《悪魔の証明 R2》第65話 045 シロウ・ハイバラ(1)

ぼやけた目をしたままジゼルがテレビのスイッチをれると、晶畫面にこれまたジゼルの瞳のようなぼんやりとした映像が浮かび上がった。

「もうすぐ始まるよ」

と、聲をかけてくる。

それを聞いた俺の口から自然と、やれやれ、という聲がれた。

今現在、第六研の研究室には俺たちふたりのみ。レイを含めた他のメンバーは、この場にいない。そして、彼たちの行き先は、これから始まるテレビ番組『トゥルーマンの泉』の放送局。その目的は、表向き番組の視察。つまり、彼たちは俺とジゼルがこれから観ることになる番組を観覧しに行ったということだ。

「なあ、ジゼル。テレビなんかで観てないで、俺たちもあそこに行こうぜ。放送局はそう遠くないじゃないか」

俺はそう呼びかけた後、大きく溜め息を吐いた。

何か面白そうなことをやるつもりであることは、今朝レイたちがこの研究室を出る時の雰囲気でわかった。

それにもまして、あのレイたちがトゥルーマン教団の番組へ行き素直に観覧などするはずがない。何かやらかすつもりであることは容易に想像がつく。

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だが、スパイであることを暴かれたばかりの俺に、第六研のメンバーはほとんど何も教えようとはしなかった。

それは隣にいるジゼルも同じだ。

もちろん、比較的に組しやすい彼には何をやる予定なのか教えるよう必死で頼み込んだ。だが、シロウが信頼を取り戻すまで教えないの一點張り。

確かにそうなのかもしれないが、俺だけが除け者にされるのは気分が良いものではない。

「ダメだよ、シロウ。先生におとなしく待機しておきなさいって言われたじゃない」ジゼルがし眉を顰めながら言う。「そんなことより、シロウのせいでジゼルまでお目付役として殘されたんだから、ちょっとは反省してよ」

「ああ、ジゼル。その件については、悪かったと思っているよ」

素直に謝罪した。

普段であればすぐに謝るなんてことはしない。

だが、ここはジゼルの同に訴えかけてでも報を引き出すべきだと判斷した。どう考えても、自分だけが容を教えて貰っていないことは腹立たしい。

そして、今しがた脳裏に浮かんだ作戦を実行に移す。

「なあ、ジゼル。俺は本當に君のことが好きだ。當然、君も同じことを思っているだろう。そのふたりが付き合ったばかりのときのことを覚えているかい? 約束しただろう。ふたりの間にははなしにしようと。だから、先生たちが今日何をやるつもりか教えてくれないか」

わざと甘い聲を使ったのが功を奏したのか、ジゼルの頬に赤みが走る。

引っかかったな。

俺の口角の端が小さく歪んだ。

だが、ジゼルはすぐにまた頬を膨らませ、ぷいっと顔を橫に向けた。

「シロウには教えない」

と、続け様に言う。

おいおい、と突っ込みをれようとしたその時だった。

テレビのスピーカーから歓聲が聞こえてきた。

晶畫面に、『トゥルーマンの泉』という活字が表示される。

妙に格式張ったクラシック音楽が鳴った後、畫面が切り替わる。カメラは間もなく観覧席を映し出した。

「あれ、先生じゃないのか?」

俺は思わず聲をあげた。

観覧席にはレイの姿。ひとりで観覧しているらしく、近くにジョン・スミスとミリアの姿は見えなかった。

「あ、先生がいるよ」

ジゼルがわざわざテレビを人差し指で示して、俺の言葉のほとんどを復唱する。

「さっき言っただろう、それは。馬鹿だな」不機嫌覚めやらぬ俺はそう悪態をついた。「それはそうと……ミリアはともかく、あのデブはいったいどこに行ったんだ? 全然姿が見えないじゃないか。あんなに太っちょなのに」

「ジョン・スミスのこと、そんな言い方したらだめだよ。ジョン・スミスがってくれたから、シロウは第六研にれたんだよ」

ジゼルがすぐに諌めてくる。

「え、そうなの?」

そんな話は初耳だった。

「うん、そうだよ。もちろん、私がジョン・スミスに孟アピールしたというのはあるけれどね」

と言ってから、ジゼルはを張った。

「ふーん、そうなんだ」

それを聞いた俺は、あまり気のないじで軽く唸った。

だからといってなんという慨もなかったからだ。

すぐにテレビへと顔を戻す。

畫面はすでに他の場所へと切り替わっていた。

ステージの中央に置かれた無駄に豪華な椅子――そこにひとりの男が座っている。

もじゃもじゃの頭に、恰幅の良いつき。げひた面構え。

言わずと知れたトゥルーマン教団青年活部の導師エヴラ・タルカスだ。

顔に仮面はない。青年活部では仮面の裝著は任意だが、基本的に地位の高い人間は素顔で公に姿を現すことになっている。

諸説あるが、それはトゥルーマン教団の普及のためにも、素顔を積極的にさらして民衆の信用を得た方が良いからであるそうだ。

そういう意味では、トゥルーマン教団でも高位にあるスピキオがマスクを被っているのは例外中の例外だといえるのかもしれない。

エヴラの隣にあるややみすぼらしい椅子には、まだ誰も座っていなかった。

ここにはいつもゲストが座る。

この番組では、霊を通してエヴラがそのゲストに様々なアドバイスをすることになっている。ゲストとはいっても、アイドルなどの蕓能人ではなく、極一般のトウキョウに住むトウキョウ市民がその相談者だ。

トゥルーマン教団は、一般市民や貧困層を取り込むことによって拡大してきた。だから、彼らにスポットライトを當てることを意識している。

彼らが主催するこの番組においては特にその趣きが強く、一般人をゲストとして迎えるのがその常だ。

そのようなことを思い返している間にも、司會者が開幕を宣言する。

こうして、番組は本格的に始まった。

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