《悪魔の証明 R2》第62話 044 クロミサ・ライザ・リュウノオトハネ(1)

「盜聴する者は、自分が盜聴されている可能を考えない。名言ですね、レイ・トウジョウ先生」

スピキオが、簡単な想を述べる。

第六研研究室のやり取りを聞き終わった後のことだった。

「シロウ・ハイバラは、もう使いものにならないんじゃないの?」

のソファーに寢そべって本を読んでいた私がそう尋ねると、規則正しく部屋に鳴り響いていたキーボードを叩く音がぴたりと止まった。

「そうだな。だが、それはそれで構わない。シロウはただの囮だからね」

スピキオが振り返りもせずに言う。

「シロウが囮……どういうこと?」

頭に湧きあがった疑問を、すぐに彼の背中に投げかけた。

「盜聴はもう無意味だな」

スピキオは、およそ見當外れの言葉を返してくる。

「ちょっと質問に答えてよ。シロウの他にスパイがまだいるってこと?」

私はそう尋ねながら、イヤホンを耳から外すスピキオを睨みつけた。

「……そうだね。我々にとって、もっとも重要な人が第六研をスパイしてくれている。いや、スパイと言うのは正しくないな。その人は、我々の同志といっても過言ではないからね」

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「ふーん。で、誰なの。そのスパイは? もちろん、第六研のメンバーなんでしょ」

「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。語のネタバレをしたら面白くないだろう? 一緒だよ、それと。だから、それは後の楽しみにしておこう」

スピキオが含みを持たせてまま話を終わらせようとする。

ホント、相変わらず主義。

眉間に皺を寄せながら、中で不満を零した。

今朝もスピキオがクローゼットに隠していた「スカイブリッジライナーロサンゼルス行き十一月十四日十六時便」のチケットを発見したばかり。

その時初めて、この私、クロミサ・ライザ・リュウノオトハネ兼永遠のを放って、スピキオはひとりでロサンゼルスへ行くつもりらしいということを知った。

この私ににして、ひとりだけのんびりロス旅行を楽しもうなんて――もう、絶対に許さない。

なので、スピキオにはチケットを見つけたことは言っていない。

それを発見した時、隠れてでもついていってやると心に誓ったからだ。後で、バレても絶対に文句は言わせない。

この件だけではない。スピキオにはいつも何でもにしたがる癖みたいなものがあった。

第六研でこのクロミサを使わない理由もそう。今回のスパイの正についてもそう。何でもそう。すべて。こいつはいつもそうなんだ。

ふん、と私は強く鼻息を鳴らした。

本を床に投げ捨ててソファーから起き上がり、ベランダの方へと歩き出す。

「あんたなんか、死ねばいい」

と、その際デスクトップパソコンに対面しているスピキオに向け毒を吐いた。

だが、それを気にする素振りもなく、彼はまたカタカタとキーボードを打ち始める。

このにわかパソコンオタク、よく飽きないものだな。

スピキオを橫目にしながら、私は中でそう罵った。

し頭を冷やすため、部屋に取り付けられている大窓をガラッと開けた。

ベランダから、夜風が顔に吹きつけてくる。ひんやりとして多寒い。

もうそんな時期かとも思う。

腕を抱えし震えながらも、ベランダへと足を踏みれた。

柵に近づき下を覗く。

ホームレスたちが焚き火をしている姿が見えた。こうして彼らを見ていると、スピキオと初めて出會った時のことを思い出しそうになった。けれど、ホームレスたちが集団として醸し出す悲壯は、私のそれをすぐに打ち消した。

視線を前に向ける。

丸い月が舊市街のビルやマンションを照らしていた。こんな明るい夜は建築の老朽化が目に見えてわかる。

スピキオと私が居住するこのマンション自も、周りと比べると多ましな部類だが、やはり築年數は相応に古い。

焚き火の周りを取り囲みながら、ぼんやりとたたずんでいるホームレスたちに、再び目を持っていった。

遠目に見ているせいかもしれないが、彼らの姿からはおよそ生気というものが微塵もじられなかった。

肩を落とし木を焚き火にくべる様子は、亡霊に取り憑かれているようにも思える。

「ホームレスの人たちってなんで家に住めないのかな。舊市街のマンションなんて、いっぱい部屋が空いているのに。あんなところにいたら寒いじゃない」

部屋に戻ってから、スピキオに尋ねた。

「資本がないからさ」

彼は簡潔に答えた。

「資本……? それだけ?」

「世界は資本主義なんだから、資本を持たない者はそのテリトリーから當然外れる。そして、資本を所持しないにも関わらず、資本を得るという行為を取らない彼らには、當然、家という基本的な資本は與えられない」

窓を閉めてから、

「要は自己責任というわけね」

と、に抱いた結論を私はそのまま聲にする。

「何でそう思うんだい? クロミサ」

「だってそれを得ようとする努力もしてないんだから、當然でしょう」

「なるほど、自己責任……そうであるかもしれないし、そうではないかもしれない」

そう言いながら、スピキオは首を軽く捻った。

「何か違うの?」

スピキオがよく使ういつもの曖昧な言が気になったので、尋ねた。

「ああ、そうだと思うよ。だって、その語には矛盾があるからね。彼らは資本という呪縛に囚われてしまっただけだ」

顔を正面にしたまま、スピキオは言った。

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