《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》諸悪の源
「はい、ステラ・マーブルと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
名乗った瞬間、カイル様とアデル様の顔がサッと変わった。
きっと今、お二人の頭の中には同じ名前の人が浮かんでいるのだと思う。
急に鋭い目つきになったお二人にし怯みそうになるけれど、ここは踏ん張りどころ。
ステラ・マーブルはここに居る私だ。
一杯の優しい笑顔を作って、「どうかなさいましたか」と訊ねる。
「いえ……。懇意にして頂いているご令嬢が同じ名前だなと思いまして……」
カイル様のその言葉にアデル様の鋭い目が向いた。
「懇意ですって……? そんな真っ當な言い方では説明出來ない親さがあるのではなくて?」
「……セシル殿下の前だぞ、アデル。それに今話す事じゃ無いだろう」
お二人の間にピリッとした空気が流れる。
フィオナの格を考えると、アデル様が何にお怒りなのか分かるような気がした。
きっと、かつての私と同じような事がアデル様にも起きていたのだろう。
異様に婚約者と親しくする可らしいご令嬢の存在。
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「そっか、カイルはあっちのステラと懇意なんだね。君は小さい頃から聖伝説が大好きだったから無理もないかな。なんと言ってもマーブル家に嫁いだ奧方と言えば、先代聖の子孫だ。その娘ともなれば敬うしかないって事なんだろ。君の気持ちは分かるよ」
「は……、ご理解頂けて有り難い限りですが……。あちらの、ステラ……とは……?」
訝しげに眉を寄せるカイル様の傍らでアデル様の目が再び私に向いた。
その目が數秒かけて徐々に見開かれていく。
「えっ……!? あの、ええと……カイル様! もしかして……! このお方こそが聖様なのではございませんか!?」
「何を言って――あ……? あぁっ!?」
やや大きな聲を上げ、信じられないといった表で壁の肖像畫と私を互に見る。
「似てる……」
「な、なぜマーブル侯爵家には二人のステラ様が……?」
「家の事です」
私はこの一言には全ての不可解さをねじ伏せる力があると知っている。
かつてマーブル家で暮らしていた時、私の存在を知る數ない人間は誰もが口を揃えてこう言ったのだ。
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“家にはそれぞれの事があるから”。
當時は義母と義妹ばかりが大事にされている狀況に対して言っているのだと思っていた。
でも今なら違うと分かる。
あれは、なぜ不義の子である私が堂々と本宅で暮らしているのかという疑問があり、それに対する答えが“家の事”だったのだ。
誰も踏み込んで來なくなる魔法の言葉。
私も使わせて貰う。
「そ、そうですか……。で、でもアデル。こちらのご令嬢が浄化の聖様かどうかはまだ分からないだろう。ステラ様だって聖の子孫なのだ。ここのところ彼は頻繁に王宮に出りしていたから、もしかしたら彼の“癒し”が進化した結果、聖の力が発現していたのかも」
「もうっ。……申し訳ございません、ステラ様。カイル様は金髪の方のステラ様と“懇意”だったおかげで、どうしても贔屓目で見てしまうようなのです。今まで“あちらの”ステラ様をずっと聖様扱いしていたので、別のステラ様が聖として現れた現狀をまだよく理解出來ていないのですわ」
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辛辣だ。
「おい、言いすぎだろ――」
カイル様が言い掛けた時、り口の方から「きゃっ」と聲が上がった。
場違いなほど無邪気な聲にカイル様の聲が掻き消える。
その聲が誰のものなのか、確認するまでも無かった。
「セシル様!」
ダダダッと足音を立ててフィオナが駆け寄って來る。
薄いピンクにたくさんのレースをあしらった、ふわふわのドレスにを包んだフィオナ。
顔をしかめるアデル様の前を堂々と橫切り、殿下の腕にしがみつく。
「やっと……! やっとお會いできましたね! わたし、セシル様に會いたくて何回も王宮に通い詰めたんですよ?」
