《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-49:炎
一合、二合。
階段で刃をわす度に、僕とフレイの間に火花と金の魔力が散る。こちらは『黃金の炎』をまとい、相手はスキル<覚醒>のを帯びていた。
僕の短剣とフレイの剣が、何度も何度も打ち合う。
青い目が僕を抜いた。
「嵐旋(らんせん)」
スキル<剣士>による技。段差をものともせずに、フレイは攻め込んでくる。
段をなぞるように低い軌道の回転斬り。
僕は階段を下向きに跳んで回避する。低みに向けて転がった方が、より多く距離を稼げるから。
「雙散撃(そうさんげき)」
挾み込むような剣閃。右からの一刀を弾き、左からの追撃を低空を泳いでやり過ごす。
こちらも、踏み込み。
短剣を逆手に持ち替え突き上げる。フレイは剣でけ止めた。
「長した」
火花越しに笑いながら、フレイは力をこめる。
『黃金の炎』が僕を昂らせた。
「はぁ!」
強引に振り抜いた短剣がフレイの腕を切りつけ、相手は後ろへ逃れた。
僕らの間を風が吹き抜ける。階段の雪が舞い上がった。
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慎重に間合いを測る。相手はまだ上の段。
「……おかしいと思った」
僕は呼吸を落ち著け、言葉を放った。
「案役があなただなんて。ユミールは最初から、襲わせるつもりだった」
稼いだ時間で相手を観察して、有利な位置取りを探す。
これも學んだ駆け引きだ。
フレイは心外そうに眉を上げる。金髪が風になびいていた。
「ユミールの命令ではない。これは私の意思だ」
相手は剣を中段にして、構えに隙はない。でも僕はかすかな違和を覚えた。
僕もフレイも、以前とは――フローシアの時とは違う。
「心臓を私が手すれば、私はフレイヤについてより優位にユミールと渉できる」
しい微笑がかえって恐ろしい。自分の都合しか考えていないようで。
「……ルゥをどうする気なんだ?」
「私が宿っているこのと同じだ。スキルを喰らわれれば、持ち主は神を損ない、廃人になる。ルイシアのスキル<神子>がユミールに食われれば、ルイシアの心は失われ――代わりにフレイヤがあのので生き延びる」
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本當に怒った時って、かえって、頭が冷えていく。表が消えるのがわかった。
妹を、ルゥを、この男はれとしかみていない。
フレイは口の端を歪めて、懐から首飾りを――ブリーシンガメンの首飾りを取り出して見せる。
「――勝手なことを」
「ならば君が勝てばいい」
挑発するように、フレイは剣を揺らした。
「心臓を守り、神(ブリーシンガメン)を奪え」
フレイが構えを変えた。中段から、上段に。
構えを変える瞬間は、無防備だ。
僕をう意図をじる。
でも今は――あえて乗れ!
「フレイ!」
呼びかけながら、短剣のクリスタルにスキルを使う。
起きて!
「目覚ましっ」
フレイの真下の段から、僕は風の霊(シルフ)を起き上がらせた。短剣から緑のが散って、突風が雪を巻き上げフレイに襲い掛かる。
「ちっ」
フレイは橫へ跳んだ。追撃。
『黃金の炎』に任せて、間合いの自由を許さない。
「なんで、ルゥを殺すんだ」
「なに」
「フレイヤもルゥも、両方を助けられる方法があったかもしれないのに」
フレイはせせら笑った。
「前も言ったな。片方を手にするためには、もう片方を押しのけねばならんものだ」
フローシアでも言われたことだった。何かを手にれるためには、犠牲や覚悟だって要る。
「氷牙(ひょうが)」
飛來する斬撃には、氷の牙が無數に混じっていた。
をひねって回避。冷たい薄刃が頬を裂く。
「リオン。君も、別の世界へ逃げるか、それともこうして戦うかを選ばされたはずだ。片方を選んだ結果、今がある」
「そうだね。でも……僕はわがままだから」
風が吹いた瞬間、気配を殺して接近。
橫合いからの一閃を、フレイの剣が防ぐ。甲高い金屬音が鳴り響いた。
「ルゥも、世界も、取り返す」
背後から喚聲が起きた。
冒険者達が魔の軍勢とぶつかったんだ。階段の下でも戦いが始まっている。
靜かだった雪原に、決戦の音が満ち始めた。
フレイはし目を細めて、僕を見下ろす。僕は、フレイの肩が上下していることに気が付いた。
「……フレイヤは、あなたにも、生きて帰ってきてほしいはずだ」
ユミールや魔達が深手を負っていたように。
この男だけが無傷でいるはずがない。最初はフローシアと変わらないほどの強さにじたけれど、打ち合えば打ち合うほど、この神に刻まれたダメージがわかった。
そして、僕はレベルが――35に上昇している。
僕が得た強さと、フレイの傷。
それがフローシアとの決定的な違いだった。
「……君にわかるか」
暗い目付きのフレイが剣をだらりと下げる。
空気が、変わった。
「私と妹は、神として、數千年も一緒だった。守れない、弱い兄など兄ではない」
ゆらりと揺れたと思った瞬間、飛び込んでくる。
攻撃を短剣で弾くけど、相手の狙いがすぐにわかった。
上半に注意を向けさせ、いたのは、足――!
