《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》エピローグ

せっかくいい雰囲気だったのに、くしゃみが出てしまったのが悔やまれる。

ルカの助けを借りて宿の部屋に戻ってきたマイアは心の中で肩を落とした。

汚れた服も綺麗にしてもらったし、森で助けて貰ってからルカにはお世話になりっぱなしだ。

「マイア、明日にはヘクターの魔力が回復するだろうから、アストラに向かう事になると思う。今日はしっかり眠っておいた方がいい」

ルカはそう告げて、あっさりとマイアからを離すと窓へと向かおうとする。

「待って! もう帰っちゃうの……?」

慌てて呼び止めると苦笑いが返ってきた。

「これ以上一緒にいたら我慢できなくなる。マイアはそれでもいいって言ってくれるかもしれないけど、そこはちゃんとしたいんだ。今は手元に薬もないし……」

薬と言われてマイアはかあっと頬を染めた。

「わ、私だってそこはわかってるよ……」

好きになった異との深いれ合いには年相応に興味はあるけれど、骨に言われると恥ずかしい。

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先に進みたい気持ちはあるけれど、子供ができるかもしれない行為へのルカの忌避もわかるので、何の準備もない今は進めないというのも理解できる。でも。

「もうちょっと一緒に居たいなって……だめ……?」

「……だめ……じゃない……」

ぐっと詰まりつつ折れてくれたルカに、マイアはぱあっと顔を輝かせた。

◆ ◆ ◆

翌日――。

いつでも移できる狀態にして待機していたマイアの所をシェリルが訪れた。

「マイア、準備はできた?」

「はい。荷造りも終わっています」

答えたマイアの顔をシェリルはしげしげと見つめると、「昨日は眠れなかった?」と尋ねてきた。

「わかりますか?」

「そうね。目が赤いもの。転移はに負擔がかかるから大変よ。気になって眠れなかった」

「はい、そうですね……」

マイアは素直に頷いた。本當はルカと遅くまで話していたせいなのだが、それを他人に知られるのは恥ずかしい。

昨日は沢山々な話をした。両親がまだ生きていた時の事、孤児院に引き取られてからの事、聞かれるがままに自分の事を話したし、マイアもルカの話を聞いた。

――と言っても、ルカが聞かせてくれたのは、諜報員という顔を隠すための傭兵として、この國の々なところを旅した話が中心で、子供の頃の事は話してくれなかった。

マイアも聞けなかった。そこはきっとルカにとってれてはいけない心の疵(きず)になっているに違いない。それを思うと心がきゅうっと締め付けられて、マイアは小さく息をついた。

「不安?」

ため息を誤解したのか、シェリルに尋ねられてマイアは曖昧な笑みを浮かべた。

「そうですね。こんなに長い距離を魔で移するのは初めてなので」

「【シーカー】に任せておけば大丈夫よ。きっちり送り屆けてくれるわ」

今日はルカと一緒に遠距離転移魔でアストラに移する日だ。目的地はアストラの首都アド・アストラ。普通にこのエスタから移すれば二か月近くかかる道のりである。

ヘクターはこの転移魔では移しない。ヘクターにも帰國命令は出ているのだが、殘務処理があってもうしこちらに殘らないといけないそうだ。そのため彼は今回の遠距離移式管理に駆り出される事になった。

シェリルの先導で移した部屋には、床いっぱいに複雑な魔陣が描かれていた。

中にはヘクターとルカが既に待機していて、何やら話し込んでいた。しかしマイアの姿を認めると、二人とも會話をやめてこちらに視線を向けてくる。

「これが遠距離転移用の儀式魔陣ですか?」

「ああ。起にはマイアの魔力も借りる事になる。結構たくさん注がなきゃいけないから覚悟しておいてほしい」

マイアの疑問に答えたのはヘクターだった。

「そろそろ始めましょうか」

シェリルの合図で魔陣に魔力を満たす作業が始まった。その場にいた全員で魔力を注ぐと、しずつ魔陣が金を帯び始める。

この式の構築には一どれほどの人の労力と資金がかかっているのだろう。

生きている人間を安全に転移させるためには細心の注意を払って式を構築しないといけないし、移する距離に応じた大量の魔力と月晶石を口側と出口側の両方で用意する必要がある。

今頃出口のアド・アストラ側でも、何名かの魔師が魔力を注ぎながら慎重に移の様子を見守っているはずだ。

萬一事故が発生すればそれは移する人間の生命に関わるので、このような遠距離を移する場合は細心の注意を払わなければいけない。

外に魔力のれないよう、室は木戸と分厚いカーテンで厳重に閉ざされている。

まだ午前中だというのに真っ暗な部屋の中、魔陣全が金に輝き、の柱となって立ち上る様子は神的だった。

「ルカ、マイア、もういいぞ」

ヘクターに聲を掛けられて、マイアは魔力を注ぐのをやめた。

「マイア、心の準備はできてる? 中にればもう後戻りはできない」

聲を掛けてきたルカにマイアはしっかりと頷く。

「中にる以前に、もう既に凄いお金がかかってるよね?」

「……そうだね」

それでも何度も聞いてくれるのは、きっとルカが優しいからだ。

ルカの手がこちらに差しべられた。マイアはその手をしっかりと摑む。

そしてマイアはルカに手を引かれ、の柱の前へと進み出た。

この先に待っているのは見知らぬ國での新しい生活だ。それを思うとマイアの心は期待と不安がないぜになる。

――だけど。

手の平からじるルカのぬくもりを信じようと思った。

ルカもに事を抱えている。胎児の時からけた魔作のせいで、長く生きられない可能があると聞かされて正直揺した。先の事を考えると不安が湧き上がる。でも、ルカのに不調が出た時は、マイアの魔力が何かの役に立つはずだ。

ルカはマイアをたくさん助けてくれたから、そんなの事くらいでこの気持ちは揺らがない。

この人もマイアを求めてくれた。今はそれだけで十分だ。

ルカがマイアをするのは、聖としての魔力があることも大きいのでは、とちらりと疑問が沸く。しかしマイアはそれの何がいけないの、とすぐに思い直した。

この魔力も含めて自分だ。この魔力が無ければ平民の中でも貧しい暮らしをしていたし、こうしてルカに出會う事もなかった。

人と違う特別な力のせいで、他人から沢山利用されたけれど、そのおかげで得られたものを考えると、収支を細かく計算していけば結果的に大きな黒字になっている。

恵まれた食住に隣を歩いてくれる異まで手にれたのだ。これで恵まれていないなんて言ったらきっと天空神エアの雷に撃たれてしまう。

これからの事はゆっくりと考えていけばいい。

マイアは顔を上げると、ルカと一緒にの柱の中に足を踏みれた。

ここで第一部完となります。

続編についてはこの後投稿予定の活報告をご確認ください。

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