《悪魔の証明 R2》第60話 043 シロウ・ハイバラ(1)

「まずいな」

ぼそりと呟いてから、もう一度コンセントの差し込み口をのぞき込んだ。

コンセントの中はぽっかりとした空間になったまま。今朝確認した時にはあったものが綺麗さっぱりなくなっている。

やはり、盜聴は取り外されている。

そうで零し、コンセントから目を切った。

懐中電燈で腕時計を照らす。時間を確認してから、その場を立ち上った。

顔を左右しながら、部屋の中を確認する。

第六研の研究室は暗闇に包まれていた。周囲はしんとして、俺以外誰もいない。

おもむろに懐中電燈を前に向け、足音を立てないようアクセス・カウンターの裏側へと移した。

調査を続けるのであれば、第六件のメンバーがいない今しかない。そう判斷した。

演臺に取り付けていた盜聴の位置を確認する。

「ここもない」

頭を軽く振りながら、聲を零した。

それからも部屋中くまなく探索したが、仕掛けた盜聴はやはりすべて取り外されていた。

「しまったな。完全に気がつかれた」

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部屋の中央に戻った俺は、また獨り言を述べた。

まさか、俺がスピキオのスパイということもバレたのか?

突如として、嫌な予が脳裏を過った。瞬時に心臓が高鳴る。

「いや、それはない」

と、すぐに首を橫に振った。

確かに、スパイがいるのではないかという疑いくらいは持っているだろう。

だが、その疑が即自分につながるというわけではない。辺には十分注意を払ってきたし、盜聴に至っては手経路さえ追えないはずだ。

そう考えると、當面俺の正については問題はない。

「とにかく、この場にいてはまずいな」

小聲で囁いてから、出口へとを向けた。

そして、歩き出そうとした矢先のことだった。

いきなり部屋の照明が點燈し、視界が眩いばかりのに包まれた。

「何だ? 何も見えない」

思わず、そう口走ってしまった。

鼻先に人の気配をじた。

それが誰のものかはわからないが、おそらくレイである可能は高い。

未だ聲をかけようとしてこないところを見ると、以前のように俺がひとりで何をしていたかし気になっているだけだろう。

それだけであれば、いくらでも誤魔化せる。

徐々に目が照明に慣れていく。

そして約一分後、ようやく人の顔が認識できるくらい視力が回復した。

目の前に立っていたのは、俺が想定していたレイではなかった。

「おい、こんなところで何をやっているんだ?」

その人に向け尋ねる。

「シロウこそ、こんなところで何をやっているの?」

か細い聲で訊き返してくる。

「俺が先に訊いたんだ。答えろ、ジゼル」

俺はその人の名を指しながら、返答を促した。

ジゼルは瞳をいつもの數倍潤ませていた。

「何で、シロウはいつもそうなの……」

と、聲を震わせながら言う。

そのジゼルの臺詞を合図とするかのように、彼の背後から、ミリア、ジョン・スミス、そしてレイが現れた。

不審になっている俺を目に、レイは前へと足を進める。他のメンバーを追い越すと、俺のの手前で立ち止まった。

「ハイバラ。あなたこそ、こんなところで何をしているのかしら」

薄い聲で確認してくる。

「え、いや……その」

急展開に頭がついていかず、しどろもどろになってしまった。

俺が応答に窮したとみるやレイは、「答えは簡単ね。あなたは第六研をスパイしていた。そして、私たちを裏切った。この罪は非常に重いわ。ええ、とても激しく、信じられないほどにね」と、自答した。

「な、何を仰っているのですか、先生。俺がそんなことをするわけがない。第一、そんな証拠がどこにあるというのですか」

捲し立てるようにそう返した。

額から脂ぎった汗が吹き出てくる。

それがおかしかったのか、レイが口元を軽く緩ませる。

「証拠? 証拠なんているのかしら。まるで、殺人犯が取り調べ室で言い訳しているようね。今のあなたの臺詞だけで、あなたがスパイであることは紛れもない事実であると私は思うのだけれど」

そう言うと、口から失笑をらす。

このレイの言葉に、俺の手は軽く震えた。

駄目だ、このままでは本當にスパイと斷定されてしまう。

気持ちを切り替え、言い訳の算段をする。

すぐに閃いた。

「証拠もないのに、俺を犯人扱いするとは先生らしくもない。これが法廷であれば、裁判にもならないじゃないですか。人権……人権侵害です。この神聖なる學舎でそのようなことが許されるとでも思っているんですか?」

「面倒臭い男ねえ。本當に面倒。素直に認めれば、話は早かったのだけれど」

そう言うと、レイはやんわりため息をつく。

「ですが、証拠はないんでしょう。それには変わりありません」

心が折れそうになりながらも、必死に言い張った。

「――誰も証拠はないなどとは言っていないわ。証拠なんているのかしら、とは言ったけれどもね。ひどく頭が悪い人間と話をすると疲れちゃうわね」

「し、証拠があるとは… …? そんなものがあるわけがない」

「もういいわ。ジゼル、やりなさい」

俺の心のびを無視して、レイがジゼルに何かを命令する。

だが、當のジゼルは、

「え、でも、シロウを……」

と、狼狽えるような聲をあげた。

その通りだ、ジゼル。おまえには俺しかいない。だから、いつもの通り俺を信じて、この窮地から俺を救うんだ。

俺のに希が一瞬宿った。

だが、それはすぐに打ち砕かれることになった。

ジョン・スミスがおもむろにこちらへと近づいてくる。

そして、ジゼルの背後辺りで立ち止まってから、

「ジゼル。さっきシロウがミリアのみくちゃにしながら、世界のは俺のものだって言ってたよ」

と、背中越しに悪魔の囁きをした。

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