自己紹介も無いままいきなり腕に抱き付かれた殿下はびっくりして固まってしまっている。
「……えーっと……ゴメン、どなたでしたっけ? どこかでお會いしました?」
「分からないんですか……? ひどい……! 前、わたしを助けてくれたじゃないですか。名前だってセシル様には分かるはずですよ? 當ててくれるまで教えてあげません」
そう言って拗ねたようにを尖らせるフィオナ。
私は思った。
――凄いな、この子。
ただでさえ會場中の注目の的だったところに飛び込んで來てこの押しの強さ。
大だ。
私も見習わないといけない気がする。
思い切って足を踏み出すと、白いヒールの踵がカツッと鳴った。
「フィオナ」
久しぶりに口にする、妹の名前。
フィオナはその時初めて私の存在に気付いたようで、殿下にしがみついたまま目を大きく見開いた。
「えっ……? お、お姉様……!? うそ、どうしてここに……!?」
「さぁ、どうしてかしらね」
ここに來るまでには々な出會いがあった。
素晴らしい人達ばかりだった。
家を出てからの出來事は、とても一言で説明出來るものでは無い。
それにフィオナが居るという事は、お父様もすぐにここに來るはずで。
対決を目前にしてのんびり思い出話をしている時間の余裕は無いのだ。
とりあえず殿下から離れなさいと言おうとしたところ、フィオナが先に口を開いた。
「お姉様、その名前は社界では絶対に出してはいけないんですよ……? 教わらなかったんですか?」
「名前?」
「そうです。瘴気に取り付かれます。洗禮名で呼んでください」
「洗禮名……? そう、洗禮名。なるほど」
お父様、そうやってフィオナを騙していたのね……。
洗禮名は修道院に正式にる神職者に與えられるものだ。
なくともこの國では、社界のお嬢様に與えられるものでは無いはず。
だとしたら、フィオナには私の立場を乗っ取るつもりは無かった……?
そう思うと、知らないうちに自分の名前を捨てさせられそうになっている彼が可哀相に見えてくる。
「フィオナ。それはお父様の噓なのよ。見てごらんなさい。名前を呼んでも瘴気なんて近寄って來ないでしょう?」
「噓……? ううん、そんなはずないわ。今だってすごくが重いもの! お姉様がその名前を呼ぶせいだわ!」
「じゃなくて、ドレスが重いのよ」
アデル様がボソッと呟いた。
これは殿下のツボに嵌ったらしく、込み上げてくる笑いを片手で覆い隠している。
「ドレスって……そういえばお姉様のそのドレス、何ですかそれ! ずるい! わたしもそういうのが良かったです!」
「次からそうすれば良いじゃない。今大きな聲で言う事じゃないわ」
私達姉妹が睨み合う中、ざわついていた會場がふと靜かになった。
侯爵がお出でになったのだ。
記憶の姿よりもやつれたお顔のお父様は、り口のところで呆然と佇んでいる。
――來た。
「ステラ……――」
「お父様。お久しぶりでございます。今日はお話をしたくて、ここでお待ちしておりました」
殿下にしがみつくフィオナとそれに向かい合う私を互に見て、お父様は徐々に目に力を取り戻していく。
怒りの目だ。
「お前は! どうしてこんなところに居るんだ!」
「それも含めてお話したい事が沢山あります。いかがでしょう? 別室でお茶でも」
話しながら気が付いた。
お父様の後ろに誰か居る。
扉の向こうに隠れていて姿が見えなかったけれど、豪華なドレスにを包んだ貴婦人が居る――。
その貴婦人が中の様子を窺おうとして顔を覗かせた時、私は理解した。
お義母様だ。
お義母様が、私と同じの髪のかつらを著けてこの大広間にろうとしている。
私だけじゃなくて、お母様の立場まで取られようとしている。
『病で出て來られない』書類上存在してるだけの母ではなく……社界で活躍する、マーブル侯爵家の侯爵夫人としてあの人が。
怒りがふつふつと沸いてくる。
これ以上利用されてたまるかと、そんな思いが沸き起こってくる。
私の視線に気付いたお義母様はヒッと息を呑み、廊下の壁の向こうにを隠した。
「あなた! やっぱり帰りましょう!」
「う、うむ……。今日は日が悪い。大事な夜會ではあるが、帰るとしよう。ステラ。こっちに來なさい」
ステラと呼ばれたフィオナはぎゅっと殿下の腕にしがみついて、小のように可らしい仕草で首を橫に振った。
「嫌です……。やっとセシル様に會えたんですもの。今夜はゆっくりお話したり踴ったりしたいわ」