「足払い……!?」
泥臭い、冒険者みたいな戦い方。ニルスさんの戦法だ。
をひねってよける。バランスを崩す。
階段を転がる僕に、フレイが迫った。
「目覚ましっ」
籠手(ガントレット)から炎の霊(サラマンダー)を呼び出して、炎を放る。けどフレイはを伏せてかわし、起き上がりざま剣を振り上げた。
「竜斷撃(りゅうだんげき)」
魔力そのものを打ち付けるような、力任せの一撃。
砕けた石がを撃つ。なんとか立つけど、右のこめかみからが吹き出た。
「くっ」
立ち上がった時、目の端を何かが橫切った。
金の輝きに、僕は目で追ってしまう。
だって、ルゥを救うために絶対に必要になるものだったから。
神ブリーシンガメンの首飾り。
全にまとった『黃金の炎』が揺らいだ。気づいて、とぶみたいに。
「――!」
反的に構えた短剣。
飛び込んでくるフレイの刺突を、から肩口へと逸らす。焼けるような痛み。
びをに押し込めて睨みつけた。
「フレイ……!」
剣と短剣が打ち合い、鍔迫り合いになる。
――取り返せ!
僕を睨む目から、そんな意思が伝わってくる。
相手の力が、神様の想いがどんどん強くなる。
――取り返せ!
『黃金の炎』が燃え上がる。絶対に、敗けるわけにはいかない。
フレイはの夕焼けの迷宮で言っていた。
許せない、と。
間近に迫ったフレイの目に火が燃えていた。怒りとか、悲しさとか、そうしたあらゆるがないまぜになった炎だ。
フレイヤを利用したオーディンへの怒り。神々を襲った魔への怒り。そして、死をけれたフレイヤへの怒り。
家族を想う気持ちが、果てのない怒りへ変わり燃えている。
「う、く……!」
足を肩幅に開き、階段でしっかりと踏ん張る。
基本だ。
鍛錬で培ったものが、僕の背筋を支えてくれた。
じわりじわりと僕の短剣がフレイの剣を圧し始める。
「ぐ……」
フレイがよろめいて、後ろに下がった。
の奧から力が沸き上がる。神様の炎や、雪原で戦う仲間の聲が、の熱を冷まさせない。
黃金の炎は、決して消えない。
フレイはさらに下がった。剣が震えていく。
「私は、二度と……!」
フレイは唸った。
「失わない……!!」
フレイの魔力が高まるのをじた。
ぞくりとする。
王都の戦いで、魔が死力を盡くしたのを思い出した。フレイもまた、命をなげうってまで魔力を戦いに注ぎ込もうとしているのかもしれない。
「なんで、そこまでして……!」
フレイは言った。
「君と同じだ。優しい最強よ」
刃が悲鳴。僕は短剣を振り抜いた。
互いに弾き合い、間合いが開く。
フレイがんで切り込んできた。踏み出して、短剣をなぐ。
かすかなうめき。
相手は崩れて起き上がらない。からんからん、と剣が音を立てて大階段を転がった。
僕は<狩神の加護>で探知を行う。
どんな魔力も、かすかな息遣いさえも、フレイからはじない。目を見開き、橫向きに倒れたまま――息絶えていた。
おそらく、フレイは天界で深手を負った。の傷は癒せたとしても、失った魔力は戻らない。天界でソラーナ達がそうであるように。
そして心臓を取り戻すために、あるいは僕に勝つために、魔力を注ぎきってしまった。
「……そんなにまでして」
言葉がれた。
雪の中で、きらりとブリーシンガメンの首飾りが輝く。
僕はそれを拾い上げて、フレイの近くでかざした。
「大事にしなきゃ、だめですよ……」
この人は、強さを求めた。
でも、フレイヤ様がこの神をあなたに託したのは――オーディンにそう願ったのと同じように、『変わってほしい』という気持ちがあったからじゃないんだろうか。
だから、フレイは他の神様よりも早く目覚めた。
けど、フレイは――きっと耐えられなかったんだ。かつての僕と同様に、強さを求めた。
そうしなければ、失ったことに押しつぶされてしまっていたのだと思う。
フレイはもうかない。
炎のような人だった。自分さえ焼き盡くしてしまった。
涙が滲む。
「行きます」
王都での寒い日、もしルゥがいなかったら。あるいは、ソラーナと出會わなかったら。
僕もフレイのような気持ちになっていたかもしれない。
弱さを憎むことと、強さを求めることは、とても近い。
にまとった『黃金の炎』が揺れていた。神様もフレイの死をじているのだろうか。
「あなたのことは、忘れません」
危険はあるけど、そうすべきだと思えて、僕はフレイの手にブリーシンガメンの首飾りをしの間だけ握らせた。
見開いていた目を閉じてやる。
僕はフレイに背を向けて、雪に煙る階段をまた上り始めた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月6日(日)の予定です。
(1日、間が空きます)
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