《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》従者の冷たい目が癖になる

王宮に帰って再び裏庭の薬草畑の様子を見に行くと、早くもちょっとしたサイズの木に長している聖獣――いや、聖樹の近くで、げっそりした顔の陛下が休んでいるのを発見した。

陛下はこれまた人間の大人くらいのサイズに長したランランの背中に座り、ポチやマロンといった聖獣達に囲まれてボーっと空を眺めている。

どう見てもお疲れのご様子。

話を聞くと、ここのところマーブル侯爵(父)とその娘ステラ(というか私の妹)が連日王宮に押しかけて來て大騒ぎして行くとの事で。

大騒ぎの容は“セシル殿下とお會いしたい”の一點張り。

例の“家族をれ替えた件”を聞こうにも娘が居るとやりにくいので、引き離して娘だけ別室に通そうとすればあれこれと言い訳を並べて応じず、とにかくセシル殿下に會わせてくれ、としか言わない。

會話が通じないのだそうだ。

「父が大変なご迷を……。申し訳ありません」

「いや、君が謝る必要は無い。あの様子を見るに、自分のやらかしがバレていると気付いているのだな。娘の出自が怪しまれている事も。だから頑なに娘から離れようとしないのだろう。全く、後が無いと知った人間は怖いもの知らずで強いわい」

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苦笑する陛下に申し訳無さしかじない。

お父様がそこまでなりふり構わなくなっているのは、フィオナを守りたいから……なのだろうと思う。

私が得られなかったお父様からのというものを目の當たりにして、し妹が羨ましくなる。

もうあの人達の事などどうでも良いと思っていたはずなのに、割り切れない部分は殘っているらしい。

「……明日も來るのでしょうか」

「來ると思う。ここのところ毎日だから」

來るのね。

……それなら。

「陛下」

ランランの前で跪き、両膝を揃えて真っ直ぐに陛下の目を見上げる。

私が何を言おうとしているのかを陛下は察して目を瞠った。

「私にお話をさせて下さいませんか」

「いや……それは」

「お願いします。……一度、家族と話をしたいと思っておりました」

お父様に対する恐怖心は消えた。

今ならきっと家族と正面から向き合える。

私の意思が固い事を悟った陛下はため息をつき、ランランの首を抱きしめながら呟いた。

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「……セシル。聖のドレス制作はどのくらい進んでいる?」

「もう、ほぼ完に近いかと」

「ならば明日、ドール夫人に頼んで特急で仕上げて貰おう。明日の夜までにな。聖よ、侯爵に舐められないように、しっかりを飾り立てるのだ。ちょうど明日、大きな夜會がある。そこで君の姿を貴族達に見せよう。さすれば侯爵も対話に応じる他に無くなる」

了承のお言葉だ。

私は深々と頭を下げてお禮を申し上げた。

「我儘を聞いて下さって、ありがとうございます……!」

「我儘などでは無い。君が侯爵と対決する覚悟を見せてくれたからこその決斷だ。君の負擔になると思って全てこちらで片を付けようと思っていたのだが、要らぬ心配だったようだな。こちらこそ、不甲斐なくてすまなかった。――セシル。聖を……婚約者を、しっかり支えるのだぞ」

「お任せ下さい」

しっかりした聲の殿下。

ものすごく安心する。

「そうと決まれば今日はゆっくり休んでおかなくてはな。きっと明日は荒れるぞ」

そう言って陛下はすっくと腰を上げ、しっかりした足取りで王宮に戻って行った。

裏庭に殘された私達はお互いに顔を見合わせ、どちらともなく近付いて手を取り合う。

「……大丈夫だからね、ステラ」

「はい」

怖くない。でも張はする。

陛下もおっしゃった通り、明日は荒れる予でいっぱいだ。

ガチガチにきが固くなった私に、背後に控えていたシルヴァが話しかけて來た。

「ステラ様はパーティーに出るのは初めてなのですか?」

そうだ。彼は私の事を詳しくは知らない。

彼が私について知っている事はスキルの事と殿下の婚約者である事くらい。

聞かれなかったから言わなかっただけなのだけど、彼が私の事も護衛対象としてくれるのなら家族の事くらいは今のうちに話しておくべきだ。

なんたって、お父様に摑みかかられるくらいの事は覚悟しているからね。

そのくらいなら介は不要だと説明しておかなければ。

――という訳で、我が家の事をかいつまんで説明し、お父様が荒れる可能についてもれておいた。

すると彼は口元をムスッとさせ、苛立ちを隠せない様子で睨んで來る。

「じゃあ何ですか、ステラ様はそのクソみたいな父親のせいで危うく人生を棒に振るところだったって事ですか?」

「え? ええと……そう、なるのかしら」

「最悪じゃないですか。許せませんね。で? 明日のパーティーではそいつに一泡吹かせてやるんですね? ふむふむ、なるほど……」

顎に手を當てて何やら考え込み、それから私を全上から下までじろじろと眺める。

「おい、何だよ」

殿下が私を隠すように前に立った。

それを押しのけてシルヴァはこちらに顔を覗かせ、真剣な顔で口を開く。

「ステラ様。クソ親父とお姉さんを舐めくさっているクソ妹を見返しましょう。私に案があります。聞いて下さいますか?」

「え……」

見返す。

見返すって、あの見返す?

私はあなた達よりも立派になったのよフフンってするやつ?

