《悪魔の証明 R2》第58話 042 ミハイル・ラルフ・ラインハルト(2)

「――明日はその布石よ。直接、乗り込んで宣戦布告してやるわ。正々堂々とね」両手でマグカップを囲みながら、レイがぽつりと呟く。「ミハイル、テレビでトゥルーマン教団の終わりの始まりをよく観ておきなさい」

「ああ、もちろんさ。計畫を知っていても、面白いものが観れそうだしね」

こくりと頷きながら、僕はそう言葉を返した。

その後、し間が空いた。

客がほとんどっていないせいか、誰の會話も聞こえてこない。ウェイターも暇なのか、ホールにはいないようだ。あまりに誰も音を立てないので、レイのコーヒーを啜る音が耳元まで屆いてくる。

「姉さんと仲直りしないのかい?」

靜寂が辺りを支配する中、唐突に尋ねた。

にはエリシナ・アスハラという腹違いの姉がいて、昔は僕が羨むくらい仲の良い間柄だった。

だが、あることを境に仲違いをして、まったく話さないどころか會うことさえなくなった。

その狀態が現在まで続き、もう長い間彼とエリシナは疎遠になっている。

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あの時、僕がもうし大人だったら、彼たちをサポートしてあげられたのに。

いつも、エリシナを思い出す度にそう思う。

稚だった自分にできることはほとんどなかったが、それでも何かできたのではないかという後悔が未だ僕のの中でわだかまりとして殘っている。

「何でいきなりエリシナの話を? 気分が悪いのだけれど」

目を極端に細めながら、レイが訊き返してくる。

「もういいんじゃないかな。何年になるんだい? 會わなくなって」

「知らない……知りたくもない。エリシナ姉さんのことなんか」

「強だね、レイ。お互い、いい歳なんだし。エリシナさんだって君に會いたいと思っているさ。それに、もう時効に近いんじゃないのか。僕にしても、彼とは隨分と會っていないし、たまにはさ」

諭すかのように言葉を選んで言った。

僕は軽く記憶を遡った。

最後に彼の顔を見たのは、いつのことだったろうか。

確かレイが會いにきたエリシナに斷りをれるため、僕を使った時だ。その時のエリシナは、凄く悲しそうな目をしていた。

々取り繕ったが、事実は変わらない。結局たいしたことも言えず、その場は終わることになった。

エリシナが肩を落としながら去っていく姿を見て、いたたまれないという言葉の本當の意味を初めて知った気がした。

レイの手前僕も長い間會いに行かなかったが、もうそろそろ僕が介しても良い頃合いかもしれない。

「そんなことより……」

エリシナの話題を変えようとしてか、レイが會話を変節させる。

その言葉を聞いた僕は、大きくため息をついた。

この分だとまだまだ時間がかかりそうだ。

もう気が遠くなるほど、彼たちは無視と言う喧嘩を続けている。本當は嫌いあっているわけじゃないだろうに。どれだけ関係の修復に時間をかけたら気が済むのだろうか。

にも似た気持ちで呆れ果てながら、僕は頭を軽く振った。

「Xデーがくるまで、お願いだから大人しくしておいてね。トゥルーマン教団やラインハルト社に、今あなたがいていると勘づかれるのは、とてもやっかいだわ」

レイは臺詞の先を続けた。

「その點は大丈夫さ」

を安心させようと、軽いじで返事をした。

エリシナの件はまた後日にしようと思いながら、テーブルの上にマグカップを置く。

「今から父さんに會ってくるよ。久々に僕の顔を見たいらしくてね。あんな人でも、いざ子供の事となれば話は違う。だから、ラインハルト社については問題ないよ。父さんも僕のことは微塵も疑っちゃいないさ」

そう告げてから、僕は席を立った。

「そう――とにかく、には気をつけてね。やつらはとても危険だわ。注意し過ぎてし過ぎることはない」

レイが吐息をつきながら、忠告してくる。

の臺詞に、僕はし目を丸くした。

今まで、彼にこのような心配をされたことはない。レイの意外な一面を見たような気がした。

「ああ、わかった」

こくりと頷いた僕は、テーブルにふたり分のコーヒー代を置いてを翻した。

そのまま振り返ることもなく、ローズマリアを後にした。

外に出ると、空はどんより曇っていた。

いつの間に……嫌な天気だな。

僕の眉間に自然と皺が寄る。

はすでになくなり、黒い雲が辺り一面を覆っていた。今にも雨が降り出しそうだった。

當然、傘なんて持ってきていない。

仕方がない――

來た道を小走りで橫に逸れ、一目散に路地へとった。

前方には細長いストレートの道があった。

し遠くに大きな道路が橫切っており、さらにその先にはラインハルトタワーがそびえ立っている。

その全面ガラス張りの巨大なビルを見上げた。

父、ランメル・カシアス・ラインハルトは、そのビルの頂點にある社長室にいる。

先をしっかりと見據えながら、人っ子ひとりいない道を進んで行く。両端にあるビル郡からは、まだ夕方にもなっていないというのに聲ひとつ聞こえてこなかった。

ようやく、大道路に差し掛かった。

ここでほっと一息つこうと、額へと手を持っていく。

だが、僕には流れ出た汗を拭う暇が與えられることはなかった。

キキッと車がカーブを曲がる音が聞こえたかと思うと、明のフロントガラスが目の前に現れた。

その向こう側には、白い仮面を被った男ふたりが座っていた。

こいつらは車に乗っている。

僕がそれに気がついた時には、すでに僕のは宙へと舞い上がっていた。

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