「ロバートには人を魅了する能力がありますね。人の心をるという點では催眠と同じです。能力の強さをランク分けすると、一番弱い部類にりますが」

ロバートを隅々まで探索したアイアスが、瓶底眼鏡を外しながら言う。

「やはりか。最も可能が高いのはそれだと思っていた」

ルーファスが指先で眉間をむ。

ミネルバたちは刑務用の會議室に集まっていた。アイアスとおじいさんたちが、ロバートから知できたことを報告してもらうためだ。

「力の強さをわかりやすく１０段階に分けるとして、私の見るところロバートは１程度です。そんなに力はありません。魅了もガードの弱い、ごく限られた人間にしか効かないでしょう。參考までに言いますと、アシュラン王國に降臨した『劣等生の異世界人セリカ』でも８はありました」

「弱くても魅了は魅了だ。軽いならできて、自分に夢中にさせることができたわけか。ちなみにその基準だと、ミネルバやルーファス殿下、そして天才ロアンはどれくらいになるんです？」

マーカスが質問する。

「殿下とミネルバ様は極めて高いレベルですね。９はあるでしょう。ロアンは１０……いや、彼は規格外なので１０を超えているかも」

「ロバートの力が１で、アイアスさん以外にはじ取れないほど微弱なのに、牢獄から拘置所に向かって催眠暗示をかけられるものですか？　恐ろしく強いロアンをあざむいて？」

マーカスが首をひねる。

「それを可能にするのが『』ということになるんですが……考えれば考えるほど疑問だらけです」

アイアスが大きく息を吐いた。

「私の疑問は一旦橫に置いて、についておさらいしましょう。は特殊能力者の力を強めます。盾にもなってくれます。それから、力を集中させる助けにもなってくれます。高度な力を使うには、高い集中力がどうしても必要になりますから。忘れてはならないのは、何らかの神の加護を持ってる異世界人と違って、私たちが特殊能力を使うには多大なエネルギーを消耗するということ。場合によっては命まで削ることになる。それでは困るから、強い力を使う場合はを利用するわけですね」

アイアスがハンカチで瓶底眼鏡を拭き始めた。そして言葉を続ける。

「いくらがあっても、１レベルの力を９や１０にまで引き上げるのは難しい。そんな桁外れの力を持つが存在する可能は、限りなくゼロに近いんです」

アイアスはため息をつき、綺麗になった眼鏡をかけた。

「爺様たちに探ってもらった結果、ロバートがを隠し持っているという線は消えました。ここ一か月以に、大きな力を使った痕跡もない」

「じゃあ、倫理観のない特殊能力者がロバートの他にもうひとりいるかも？　僕が姿を見たり力を知したりできないように、隠れのを使えるようなやつが」

ロアンがパチンと指を鳴らす。アイアスが首を橫に振った。

「この世界で最強の能力者である君を上回るとなると、それはもう異世界人しかいません。セリカのような劣等生とは違う、本の力の持ち主ということになる。しかし異世界の人間は、こちらの世界にとっては異分子。特にこのグレイリングで、異世界人が自分の存在を隠すというのは容易ではない」

「うーん、つまりどういうことです？」

「奇妙な質を備えたが、メイザー公爵の近くに隠されていると思います。先ほどは限りなくゼロに近いと言いましたが、世界中のを調査しきれているわけではないので」

「こっちの目をごまかせて、ロバートの力を飛躍的に高めて、エネルギーも消耗しなくて、一か月以上も更新なしで力を保持できるって、どんなのが考えられます？」

「自分で言っておいてなんですが、見當もつきませんね。いや、私の頭の中のデータベースに、可能として考えられるものがあるといえばあるんですが、まさかそんなはずがないだろうって代で。とにかくメイザー公爵を調べるまでは、海のとも山のとも……」

アイアスが深々とため息をついた。

「なあロアン、魅了って定期的に更新しないとまずいのか？」

マーカスがロアンの肩を抱く。

「どんな力でもそうです。一発勝負じゃなくて、長期間を作用させるならね。異世界人のセリカだって月に二、三回は、自分の力を込めたブツを換してたくらいですし」

「更新しなかったら、普通はどうなる？」

「催眠暗示が長く続きません。相手を思い通りにかすのって、めちゃくちゃ力がいるはずなんです。新しく力を注ぎこまなかったら、かなりの速さで効果がなくなると思います」

マーカスが「そうなのか」と唸る。歯のないおじいさんが「ふぉっふぉ」と笑った。

「わしには噓をついている人間が放つ、獨特の熱を知する能力があるんじゃが。ロバートはそりゃあ熱かったぞい。特大級の噓をついているのは間違いない。まあ、それを証明するのが難しいんじゃが」

殘りのおじいさんたちが「頑張るしかないのう」と一斉に笑う。ルーファスがこほんと咳払いをした。

「とにかく、ロバートに微弱ながらも特殊能力があることはわかった。急いでメイザー公爵のいる拘置所に移しよう。グレイリングの威信にかけて、この狀況を徹底的に解明しなければならない」

ルーファスがその場にいる全員を見まわす。その目は圧倒されそうなほど真剣だった。