《悪魔の証明 R2》第61話 043 シロウ・ハイバラ(2)

次にジョン・スミスは、

「こんなじで」

と述べてから、どさくさ紛れにミリアのった。

すかさずミリアは、有無を言わせずジョン・スミスの大きな腹に拳を叩きつける。

「ゲフ」

という聲がしたかと思うと、ジョン・スミスはその場で蹲った。

なんて余計なことを。

そう腹立たしく思いながら、俺は無言のまま床でのたうち回っているジョン・スミスを睨みつけた。

だが、すぐに、はっ、と視線を正面に戻した。

そこには、俺を見つめる顔に満面の笑みを浮かべたジゼルの姿があった。

傍からすると、それはまるで天使のような笑顔のように思えたことだろう。

だが、俺はジゼル・ムラサメのことをよく知っている。

この狀態はまずい。

瞬時にそう直した。

なんとか、ジゼルを宥めないと。なくともミリアの件は、ジョン・スミスの噓だと伝えないと。

もう、トゥルーマン教団なんてどうだっていい。なりふり構っている暇など俺には與えられていない。

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々な考えが頭に浮かんだが、それを実行に移す時間が與えられるはずもなく、ジゼルの手は俺の元へとびてくる。

すぐに、ぐえ、と雌鳥が鳴くような聲しか出すことしかできなくなった。

それを意に介していないのであろうジゼルは、天使の微笑みを保ったままぎりぎりと俺の首を絞めつけてきた。

「だめでしょう、シロウ。そんなことしちゃ。ううん、ミリアのことじゃない。ミリアは初めてじゃないから、そんなこと気にしないもん」

と、よくわからないことをのたまう。

これを聞いたミリアは、心外なじで眉を顰めた。

だが、それを気に留めた素振りも見せず、ジゼルは屠殺行為を続ける。

「だめなのは、シロウが裏切ったこと。シロウはジゼルもみんなも裏切ったんだよ。ほら」

そう彼は言うと、俺の耳元から何かをベリっと剝がす。

次の瞬間、ジゼルは首を絞めている手と別、もう片方の手で、それを差し出してきた。

まさか、それは……

ジゼルの掌にあるを見て、俺は愕然とした。

「ごめんね。シロウ。先生に言われて、シール型の盜聴をシロウにっていたの。けれど、ジゼルは信じてたんだよ。シロウのこと最後まで」

そう述べた後、ジゼルは笑顔を崩し悲しげな顔をする。

信じていたも何も盜聴を彼氏に仕掛けるなんて、おまえはいったい何を考えているんだ。

そう諌めようと思ったのだが、もう窒息寸前まで首が絞まっている。

うめき聲以外の言葉を出すことは、葉いそうにもない。

「ジゼル、もういいわ。離しなさい」

レイの口から救いの言葉が吐かれた。

だが、ジゼルはそれにもかかわらず、その後もまだ首を締め続ける。俺の苦しむ様をしばらく眺めてから、ようやく俺の首から手を離した。

死の恐怖から解放された俺は、安堵する間もなく、を抑えてげほげほと咳き込んだ。

「盜聴する者は、自分が盜聴されている可能を考えない」

未だ苦しみに悶えている俺の姿を視界にれながら、レイは何やら格言めいた言葉を吐く。

そして、反論を待とうともせずに再び口を開いた。

「スピキオとあなたの話はすべて聞かせてもらったわ。盜聴が自分に仕掛けられていることをにも考えていなかったようね」

と、告げる。

目をさらに細める。

床に手をついて跪いている俺を、嘲り笑うかのように見下ろした。

「でも、相手も同じ手を使ってくると考えて然るべきよ。自分たちが仕掛けているのに相手はしないなんて道理が通らない」

訥々と語る。

すべてが筒抜けだった。

ここになってようやく俺はそれに気がついた。

「一応なのだけれど、あなたがスパイであることに気がついたのは、あなたが第六研にった初日。盜聴をこの部屋に仕掛けたときよ」

レイはさらに衝撃の事実を述べる。

ということは、俺を疑っていたのは最初からということなのか?

悔しさを噛み締めながら、俺はそう訝った。

「そうよ、當初から。補足すると、トゥルーマン教団かラインハルト社、どちらのスパイであるか見極めたのは、その次の日、あなたがスピキオに連絡を取った瞬間」

俺のを読んだかのように、レイは追い打ちをかけてくる。

ずっとレイの掌で踴らされていた。スピキオの作戦なんてレイには最初から最後までお見通しだったんだ。

の一連の獨白を思い返し、俺は思わず頭を振った。

「こうして、あなたがスパイであることは、白日の元にさらされたわけなのだけれど、私はこの狀況を利用したいと思っているの」レイが提案してくる。「古の時代から、スパイを逆利用する行為は往々にして行われてきたこと。近代でいえば、舊ソビエト連邦のKGBがうまく使っていた手段だわ。だからというわけではないけれど、今回は同じ手段を使おうと思うの。使い古された手段ではあるけれど」

この含みのある臺詞からは、何をするのか想像できないが、俺を利用するつもりであることは間違いない。

おそらく、それは俺を危機に追い込むような碌でもないことのはずだ。

「それはさておき、あなたが私を再び裏切った場合の罰則を規定しておかなければならないわね。そうねえ、何がいいかしら」

レイはそう言いながら、一旦天井へと目を移した。

すぐにジゼルへと顔をやる。

そして、まさかと目を見開いた俺を目に、冷酷な命令を下す。

「決まったわ、こうしましょう。ジゼル、ハイバラが次に裏切った時は、首の骨を折りなさい。これに一瞬の迷いも必要ないわ」

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