《悪魔の証明 R2》第67話 045 シロウ・ハイバラ(2)

豪奢な壁にかけられているトゥルーマンの肖像畫に一度カメラが向いたかと思うと、妙な音楽が鳴り始め、エヴラの顔がテレビ畫面の中でズームした。

それから、司會者による、エヴラの人生訓とトゥルーマンと霊についての説明が続いた。

「それでは、今日のゲストに場頂きましょう」

番組の冒頭が終わった瞬間、ゲストを紹介する。

舞臺袖から、白髪の老婆が腰を曲げて中へとってきた。

年齢の割に派手な著を著用していた。著の丈がに合っていないのか、老婆は裾を引きずりながらゆっくりと歩を進めている。

それを見かねたのか、「おい」と、番組スタッフらしき男の聲が、テレビのスピーカーから聞こえてきた。

スタッフの聲に素早く反応した司會者は、進行を早めるためか老婆に駆け寄り彼の手を引いてゲストの椅子まで連れていった。

「お婆さん、お名前を教えて頂けますでしょうか」

エヴラは、席に著いたばかりの老婆に向け尋ねた。

「ミスク・フランソワーズと申します。エヴラさん、よろしくお願いします」

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老婆は自分の名前を告げながら、挨拶する。

それに呼応して、エヴラはうやうやしく頭を下げた。再び老婆へと視線をやってから、早速といったじで口を開く。

「ミスクさん、本日はお越し頂きありがとうございました。あなたのような素晴らしい年齢の重ねられた方をした方に出會えて栄です」

と、歯が浮くような臺詞を述べた。

「ええ、それはそれは。こちらこそ」ミスクはガラガラ聲で応答する。「私の方こそ、この年になってあなたのような神聖なる人と直接お會いできるとは思ってもみませんでした」

「それは霊の思し召しというものです。あなたの日頃の行いが霊に屆き、あなたをここに導いたのですから」

エヴラが緩やかな目をミスクに向ける。

「ええ、霊様のおかげです。毎日信心してきた甲斐がありました」

ミスクは前へを屈めながら、そう言った。

「今日は、あなたの悩み、苦しみ、葛藤、すべてを解決したいと思っております。どうか、心を清らかにして私と向き合ってください」

優しげな口調で、エヴラが聲をかける。

わざとらしいことこの上ないと傍から見れば思うのであろうが、観覧席にいる者はほぼすべてトゥルーマン教団の信者。當然、その場にしたような溜め息の聲が鳴り響く。

「ええ、もちろんですとも。エヴラさん」

そんな最中、ミスクは予定調和の確認を承諾する。

「それでは、早速霊と信することに致しましょう」

臺詞が終わるや否や、エヴラの眉間に深い皺が寄った。

指を二本額にあて、うーんと唸る。

すぐにお経のような呪文の詠唱を始めた。

スタジオがしんと靜まり返っているせいか、彼以外の聲がテレビのスピーカーから聞こえてくることはない。

「あれで霊が呼べたら、たいしたもんだな」

テレビ畫面を見つめながら、俺は率直な想を述べた。

「まあ、そうだよね」

ジゼルがぽつりと聲を返してくる。

エヴラは、霊と信して人の悩みを解決していくという能力の持ち主だ。

教祖トゥルーマンと同じタイプの能力であるとのことだが、彼と比べると若干信能力が落ちるらしい。能力の差については霊の世界の尺度であるそうで、現実世界において正確にどのくらい數値に違いがあるか計測することは難しいそうだ。

言い訳じみており本當に霊が見えているのか怪しいものだが、彼らが決めたそういう設定に晶畫面の前で文句を言っても始まらないだろう。

しの時間を経た後、

「えいや」

と、エヴラがび聲を上げた。

続けて、ミッキーマウスが人を食べている瞬間を目撃してしまったかのように目を見開く。

一呼吸の間を空けた後、大げさに手を上下させた。

そして、最後の十字を切るような仕草を終えると、ようやくエヴラの顔は元のげひた面へと戻った。

「これから霊の言葉を借りて、あなたに言葉を申し上げます。まず、初めに――息子さん……ダスティン・フランソワーズさんは、とても元気にしていらっしゃいますよ。どうか、ご心配なさらずに」

先ほどの威勢と打って変わり、落ち著いた口調で言う。

「ああ、そうですか。それは良かったわ。息子のことはずっと心配だったの」

ほっと一息吐いてそう言うと、ミスクは顔に安堵の表を浮かべた。

だが、その言葉をテレビのスピーカー越しに聞いていた俺は、彼が放ったその聲に強烈な違和を持った。

それはエヴラも同じだったらしく、晶畫面の中で片眉を大きく上げた。

「聲、お若いんですね」

と、尋ねる。

「はい?」

耳に手を當てて、ミスクは訊き返した。

「いえ、聲がお若いと申し上げたのです」

しむっとした表をして、エヴラはもう一度同じような臺詞を繰り返した。

このやりとりを観ていた観客から、どよどよとした聲がれる。テレビのスピーカー越しからでも、それは聞こえた。

「おい、耳が遠いのか。あまりひどいと番組の進行に支障をきたすぞ」

観覧席の反応に焦ったのか、番組スタッフであろう人間の聲が差し込まれる。

「一旦止めますか?」

別のスタッフの聲がした。

すぐに、

「生放送なのにそんなことできるか」

と、先程のスタッフの怒鳴りつける聲が聞こえてくる。

「おい、おまえら。何をしている? 音聲ってるぞ」

この時になってようやくそれに気づいたのか、誰かが彼らにそう注意した。

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