《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》幕間 首都イースヴェルム 03
午後のティーパーティーの會場は、タウンハウスの中で一番日當たりのいい居間(パーラー)だ。
そこにブレイディ男爵夫人に連れられてやってきたアイクは、初対面の時と違ってちゃんとした家の子供に見えた。
「本日はお招き頂きありがとうございます、セネット伯爵夫人」
まずブレイディ男爵夫人が挨拶してきた。それにアイクも続く。
「お久しぶりです、ネリー様。何も覚えていらっしゃらないと聞きましたから、初めましてと申し上げるべきかも知れませんけれど……」
まともで禮儀正しいアイクの態度にネリーはぽかんと呆気に取られた。
本當にこの子はアイクなのだろうか。ネリーはまじまじと目の前に著席した年を観察する。
「ネリー、もしかして何か思い出したの?」
母に尋ねられて、ネリーは慌ててアイクから目をそらした。
「いいえ……不躾な視線を向けて申し訳ありません」
ネリーはアイクに向かって頭を下げると席に著いた。
全員が著席するのを確認してから中(メイド)がお茶とお菓子の準備を始める。
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「今日のお茶は、先日ブレイディ商會に納品して頂いたものなんですよ」
ネリーの母がブレイディ男爵夫人に聲をかけた。ブレイディ男爵家はこの國有數の大商會の経営者だ。ほとんどの貴族がその顧客となっている。
「いつもお買い上げありがとうございます」
ブレイディ男爵夫人は嬉しそうに微笑んで答える。親同士の會話からティーパーティーは始まった。
「……攫われたと言っても人攫いの一味は裏の世界では有名な業者で、監察の方々からのご説明通り、子供たちの扱いは比較的まともだったようです。ですから安心なさって」
「本當に……?」
「そうよね、アイク」
「はい。食事はきちんと與えられていましたし衛生面にも問題はなかったです。……トリンガム侯爵がしがっていたのは健康狀態の良好な人間だったようなので、連中のボス格の老婆は価値が下がるから丁重に扱うようにと手下に何度も言っていました」
母に促されるままに攫われた時の様子を話すアイクは、け答えがしっかりしていて、やっぱり別の人みたいだった。
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暴で意地悪だったアイクは一どこに行ったのだろう。
記憶喪失かつ神的に不安定という演技中なので、ネリーは黙りこくってひたすら聞き役に徹しながらアイクの様子をこっそりと観察した。
「ねえネリー、アイク君の事が気になるのなら、二人でお話してみたら? 記憶が戻るきっかけになるかもしれないわ」
母の提案に、ネリーはびくりとを震わせた。
「気持ちがまだ安定していらっしゃらないのでしょう? あまり無理なさらない方が……」
「いえ……大丈夫だと思います。アイク……くん、よろしかったら溫室に行きませんか?」
「ネリー様がよろしければ是非。それと、僕の事はアイクでいいです。以前のネリー様はもっと砕けた話し方をされていましたから、何だかくすぐったくじます」
「わかりました。では私の事もただネリーとお呼びください」
アイクの提案はネリーとしてもむところだった。馬車の中で散々突っかかってきた相手に敬稱を使うのは気持ち悪いと思っていたのだ。
席を立つと、紳士を気取っているのかアイクが手を差し出してきた。ネリーはためらいながらもその手を取ると、溫室へとアイクをった。
この國はガラス工蕓が盛んなので、邸宅に贅を凝らしたガラス張りの溫室を持つのは上流階級のステイタスになっている。
セネット伯爵家もその例にれず、贅を凝らした溫室を建てて易商から買い付けた南國の植を育てていた。その中にはいくつかブレイディ商會から仕れたものもあるはずだ。
「ネリー、本當に何も覚えてないのか……?」
溫室にるなりアイクから砕けた口調で聲を掛けられて、ネリーは大きく目を見開いた。
「…………」
本當は違う、と言いたかったが、マイアを守るためにはここでボロを出す訳にはいかない。ネリーは悄然とした表を作って沈黙する。
「……伯爵家のご令嬢に対して失禮な言いをしました。どうかお許しください。……でもネリー、僕で役に立てるのなら、いつでも呼んでくれていいからな……?」
痛々しいものを見る目でそんな言葉をかけられて、ネリーは呆然とアイクを見つめた。
◆ ◆ ◆
同時刻――。
ヒースクリフ城の謁見室を出たグローサー宮中伯は、自分を待ち構えるように立っていた金髪の青年の姿に足を止めた。
「アベル殿下……?」
疑問形になったのは、グローサーの知るアベルの姿と隨分と面差しが変わっていたせいだ。
フライア王妃似の整った容貌は変わらないが、頬はこけ、目の下の隈が酷い。短期間の間に隨分とやつれてまるで病人のようだ。
