約束があったということだった。

加えてフランツ自、どうにかしたいと思いつつも結局何もできずじまいで――歯がゆい思いをもっていたこと。

その思いを聞いたナタリーは、フランツが語った容にはじめ驚いていたが――言われてみれば、今までの狀況が彼の言葉を語っていることにも気が付いた。

だから、ことの大小よりも――先代といえども皇帝に頭を下げさせたままでいいのだろうか⁉と慌てふためいてしまう。すぐさま、口を開いて。

『フランツ様……! ど、どうか、お顔を上げてくださいまし……っ!』

『ナタリー嬢にばかり力をつかわせてしもうて……』

『いいえっ! フランツ様っ!』

聲がかすれながらも、言葉を紡ぐフランツにナタリーは待ったをかけた。確かに、フランツには事実を隠されていたのかもしれない――が、それは國の機事項であったりして、おいそれとナタリーに教えることはできなかった可能が高い。

そうした仕方のない事よりも、ナタリーの気持ちで一番を占めているのは――。

『私、ずっとんなものを引きずってばかりだったんです』

『……』

『ですが、今回のことで――もちろん、魔法が使えなくなることに切なさはじますが……私はやっと、今へ進めた気がするのです』

『ナタリー嬢……』

『だから、フランツ様が悔やむ必要はありませんわ』

ナタリーはそう言うと、花が咲いたように笑った。するとその笑みをみたフランツが、『ほっほ……ナタリー嬢は、本當に眩しく、しい方じゃ』とらかい口調で言葉を紡いだ。

『ありがとうのう……』

『ふふ、フランツ様の笑顔に……よく助けられましたから』

ナタリーはフランツを見て、過去と今のフランツにがいっぱいになる。し懐かしさもじていれば、フランツはナタリーの言葉に対して嬉しそうに笑みを深めてから。

『ユリウスも、ナタリー嬢のおかげか――すっきりとした顔をしとってのう……』

『え……!かっ――ユリウス様は、もうお元気に?』

『うむ。むしろ力があまり余っているくらいにじるのう……』

診察のため、ユリウスのもとへ訪れた際の様子をフランツは語ってくれた。ナタリーはまだ、魔法が使えなくなるという――急激な質変化があったために、回復に専念しなければならないと診斷をけている。

しかしユリウスは、ナタリーを運ぶほどに力があったことも関係し、治りが早いのかもしれない。ユリウスの近況を聞いて、ホッとしている中。

『あっ、そうじゃ……もう一ついいニュースがあってのう』

『え!なんでしょうか……?』

『セントシュバルツでは、ファングレー前公爵夫人の不祥事もあって……家をもとに戻してやることはできんかったんじゃが――戦爭の功ということで、フリックシュタインがのう……ユリウスに爵位授けることになったんじゃ!』

『まあ……!』

フランツから聞いたのは、「一代限りの爵位だが、公爵としての分が確立される」とのことだった。國に差し押さえられていたファングレー家の財産も、ユリウスに戻ってくる手筈なのだと説明してくれた。そして最後にぼそっと。

『権力ばかりで――堅苦しいあの國よりも、きっとここのほうが暮らしやすいからのう』

『え?』

『いやのう、やはり退いたじゃから――こういった手配しかできんが、きっとユリウスなら実力で認められて……一代限りの制限を突破できるじゃろうよ』

最初の言葉は聞こえなかったが、フランツがユリウスのためにいてくれたことに理解がいく。ほがらかに笑うフランツを見ると――エドワードだけでなく、ユリウスに対しても家族の溫かさを思わせる笑みだとじた。

『あっ、そういえば!話は変わるんじゃが……最近、自分を磨こうと思っての、容に気を遣い始めたんじゃ』

『ま、まあ……!』

『麗しいナタリー嬢の前では、男前でいたいと思ってのぅ……つい、頑張ってしもうたんじゃ』

『ふふっ、確かにフランツ様のおの調子……良いじがしますわ』

『ほっほっほ。そうじゃろう?』

暗い聲からいつもの調子を取り戻したフランツは、ナタリーと明るく話し続け、そんなフランツの様子に、ナタリーはらかくほほ笑みかえしていた。そうしてその日は、待つのに痺れを切らしたマルクが迎えに來るまでの間、フランツと會話に花を咲かせていたのであった。

◇◆◇

時は王城の靜養が終わり、二か月たった――フランツが定期的な診察に來た日に戻る。

ペティグリュー家の自室で、ナタリーはソファに腰かけながら――王城でお見舞いに來てくれたフランツを思い出し、つい「ふふっ」と笑みをこぼしてしまう。

すると定期的な診察を終え、「もう、これでは萬全じゃな」と話し始めていたフランツがナタリーを見つめ。

「何かいいことでもあったのかのぅ?」

「つい王城でのフランツ様の笑顔を思い出しまして、明るい気持ちになりましたの」

「ほう!そうだったか……! いや~いくつになっても、褒められると嬉しいのぅ」

「ふふっ」

軽快なフランツと笑いあっていれば、何かを思い出したようにフランツがナタリーに聲をかける。

「そうじゃった、そうじゃった!」

「……?」

「招待狀を送ってくれてありがとうのう、もちろん出席するぞ……!」

はじめ、フランツが何を話すのか分からなかったが――「招待狀」と聞いてピンときた。「ああ! ちゃんと屆いたようで良かったですわ…!」とナタリーは言葉を紡ぎながら、先週に送ったもののことを思い出す。それは――。

「しかし……ナタリー嬢が結婚してしまうのは、嬉しくもあり……はぁ、“ユリウス公爵様”がうらやましいのぅ……」

ナタリーとユリウスが結婚式を挙げる招待狀のことだった。実はナタリーの調を考慮して組まれた日程が……もう、すぐそこまで迫っていて――。

しみじみと聲を出したフランツと相対しながら、ナタリーは……現在に至る日までが“あっという間だった”と頭の中で振り返っていた。

そして本日の診察、そして會話が一通り終わったことで、帰りの支度をするフランツを見送ろうと思い……屋敷の玄関まで、一緒に歩く。

その帰り際、フランツはナタリーに「式、楽しみにしておるからの!」と聲をかけ、颯爽と馬車に乗っていった。

フランツとの別れの挨拶をしたのち、迫る結婚式へと気持ちが集中し――それがきっかけで――。

今でも鮮明に覚えている……彼のプロポーズのことに、ナタリーは意識が向かっていくのであった。

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