《悪魔の証明 R2》第66話 047 ミハイル・ラルフ・ラインハルト(2)

「父さん、そんなことはどうでもいい」気を取り直して言う。「今すぐ、トゥルーマン教団と縁を切るんだ。あいつらはラインハルト社の寄付金を悪用して、スカイブリッジの破テロを行っている」

この吐に、ふむ、とランメルは鼻を鳴らした。

だが、その後に何も言葉を返してこない。

何か心當たりがあるのだろうか。

そう訝りながらも、僕は臺詞の先を続けた。

「……おそらく、ラインハルト社の誰かが指示を出しているんだ。こんなことは到底許される行為ではない。ラインハルト社がテロの片棒を擔ぐなんて、父さんも許さないだろう」

言葉を終えると、から大きく息を吐いた。

「テロ? それがどうした」

ようやく口を開いたかと思うと、ランメルは予想もしない言葉を吐く。

「それがどうしただって? 何を言っているんだ、父さん。テロだぞ、テロ」

首を傾げる父に向け、僕は聲を荒げた。

事の重大さがよくわかっていないのだろうか。

脳裏にそんな疑問が過った。

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だが、ランメルは次に耳を塞ぎたくなるような臺詞を述べる。

「テロ、大いに結構。ラインハルト社がそれで繁栄するのであれば、何の問題もない。何の問題もな」

「では、やっぱり父さんがテロの指示を……」

突拍子もない発言に、思わずそう聲をらしてしまった。

「そんなわけなかろう。人聞きの悪い」ランメルは首を振りながら言う。「ラインハルト社私設警察の上層部には、テロに深りするなと指示はしたがな」

「テロリストに便宜を計っているということか?」

「便宜? 私の部下が? 何を言うかと思えば……そんなはずがなかろう。私が直接トゥルーマンに命令したんだ」

先程と矛盾したような臺詞をランメルは述べる。

「やっぱり、テロの指示を父さんが出したんじゃないか」

に抱いた言葉を、そのまま吐した。

「話を聞いていなかったのか? 私が下した命令は、テロを起こせという類いのものではない。ただラインハルト社の利益を上げろという指示を送っただけだ」

ランメルは平然と言い放つ。

「利益? そんなことのためにトゥルーマンは……」

あまりにも小さな機に、図らずも聲を失いそうになった。

「ああ、そうだ。だから、奴がラインハルト社の利益を上げるためにテロを起こしたのであれば、大いに結構だと私は先程言ったのだ。無論、そのテロがラインハルト社に被害を及ぼすのであれば、全力でトゥルーマンを叩き潰すがな」

「……さっき言ったトゥルーマンに命令とはどういうことだ? 父さん。トゥルーマンはいったい何者なんだ。ラインハルト社の社員なのか?」

とても信じられない。

そう思いながら、僕は尋ねた。

「もちろんラインハルト社の社員などではない。何百年と続いているあのトゥルーマン教団の教祖だぞ、そんなことがあるはずがなかろう」

ランメルは僕の推測をすぐに否定した。

「だが……」

と、言葉を続ける。

「奴は私の馴染だ。當時から教団の跡取り息子だったが、なぜか昔から私の命令に忠実な男でな。私はある程度やつに信頼をおいている。子供の頃から私が與えた任務を確実にこなしてきたのでな」

「任務を確実に……あのトゥルーマンが?」

「ああ、そうだ。昔からな。私が會社を興してからも、それは変わらなかった。特にラインハルト社の一部上場に至るまでは、裏でいてくれたあいつの貢獻が極めて大きい。そのトゥルーマンが、ある時トゥルーマン教団の資金繰りが悪化しているから救ってくれと頼み込んできた。だから、論功行賞の意味を込めて奴に出資してやったのだ。無論、ラインハルト社に必ず利益をもたらすと約束したこともあるがな」

「――父さん、宗教だぞ、宗教。なんで宗教なんかに投資するんだ」

頭を強く降りながら、忠告した。

「宗教を否定するとは――おまえ、さては共産主義にでも染まってしまったのか」

ランメルは吐き捨てるかのように言葉を返して來た。

一瞬の間もなく、大きく首を橫に振る。

「いや、それはありえんか。共産主義の皮は被っているものはあるが、もはやこの世に共産主義など存在しない。世界はずいぶんと前から資本主義に支配されておる。すなわち資本を持っているのであれば、それが例えどのような団であろうと、原則的にすべてが資本主義の上にり立っているということだ。そして、現在の世界はその資本主義から新自由主義へとさらに進歩を遂げた」

「それは原理主義じゃないのか? 資本がすべてだなんて……」

「無論、それを市場原理主義者と揶揄する人間がいることは知っている。だが、私はそのように述べる輩にはこう言ってやることにしている。市場原理主義で結構。世界はどこまでもグローバルに、不要な言語などなく、國境などなく、國籍などなく、ましてや関稅に見られるような政府の規制などなく、自由に経済を流させるべきなのだと」

「何を馬鹿なことを言っているんだ。そんなことをしたら國が……この日本だってなくなってしまうだろう」

「通貨が移し、人が移し、様々な人種が様々な國に居住して、初めて人類は自由を謳歌できる。さらに言えば、政府による行政などほぼすべてが不要なコスト。國という資本に制限をかけるようなものをなくし、資本を持つ者がすべてを運営するべきなのだ。私は若い頃からそう主張し続けて、現在世界はまさにその通りになりつつある。この流はまだ押し進めなければならん。ゆえに目的を同一とするものであれば、宗教団であろうが、テロ組織であろうが、私は出資を惜しまないのだ。もちろんラインハルト社の利益に直結するのであればの話だがな」

ランメルは訥々と信じ難い思想を並べたてた。

あっけに取られた僕を目に、デスクへと近づいていく。その上に置いてあった電話機のスイッチを押した。

電話機に付屬しているマイクから雑音が鳴る。

そして次に、「トゥルーマン、ってこい」と、そのマイクに向かって呼びかけた。

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