《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-50:魔の長
じゃらりと鎖を握りなおして、ミアは冒険者の戦列、その中央部から敵勢を睨んだ。
特に巨大な2がいる。
一は高さ5メートルほどもある大狼、フェンリル。青白い波が、ちらつき始めた雪の中に浮かび上がっていた。赤い目がぎょろりとき、冒険者達の戦線を眺め渡す。
もう一は、巨大な蛇。
世界蛇(ヨルムンガンド)はフェンリルと同程度の高さに頭をもたげている。とぐろを巻く全長は高さの數倍はあろうが、王都に現れた時の半分ほどの大きさもない。世界蛇もまた消耗し、魔力を失っているのだろう。
2の前には、ゴブリン、コボルト、オーク、炎魔犬(ガルム)、巨人兵といった魔が並ぶ。
戦線と戦線のにらみ合いだ。
100名ほどの冒険者は、魔の先にある神殿へ飛び込み、角笛の年を援護するため。
數としてその3倍ほどの魔達は、冒険者の突破を防ぐため。
両者に開いた50メートルほどの空間に、殺気が満ちていく。
「さて」
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ミアは息をはき、鎖斧を握りなおした。極寒の地で、吐息はたちまち白くなる。
刃に雷神トールの力が宿り、青白い雷が散った。
大蛇がミアに気づいて、口元をにぃと引きつらせる。
ミアは言った。
「くるぜ」
大蛇が、咆哮。フェンリルが遠吠え。
魔が黒い津波となって殺到する。
の戦士団を率いるフェリクスが號令を降すと、冒険者も一斉に駆け出した。
ミアは斧を振りかぶり、投擲。
「重撃……!」
薄暗い空に雷の軌跡を殘して、斧が世界蛇(ヨルムンガンド)の脇腹に打ち込まれた。
大蛇が宙でをくねらせ、轟音と共に落ちる。雪が飛沫となって前方の視界を覆い隠した。
強大な2が最初に突出、戦闘の決著をはかる構図は王都防衛の時と同じだ。
冒険者の聲が來る。
「ミアぁ! でっかい狼がそっちにいったぞ!」
フェンリルが魔の波を飛び越えて、戦列中央に著地する。巨大が口がぐばりと開き、生臭い息が押し寄せた。
「やっべ――」
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鎖斧はびきっている。
フェリクスの聲。
「ミア! 跳べ!」
フェリクスの振るう杖が、いくつもの炎弾を撃ち放つ。一つ一つが大狼フェンリルを追尾し、數個がその鼻先でぜた。
フェンリルはジグザグにいて距離を取る。世界蛇(ヨルムンガンド)が巻き起こした雪煙に紛れていった。
「魔どもが來たぞぉぉお!」
「陣を組めぇ!」
數瞬の遅れで、オークや巨人兵といった魔が冒険者の戦列に到達した。
數は、こちらが100に対して、敵が約3倍。
個の力は冒険者が優れるが、數は圧倒的に不利だ。事前の定め通り、冒険者らは陣形を組みかえる。
真っすぐな一列ではなく、四角形の方陣だ。冒険者を包み込むように迫る魔に対して、陣の側から魔法と弓、外側に壁役を配して対抗する。
「こっちは平気だ!」
「大に集中しろ!」
「ガルム、ガルムがいくぞぉぉおお!」
「替えの武ない奴は下がれぇえ!」
雄たけびと咆哮がり混じる。
世界蛇(ヨルムンガンド)らの足止めにいていた分、ミアは方陣への參加に遅れた。
方陣は大階段に向かって左側へいており、魔の突撃を斜めにける形になっていた。魔の列を左側から崩すにしても、ただ敵の突撃をけ止めるにしても、かずに囲まれてしまうよりはマシである。
「……あっちゃ、取り殘されたかね」
