《【二章開始】騎士好き聖は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】》67.リックさんのお師匠様

隣國にり王都の街まで來ると、馬車から降りて歩くことになった。

大通りは人も多く、とても賑わっているけれど、し離れると落ち著いた雰囲気だった。

私たちは隣國の王子とその一行だということがばれないよう、平民の格好に変裝している。

それでも騎士団に所屬している皆さんは、どう見てもただの平民(・・・・・)には見えないのだけど。

大魔導師様のところへ案するため、裏通りを進んで行くリックさんに続く私たち。

「シベルちゃん、俺の手を離さないでね」

「……はい!」

珍しさにきょろきょろしていた私に、レオさんがそう耳打ちしてぎゅっと手を握った。

リックさんの話によると、裏通りには酒場や娼館などがあり、私のような土地勘のないが迷子になると、危険な目に遭う可能もあるとのことだった。

この國の治安はいいとはいえ、裏通りに行けばどうしても悪い人もいるらしい。

私にとっては魔よりも厄介かもしれない。

人気がなくなってくると、聞いていた通り怪しげなお店が増えてきた。

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レオさんの手を握りながらも、つい興味本位でなんのお店なのだろうかと視線を向けてしまう。

「あら。いい男。お兄さんたち、遊んでいかない?」

服なのか下著なのかもわからないような格好で、大きなをアピールするように聲をかけてくる

「わぁ……すごい」

「……シベルちゃん」

「はい……!」

この中の誰よりも興味津々でそのを見ていたら、咳払いをしたレオさんにくいっと手を引かれてはっと姿勢を正す。

もうし歩くと、じろじろとこちらを窺ってくる怖い雰囲気の男も出てきた。

さすがに目を逸らしてを強張らせた私の耳元で、レオさんが優しく囁いてくれる。

「大丈夫だよ。俺たちがいる」

「はい……」

そうよ、大丈夫……。レオさんもミルコさんたちもいるし……。大丈夫大丈夫……!!

「こっちです」

慣れた様子で堂々と歩くリックさんに続いて、晝間なのに薄暗い路地を抜けると、しだけ明るい道に出た。

先ほどのような怪しい人はいないみたい。

「あの店ですよ」

リックさんが見つめた先にあるのは、外観だけではなんのお店かわからない古びた大きな建

「ここは、なんのお店ですか?」

「魔導を扱っている店だ。師匠はここにいる」

確かに、この建からは今までじたことのないような、強い力をじる。

おそらくだけど、結界のようなものを張っているのではないかと思う。魔はもちろん、悪意のある人間も寄せ付けないのかも。

けれどリックさんは簡単にお店の扉を開いた。

その背中に続いて中にると、奧に背の高い男が一人。

「師匠!」

薄く青みがかったし長めの白髪を後ろで束ねているその男が、リックさんの呼びかけにこちらを向いた。金の瞳が鋭くて、隙がない。

年齢は……レオさんより十歳は上のように思うけど……整った顎髭に、厳つい顔つきの、とてもダンディな方。

それに、魔導師のはずだけど、なんだか格がよくないですか……?

「おお、リック! 久しぶりだな、戻っていたのか。元気だったか?」

「ええ、一時的にですが。師匠に會いに來ました」

「ははは、そうか。嬉しいことを言ってくれるじゃないか」

リックさんに気づくと、男は嬉しそうに笑いながらこちらに近づいてきた。

「そちらは?」

「國の友人たちです。皆、この人が俺の師匠の、ユルゲン・ヴァグナーさんだ」

「ほぉ。友人? リック、お前に友人がいたのか。それは驚いたな」

「師匠。酷いじゃないですか。俺だって友人くらいいますよ」

リックさんに紹介してもらったので私も名乗ろうと口を開いたけれど、先に二人の會話が始まってしまう。

とても仲がよさそうだ。

でも、それもそうか。リックさんは十二歳からの八年間も、この國に留學して魔法を學んでいたのだから。きっとお師匠様とも付き合いが長いのだろう。

「それで、今回は師匠に頼みたいことがあって來ました」

「なんだ? 小遣いでもほしいのか?」

「違いますよ……。魔法の鏡を一対、俺たちに作ってくれませんか?」

「……」

私たちを置いて會話が繰り広げられていたけれど、リックさんのその言葉にお師匠様の顔が変わる。

「はじめまして、シベルと申します。リックさんからヴァグナー様がとても素晴らしい大魔導師様だというお話を聞いております。私たちの國には魔法の鏡を作れるほど強い魔導師はおりません。どうかぜひ、魔法の鏡を作っていただけないでしょうか?」

會話が途切れた隙を逃さずに一歩前に出て、ヴァグナー様の金の瞳を見つめながら深く頭を下げる。

「私からもどうか、お願いします」

すると私の隣でレオさんも頭を下げたのをじた。

「……顔を上げてください」

溜め息じりに響いた言葉に、私とレオさんは顔を上げてヴァグナー様を見つめる。

「リック、お前、隨分出世したんだなぁ」

「え?」

リックさんは確かにとても優秀な騎士様だけど、今それは関係ないような気がする。

「そっちの黒髪はレオポルト殿下だろう。ってことはこっちのねぇちゃんは聖か」

「……!」

と、思ったら、どうやら関係あったらしい。

私たちが王子と聖だということが、一瞬でばれてしまった……。

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