マイアを失い、ティアラ・トリンガムにられていたことで塞ぎ込んでいるとは聞いていたが、これはかなり重癥だ。
「……父上にトリンガム事件の報告を?」
「はい」
アベルの質問にグローサーは頷いた。
グローサーが登城したのは、ネリー・セネットへの事聴取結果を國王に報告するためだ。
ネリー・セネットは、裏社會の人売買業者に攫われ、トリンガム侯爵領に売られた拐事件の被害者の一人だが、神作魔をけた事による後癥が出ており、いまだにろくな証言が得られていない事から、イーダル三世の指示で慎重に様子を見守っているところだ。
しかし訪問の度にセネット伯爵家の心証が悪くなっているのがわかるので、グローサーとしても職務とは言え気が重くなる。ネリーは自分の末の娘と同じ歳なので猶更だ。
今日も大した収穫は得られなかったが、トリンガム事件については、どんな些細な事でも逐一國王に報告をれる事になっている。この事件についてはそれだけ國王の関心が高い。恐らく聖であるマイア・モーランドの失蹤が関わっているせいだろう。
「……マイアが生きている可能が高いと聞いた。すまないが私にも捜査の狀況を教えてもらえないだろうか」
アベルの言葉にグローサーは出待ちの理由を悟った。
マイア生存の可能はアベル王子には伏せられていたはずだが、どこかで聞きつけたらしい。
「まずは陛下に許可をお取りください。守義務がございますので許可がなければ私は何も申し上げられません」
「……そうか……それもそうだな。そんな簡単な事にも思い至らないとは……どうも思考が鈍っているようだ」
そうつぶやいたアベルの顔は憔悴しきっている。
國王も目の前のアベル王子も愚かだ。いなくなってこんなにも騒ぐのなら、もっとマイアの事を気にかけて大切に扱うべきだったのに。
トリンガム侯爵領で目撃された、『赤茶の髪の魔力保持者』の足取りを追う中で、グローサーはそのはマイアだと心の中で確信していた。
そして、事件の全容を解明するためにマイアの事を調べて、彼が出自のせいで隨分と軽く扱われていたことを知った。
ティアラの排斥から、そして人売買業者の魔の手から無事逃れたと思われるにも関わらず、戻ってこない理由を考えると、この國での扱いが軽かったせいだとしか考えられない。
王には王の思がありマイアを平民に留めおいたようだがグローサーに言わせるとそれは悪手だ。
平民の聖であるマイアには、聖の中でかに汚れ仕事と呼ばれている面倒な患者の治療を押し付けられていた。しかしイーダル三世はそれを把握しておらず、グローサーの報告を聞いて絶句していた。
聖が詰める施療院の中は一種の治外法権地帯だ。またの世界はだ。かなり巧妙にこの事実は隠蔽されていたので一概に國王だけを責める訳にはいかないが、アベル王子とマイアがぎくしゃくしていた事は貴族の間では有名なので、やはり王家の責任は大きいという結論にならざるを得ない。
「……そもそもマイアが生きていたとしても、どんな顔をして會いに行けばいいのか」
アベルは小聲でつぶやくと、謁見室の扉を守る兵の元へと向かっていく。
その背中を見送り、グローサーは小さく息をついた。
6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)
「わたしと隣の和菓子さま」は、アルファポリスさま主催、第三回青春小説大賞の読者賞受賞作品「和菓子さま 剣士さま」を改題した作品です。 2022年6月15日(偶然にも6/16の「和菓子の日」の前日)に、KADOKAWA富士見L文庫さまより刊行されました。書籍版は、戀愛風味を足して大幅に加筆修正を行いました。 書籍発行記念で番外編を2本掲載します。 1本目「青い柿、青い心」(3話完結) 2本目「嵐を呼ぶ水無月」(全7話完結) ♢♢♢ 高三でようやく青春することができた慶子さんと和菓子屋の若旦那(?)との未知との遭遇な物語。 物語は三月から始まり、ひと月ごとの読み切りで進んで行きます。 和菓子に魅せられた女の子の目を通して、季節の和菓子(上生菓子)も出てきます。 また、剣道部での様子や、そこでの仲間とのあれこれも展開していきます。 番外編の主人公は、慶子とその周りの人たちです。 ※2021年4月 「前に進む、鈴木學君の三月」(鈴木學) ※2021年5月 「ハザクラ、ハザクラ、桜餅」(柏木伸二郎 慶子父) ※2021年5月 「餡子嫌いの若鮎」(田中那美 學の実母) ※2021年6月 「青い柿 青い心」(呉田充 學と因縁のある剣道部の先輩) ※2021年6月「嵐を呼ぶ水無月」(慶子の大學生編& 學のミニミニ京都レポート)
8 193人類最後の発明品は超知能AGIでした
「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
8 81【書籍化&コミカライズ】偽聖女と虐げられた公爵令嬢は二度目の人生は復讐に生きる【本編完結】
