《悪魔の証明 R2》第68話 048 ミハイル・ラルフ・ラインハルト(1)

マイクから返事が聞こえた後、間もなくドアが開いた。

を羽織った巨の男、トゥルーマンがのそりと社長室に現れる。

背後には側近のスピキオの姿もあった。

「トゥルーマン、スピキオ……」

ゆっくりと前に進んでくるふたりを見つめながら、僕は何ら意識もせず彼らの名を順に呼んだ。

「ミハイル。私はもう行くぞ。これからビジネスの打ち合わせがあるのでな。何、心配はいらん。後はこのトゥルーマンに任せてある」

と斷りをれてきてから、ランメルは出口へと向う。

「どこへ行く気だ? まだ話は終わってないぞ、父さん」

彼の背中に向け、そう言葉を吐いた。

だが、手の甲を見せてだけで、適當にあしらわれただけだった。

その道半ばランメルは、うやうやしく頭を下げるトゥルーマンの方へとを向け、

「いいか、トゥルーマン。脳に後癥が殘るような真似は、絶対にするな。お灸を據えるだけでいい。こんな出來損ないの息子でも、私の息子なのでな」

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と彼の肩を叩きながら、不吉な指示を送った。

「かしこまりました。ランメル様」

ランメルの腰にれながら、トゥルーマンが返事をする。

その後、社長室のドアの間口に到著したランメルは思い返したかのように、僕の方へと振り返った。

「ああ、ミハイル。教えるのを忘れていたが……貴様の資産はすでに凍結しておいた。トゥルーマンから聞いたところによると、貴様はろくなところに投資をしておらんようだからな。無論、貴様が反省するまで解除はしない」

と、言い放つ。

聲を失った僕にそれ以上目もくれず、颯爽と社長室を後にした。

嵐が過ぎ去った後のように、部屋は靜まり返った。

部屋に取り殘された僕は、ちっと舌打ちをする。

「ご安心ください。ミハイル様」

しばらくの時を経た後、最初に話を切り出したのはトゥルーマンだった。

「安心? 何のことだ」

その真意を尋ねる。

「すぐにこの場所から釈放して差し上げます。もちろん、し説法をさせて頂いてからですが」

ニヤニヤとしながら、トゥルーマンは答える。

「説法? 説教でもこの僕にするつもりか」

腹立たしくなり、聲を荒げて言い返した。

「ああ、この種の言い方は間違っていますね。おっしゃる通り、これではまるで説教をするかのように聞こえてしまう。こちらがそんなつもりはなくても……ね。どう言い換えれば良いのでしょうか――ああ、そうだ。そう。ただのお話です。ええ、ただの會話を致しましょう」

らかそうなじで語ったが、明らかに何かしら意図を含んだような言い草だった。

當然かのように彼の目は笑っていない。

「説教でも説法でも何でもいいが、テロ組織に資金提供しているような人間と話すことなどない」

と強く忠告し、彼を睨みつけた。

「おやおや」

僕の臺詞に対して、トゥルーマンは両眉を上げる。

「心當たりがないとは言わせないぞ」

僕はさらに威勢を吐いた。

あまりに憎たらしい顔つきだったので、自然と語尾が強くなる。

「テロ組織……というのは、ARKのことですかな。で、あなたは私が彼らに資金を提供していると、こう言われたいわけですな。ふむふむ。あなたがそう思われるのは致し方ないことかもしれない。ですが、殘念ながら……そのようなことは不可能です」

トゥルーマンが、トレードマークの坊主頭を掻きながら言う。

不可能? 不可能とはどういうことなのか。

こいつがARKに金を流しているのは間違いない。ランメルの話でも、その裏付けは取れている。

僕が困している最中、トゥルーマンは、

「……なぜなら、ARKなどという組織は存在しないからですよ」

突拍子もないことを述べた。

「存在しない……だって?」

図らずも、聲を振るわせ訊いた。

「ええ、そうです。つまり、ARKとは私が創り出した架空の組織なのです。というより數百年前、私のご先祖様がその時代時代の権力者様に寄り添うためにARKの原型を作ったと言った方がより正確ですがね」

ARKが架空の組織? いったい何を言っている。

それが真実だとしたら、今までARKと名乗りテロを行ってきたのはどこの組織になるというのだ。

重要人とされる人間が何人も捕まっているのは僕の役職柄多數知っており、それは疑いようのない事実のはずだ。だから、ARKが架空の組織などということは事実上ありえない。

さらに混迷を極めた僕を無視するかのように、トゥルーマンは獨白を続ける。

「これは隣にいるスピキオにも教えていない報だったのですが――この際構わないでしょう。お気づきの通り、テロを起こす目的は株価や為替などを自由に作すること。大正解です、その通り。だけど、これだけでは五十點ですね。ミハイルさん、事には順序というものがあります。ですので、どうやってテロを起こすのか。そこまであなたは考えなければなりません」

「どうやってだって?」

そんなことが果たしてと思いながらも、話の先を促した。

「そうです、ミハイルさん。この、どうやって、という部分が、実はもっとも重要なのです。よく考えてみてください」僕の期待に応えるかのように、トゥルーマンは言う。「自らトゥルーマン教団の人員を使ってテロを行えば、すぐに我々は捕まってしまいます。だからといって、何らかの思想に基づいた本のテロ組織に資金を融通したとしても、その資金の出所はたちまち洗われて最悪私にまで行き著いてしまいます。しかし、これが架空のテロ組織であれば? そうです。資金出資者の私にまで到達することは不可能となります」

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