特に立派になってないのにそんな事をして良いのかしら……。

っていると、私じゃなく殿下が「よし、聞こう。言ってみなさい」と返事をした。

シルヴァは頷き、語り始める。

「――まず、ステラ様が“浄化”と”掃除”を同時に発すると、一定の範囲が浄化の効果を放つ“聖域”が出來上がる訳ですよね。この認識で合ってますか?」

「はい」

「私も何度か見ましたが、あれは素晴らしい現象です。しいステラ様がれたところからが溢れ出す、まさに絵畫を見ているかのような幻想的な景で」

「そうだな。分かるよ。君は蕓の分かる男だと思っていた」

「ええ。これに関しては私は殿下と同じ価値観を持っていると自信を持って言えます」

ガシッ、と固い握手をわしている。

聖域化する時って周りから見てどんなじか自分では見られないから知らなかったけれど、蕓だなんて。

以前、“の雨が降る”と言ってくれたのを思い出してちょっと嬉しくなる。

「えー。話を続けます。お聞きした限り、ステラ様は明日の夜會で至高の聖だと周囲に知らしめる必要がありますよね。厳しい事を言いますが、お家のいざこざは人々が好む噂話のネタとして優秀すぎる。ステラ様は主の婚約者として、そんなマイナスの狀況を跳ね返さなければならない。そうですよね?」

「はい……。おっしゃる通りです」

シルヴァ、つい最近まで町でスリをしていたのに私達よりも社界を理解している。

貴族が集まる社界と言っても人間同士だし、人が集まればどこも同じような話で盛り上がるという事かしら。

センスがあるわね……。

頼りになる。

「俺は他人に何て言われようと気にしないけどな」

「主はそうでも私は気にします。俺が仕える方は素晴らしい方なんだって皆に分かってしい。……という私の願を抜きにしても、浄化の聖が他人に良いように利用されないためには大勢の尊敬を集める必要がありますしね。そこで、提案なのですが」

「はい」

隷屬の印を消されてもなお忠義を盡くそうとしてくれている。

彼の言う事を聞いてみよう。

そう思った私は姿勢を正してシルヴァに真っ直ぐ向き合った。

「――聖域化を、格好よく見せられるようにしましょう」

「格好よく?」

「はい。俺はステラ様が掃除している姿も可らしくて好きですが、地位のあるご令嬢として相応しくないとじる輩もおりましょう。勿論そんな輩が居たらこの私が仕込みナイフで斬り付けてやりますが、あくまでも最終手段です。まずは舐めた口を叩かれないように――陛下もおっしゃっていたでしょう。とにかく、舐められない事が大事ですので」

「は、はい」

過激……。

でも一理ある。

見た目のハッタリは大事だというのは私にも分かる。

的にはどのような……」

「掃除道を“杖”にしましょう」

「杖?」

首を傾げた。杖って。

それだと掃除にならないんじゃ。

「ああ、おっしゃりたい事は分かりますよ。杖だと掃除として立しない。だから、床にれる部分をしだけ羽立てましょう。いわばホウキです。そのホウキは持ち手から頭にかけてしくも神的な裝飾がついていて、一目で持ち主が特別な存在だと分かる――そんな掃除道です」

殿下が心したように深く頷いた。

「なるほど~。確かに。そのホウキをし床でかせば、スキル範囲の床が聖域化するって訳だ。いいじゃないか。やろう、ステラ。俺が作るよ」

「え、ええ……」

思ってもみない提案だった。

掃除道を掃除道っぽくない形狀にする……。

いいかもしれない。

格好良いかどうかはさておき、私のスキルは表向き“浄化”のみで、聖域化現象はあくまでも“浄化が進化したもの”という扱いになる。

格好良い杖を一振りしただけで聖域化が出來るようになるなら――。

私としても、とてもやりやすい。

王宮でハタキやホウキを持ち歩くよりずっと現実的だ。

「どのような杖が良いでしょうか」

「そうだな。土臺は……」

殿下はチラッと畑を見た。すると聖樹がビクリとを揺らし、おずおずと枝を差し出す。

「冗談だよ」

するとぶんぶんと枝を橫に振り、“どうぞ”と言っているかのように腕(枝)をばして來た。

聖樹さんが今どんな気持ちなのか私には分からない。

私が聖獣化したランラン達と違って、私と聖樹さんは意識を共有出來ないようだ。

「いや本當に冗談だって。何か違うで作るよ」

聖樹さんは“もうっ!”と言っているかのように枝を腰(幹)に當てた。

それを見たシルヴァが聖樹さんの傍に歩み寄る。

「使ってくれと言っているのだから使わせて貰いましょう。上流階級の人はご存じないかもしれませんが、木はっこが生きていればまたびるんですよ」

「知ってるよ、そのくらい」

シルヴァは殿下のツッコミをスルーして、聖樹の枝に向かってシュッと腕を振った。

すると切り口の綺麗な枝がぽとりと地面に落ちて聖樹さんは“ふぅ”と肩を落とすような仕草をする。

袖に隠してある武で斬ったようだ。

何も見えなかった……。

「シルヴァ。君ってやつは……」

「何ですか? 人に隷屬の印を付けるようなお方にこんな事で引かれるなんて心外です。それより、使わないんですか? 使わないなら暖爐の薪にでもしますけど」

「使う。使わせて貰うよ。……ありがとな、マリリン」

「マリリンって誰ですか?」

「布団の名前だったんだけど、この木に譲ろうと思って。なんかこの木、きがくねくねしててセクシーだからさ」

一瞬、厚い忠義の持ち主であるシルヴァの殿下を見る視線が曇った気がした。

でもすぐに持ち直して、地面に落ちているマリリンの枝を拾い上げる。

「では早めに作業を始めましょう。何せパーリィナイは明日ですから」

「パーリィナイ?」

「ふっ、上流階級風に言うなら夜會ですか」

うぜぇー……と殿下が小聲で言うのが聞こえた。

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