《悪魔の証明 R2》第63話 044 クロミサ・ライザ・リュウノオトハネ(2)

「呪縛って、何だか亡霊にでも呪われているようなじね」

そう言葉を返しながら、先ほど見たホームレスたちの姿を思い返した。

「借金、働く気がない。彼らがあの狀況に陥ったのは、彼ら、という個人的な存在からすれば自らが原因である可能が高い……だが、重要なところはそんなところじゃない」スピキオは言う。「資本家が彼らに手を差しべようとしないことさ。では、なぜ私がこう斷定するのか、今から説明しよう」

「え……もういいよ」

早々にうんざりとしたので、斷った。

だが、スピキオはそんな私の気持ちを無視しながら、

「トリクルダウンシステムという政治思想――語を知っているかい。知らない? では、まずここから説明した方がいいね」

と、また語り始める。

「トリクル……何?」

つい訊き返してしまった。

いずれにしてもスピキオはこうなると止まらない。終わるまで寢るのも邪魔をしてくる。気は重いが、しばらく話に付き合い適當なところで切り上げることにしよう。

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「――ホームレスたちが失ったもしくはする予定だった分の富は、誰かに吸い上げられている」

私の質問を無視して、スピキオはより詳細な説明をする。

「誰かって誰? もしかして幽霊? それとも魔法とか?」

適當なじで質問を返しておいた。

「幽霊? 魔法? 馬鹿な。その誰かというのは、當然資本家だよ。クロミサ、話を聞いてなかったのかい?」

いや、それじゃないのはわかってましたけど。

と言うと、面倒なことになりそうなので反論するのはやめにした。

「……各國の政府は、資本家が貧民から富を収奪するというシステムをもう記憶が遠くなるような期間続けている。富めるものに富を與えれば、いずれはその富が貧民たちに滴り落ちるという、拠のない善説に基づいた理論、トリクルダウンシステムという語の元にね」

「そんなの上手く行くの? お金稼ぎしている人にそんなことさせるなんて。しかも、語って言ったら、ただの幻想じゃない」

「どうだと思う? まずは考えてみようか」また煩わしい提案をスピキオはしてくる。「とりあえず、彼らの言い分はこうさ。資本主義における天才、つまり資本家たちを金銭的に……この場合は稅金とした方が理解しやすいかな? クロミサ」

「いや、どっちもわかりにく……」

質問に回答しようとしたが、スピキオが話を続けたので言葉をかき消されることになった。

「そう、彼らを優遇すれば資本の適切な分配。さらに適切な投資を行い、最終的には全に富が行き渡るはず。でも、実際は……」

「……その通りにはならなかったということね」

語は所詮語に過ぎないということさ。資本家は資本を自らの懐に集積するからこそ資本家とされている。當然、世の中のために適切には分配しないし投資もしない」

「まあ、そうなるよね。お金が貧しい人に行き渡る前に、その人の分まで稼いで自分の懐にれることもある気がする」

「そうだね。彼らは他の誰よりも現実を生きている人たちだから。日本の長期デフレ下であればそれはなおさら顕著になる。市場から金が減るんだから、資本家が自分の資本を切り崩すことなんて容認するはずがない。よって、資本は下に流れ落ちない。富は一部の資本家に集約され、ホームレスに限らず、一般市民に十分な資本は行き渡らなくなった」

「だから、一般市民がホームレスに落ちるケースが激増したということなのかな?」

「ああ、それが語の終焉さ。このようなマクロ的視點から見れば、彼らがホームレスになった原因が自己責任かと問われれば、それは曖昧だね。メディアが彼らのことをれることもないしね。ニュースはいつも一方通行だから、知らせない権利があるんだよ」

「へー、ホームレスになるにもそんな理由があるんだね」

獨白を終えたスピキオに向け、私は素っ気ない想を述べた。

そもそもがまったく興味のない話だ。

いつまでも付き合い切れない。そろそろ切り上げても良いタイミングだろう。

そう思った私は、

「まあ私がホームレスになることなんてありえないから別に何でも良いけれど。メディアさんとやらと同じく、私も別にあの人たちとれ合いたくないもん」

と、メディアを引き合いに出し総括するような臺詞を述べた。

それを耳にしたせいなのか、スピキオはなぜかふっと失笑をらす。

「確かに、そうだろうね。それにこの語に出てくる浮浪者とか主婦とかそんな名前のない人たちの中に、君のような者を見つけることはできないだろうね。資本家なんてのも同じ。ワイヤーが初めからないからね」

「ワイヤー?」

「ああ、ワイヤーさ。繋がっているんだよ、人間のは。でも、それはトリクルダウンシステムのような一方通行ではない。下に落ちる途中、どこかで分斷されるからね。例えば、ホームレスの人たちのかなり手前辺りで。だから、そんなシステムは上手く行くはずがない」

「ふーん、そうかもね。ううん、私もそう思う」

「でも、れ合えない君のような奴は人間じゃないからね。君が以前示唆した通り幽霊もどきみたいなものさ。ああ、君の場合はなんだったかな。確か……永遠の幻のだったっけ?」

こいつ、馬鹿にしやがって――

瞬時に頭を沸騰させた私は、すかさず鬨の聲をあげた。

「うるさい!」

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