【秋田書店様 どこでもヤングチャンピオン様にてコミカライズ連載中】 【2022年 7月 ベリーズファンタジー様にて書籍発売】 「婚約破棄だ!!!」 好きな男性と無理矢理引き離されて、婚約したはずだった第一王子に公爵令嬢リシェルは一方的に婚約を破棄される。 無実の罪を押し付けられて。 リシェルには本來別の婚約者がいた。 心に決めた婚約者が。 けれど少女リシェルに、「聖女」の神託が降り、彼女の人生の歯車は大きく狂ってしまう。 無理矢理愛しい人との婚約を解消され第一王子ガルシャの婚約者とされてしまうのだ。 それなのに現実は殘酷で。 リシェルは聖女の力を使えず、聖女の力が使える少女マリアが現れてしまった。 リシェルは偽聖女の烙印を押され、理不盡な扱いを受けることになるのだ。 愛しい人を聖女マリアに奪われ。 マリアと王子の失策を背負わされ拷問に近い暴力の末。 親しい人たちとともにリシェルは斷頭臺へと送られ殺される。 罪狀らしい罪狀のないまま執行される死刑に。 リシェルは誓う。 悪魔に魂を売ってでも怨霊となり末代まで祟をーーと。 ※番外編はじめました→https://ncode.syosetu.com/n2164fv/ 【注意】以下ネタバレです【物語の核心ネタバレ注意】 ※よくある逆行もの。前世の知識で俺tueeeのご都合主義テンプレ。 ※ざまぁもありますが主軸は一人で何でも背負ってしまうヒロインがヒーローに心を開いていく過程の戀愛です ※人を頼る術を知らなかった少女がヒーローと出會い人に頼る勇気をもち、今世では復讐を果たすお話 ※10萬字ちょっとで完結予定 ※アルファポリス様にも投稿しています
8 84闇墮ち聖女の戀物語~病んだ聖女はどんな手を使ってでも黒騎士を己のモノにすると決めました~
闇墮ちした聖女の(ヤンデレ)戀物語______ 世界の半分が瘴気に染まる。瘴気に囚われたが最後、人を狂わせ死へと追いやる呪いの霧。霧は徐々に殘りの大陸へと拡大していく。しかし魔力量の高い者だけが瘴気に抗える事が可能であった。聖女は霧の原因を突き止めるべく瘴気內部へと調査に出るが_______ 『私は.....抗って見せます...世界に安寧を齎すまではッ...!』 _______________聖女もまた瘴気に苛まれてしまう。そして黒騎士へと募る想いが瘴気による後押しで爆発してしまい_____ 『あぁ.....死んでしまうとは情けない.....逃しませんよ?』
8 69女神の加護を持つ死神
主人公は女神に、自分の知らぬ間になってしまった神が掛かってしまう持病を治すさせるため異世界へと転移させられる……はずだった。 主人公は何故か異世界へ行く前に、神の中でも〝最強〟と言われている神の試練を受けることになってしまう。その試練の間で3人(のじゃロリババアと巨乳ロリと人工知能)を仲間に迎えることとなる。 仲間と一緒にさあ異世界という気持ちで行った異世界では、先に來ていた勇者の所為でほとんど地球と変わらないという現実を見せられてしまう。 女神には「魔王とか魔神とかいるけどー、勇者いるし倒さなくて良いよー」という感じで言われていたので、〝最強〟の神へと成り上がった主人公には満足出來る様な戦闘という戦闘は起きない。 ーーそして思ってしまった。 「もう好き勝手にやっちゃって良いよな」と。 それで生まれてしまった。 ーー後に死を司る〝黒の死神〟と言われることに ※現在不定期更新中です
8 143(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
「お前、ここで働かないか?」 その一言で働くことになった俺。喫茶店のスタッフは、なんと二人ともドラゴンが人間になった姿だった。なぜかは知らないが、二人はメイド服を著て喫茶店をしている。なし崩し的に俺も働くことになったのだがここにやってくる客は珍しい客だらけ。異世界の勇者だったり毎日の仕事をつらいと思うサラリーマン、それに……魔王とか。まあ、いろいろな客がやってくるけれど、このお店のおもてなしはピカイチ。たとえどんな客がやってきても笑顔を絶やさないし、笑顔を屆ける。それがこのお店のポリシーだから。 さて、今日も客がやってきたようだ。異世界唯一の、ドラゴンメイド喫茶に。 ※連作短編ですので、基本どこから読んでも楽しめるようになっています。(ただしエピソード8とエピソード9、エピソード13とエピソード14、エピソード27~29は一続きのストーリーです。) ※シーズン1:エピソード1~14、シーズン2:エピソード15~29、シーズン3:エピソード30~ ※タイトルを一部変更(~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~を追加)しました。 ※2017年からツイッターで小説連載します。http://twitter.com/dragonmaidcafe 章の部分に登場した料理を記載しています。書かれてないときは、料理が出てないってことです。
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