うすら寒さに、ミアは苦笑する。背中から頼もしい聲がかかった。
「ミア!」
フェリクスだった。
安心したのをごまかすように、ミアは向かってきたオークを切り倒しながら眉を上げる。
「おや、指揮はいいのかい?」
「引き継ぎ済みです。それより、我々は――」
フェリクスが見つめるのは、晴れていく雪煙の中で、じっとミア達の方を見る世界蛇(ヨルムンガンド)とフェンリル。
「ああ。でかい連中は、好きにかれるとまずい」
「ええ。方陣とは別に、遊撃隊が必要です」
言いながら、ミアだって気づいていた。
その役割は、神話時代の魔と多く戦った冒険者がやるべきだと。
「あたしと、あんたってわけだ」
フェリクスは顎を引いた。
「ミア。あなたが蛇、私が狼でいかがでしょう?」
「仕方がないね」
ミアの頭に、雷神トールの顔が過ぎる。
「――決著、橫取りしちまうぜ、神様」
鎖斧を肩にかついだ。
フェリクスが黎明の空に向かって、火炎を打ち上げる。
冒険者をまとめていた石鎚のロイドが、方陣から間聲をあげた。
「増援に道をあけろぉおおお! ミアが世界蛇(ヨルムンガンド)! フェリクスが狼だぁ!」
ミアに3人、フェリクスに3人、それぞれ冒険者がついてくれる。の戦士団だった。
これまでの激戦で顔見知りとなった彼らと共に、ミアとフェリクスはそれぞれの大を押さえに向かう。
強大な魔を引き付けている間に、方陣が他の魔を一掃すればよし。全員で、殘る大にかかれる。
ミア達が、フェンリル、世界蛇(ヨルムンガンド)、いずれかを撃破できればそれもよし。戦局は一気に冒険者優位となる。
乾いた笑いがれた。
「……うまくいけばだけどね」
世界蛇(ヨルムンガンド)がいた。空に向かってびあがり、次の瞬間、雪原に向かって頭から突っ込む。
揺れる地面。ミアはんだ。
「いけ、フェリクス!」
「しかし」
「あんたの相手は狼だろ!」
震がだんだんミアに近づいてくる。
「お、おいおい……?」
足元は1000年積もった大雪だ。その中を、大蛇が潛り突き進んでくる。
「――!」
反で跳んだ。
ミアがいた場所で雪が弾け、大蛇の姿が突き抜ける。數十メートルに渡る全が、やがてミアの前に現れた。
神々が戦うはずだった、強大な魔。
その最たるものである世界蛇(ヨルムンガンド)は、巨大なをもたげてミアを見下ろしていた。闇のウロコは、黎明の空から生まれ落とされたかのようだ。
頭の高さは8メートル越え、金の眼球は児の長ほどの大きさがあるだろう。
――赤髪の斧使い。
――あなたはトールの力を借りたのね。
世界蛇(ヨルムンガンド)はを鳴らす。地鳴りのようだ。
――黒髪の魔法使いと、どっちが長持ちするか見ものね。
――あっちは、魔神ロキの魔力をけたようだけど。
ミアは斧を振ってんだ。
「うるさいね! 神々がいなくても勝てるって教えてやらないと、神様だって休めないだろうさ」
離れた戦場で、狼の遠吠えが響く。
「……死ぬなよ、フェリクス」
まるで聲が聞こえたように、フェリクスが杖を掲げるのが見えた。
いつの間にか息がぴったりである。
が溫かくなるのをじ、ミアはぐしっと口もとを拭った。
「へっ。行くぜ……!」
ミアのに宿るのは、赤い。見ると、フェリクスのにも、方陣で戦う冒険者それぞれのにも、神々と同じが宿っていた。
雷神トールの赤、薬神シグリスの青、魔神ロキの紫、狩神ウルの茶、ヘイムダル神の金。
「見てなよ、神様!」
決著をつけるのは、冒険者だ。
王都の出會いから始まった本當の冒険に、ミアのもまた熱く燃えた。
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