「我が侭を言うな。ほら、おいで。セシル殿下と會う機會はお父様がまた作ってやるから」
「いや、俺は結構です……。勝手に決めないで」
「ひどぉい! セシル様、どうしてそんな事を言うんですかぁ!」
可くぷんぷんするフィオナに私達の気を取られた隙に、お義母様は逃走を始めたようだ。
お父様が廊下に向かって「おい、どこへ行く!?」とぶ。
會場が騒然とした。
でもお父様は追い掛けない。
きっと追い掛けたくてもフィオナがかないのでここを離れられないのだろう。
大勢の目があるおかげか、殿下にれてまでフィオナを引き剝がそうとするような強引な行にも出ない。
ただ狼狽えるだけ。
私はこの時初めてお父様を“小さい男”だとじた。
もういい。
お父様が追い掛けないなら――私が追い掛ける。
「殿下! シルヴァも! フィオナをお願いします!」
「えっ!? あ、ああ! 分かった!」
「かしこまりました。主が馴れ馴れしいにフラフラと行かないように、私が見張っておきましょう」
「お前……俺を何だと思って」
主従の會話を背中で聞きながらお父様の橫をすり抜ける。
お義母様が居たせいとは言え、この期に及んでも私に向き合ってくれなかったお父様。
別に期待なんてしていなかったはずなのに、それでも失が心の底に広がっていく。
私の話になんて興味無いかもしれないけど……大事な話だったのよ。お父様。
廊下に飛び出して、お義母様が走って行く後ろ姿を確認した。
廊下にはこれから大広間に向かう貴族達が何組もいたけれど、みんな何が起きたのか分からずに唖然とした表のままお義母様に押しのけられては走る貴婦人の背中を見送っている。
「お、おい! お前、何をする気だ」
ようやくお父様が我に返ったようで、私の肩を摑んできた。
「うるさいっ!」
振り払うとお父様の頭に杖が當たってスコーンと良い音がした。
初めて全力で反抗した……。
なんかすごくスッキリした。
さて、お義母様。
これだけ我が家を引っ掻き回しておいて、一人だけ逃げるなんて許さない。
絶対に捕まえて話を聞き出してやるわ。
完全に頭にが上った私は裏庭に居るランランと連攜した。
私の周囲にそよ風が吹き、ドレスの薄い布がひらひらと靡く。
「ひっ!? っ……た?」
誰かの聲が聞こえた。
知らなかった。連攜をすると私もるらしい。
なぜ誰も教えてくれなかったのかしら。
でもそんなのはどうでも良い事。
杖を掲げて突風を放つ。あれだけ膨らんでいるドレスなら風の影響を強くけるはずだ。
お義母様の足元を狙った突風は廊下の端に押しのけられていた貴族達の真ん中を突き進み、ご令嬢とご婦人のドレスのスカートを次々に捲り上げていく。
「きゃあっ!」
「ご、ごめんなさい!」
わざとじゃないんです! と言う間も無く突風はお義母様に命中し、よろめかせる事に功した。
でもそれだけだった。
意外と幹が強いらしいお義母様は転ぶ事無く勢を立て直し、角を曲がって姿を消した。
追い掛けて走り出す。
すると廊下の端で固まっていた貴族達の中から知っている聲で名前を呼ばれた。
「ステラ様!?」
「あら! こんばんはケリー様! ちょっと家の事でお騒がせしています! 申し訳ありません!」
「そういう事でしたか。……そうだ。これ、良かったらお使いになって!」
同行の侍が持つ小さなバスケットから、小瓶を取り出して差し出してきた。
ポーションだ。
「え、でも。そんな貴重なものを」
「良いのです! 裏庭の畑に生えてきたく聖樹、あれ凄いんですのよ!? 枝で薬草の芽にれた瞬間、一気に薬草が育ちましたの! きっとそういうスキルの持ち主なんですわ!」
「そうなんですか!? ……そういう事なら……お借りします! ありがとうございます!」
「はい! 頑張って下さいね!」
小瓶と杖を持って走る。
ご令嬢としての裁も何も無い行。そんな事は分かっている。
でも、お義母様を――彼を、ここで逃がしてはいけない予がしていた。
私がステラ・マーブルとして社界に顔を出した事を知ったあの人が。お父様とフィオナを置いて一人で逃げ出したあの人が。このまま大人しく家に帰るはずがない。
そんな予でいっぱいだった。
え、社內システム全てワンオペしている私を解雇ですか?【書籍化・コミカライズ】
とあるコスプレSEの物語。 @2020-11-29 ヒューマンドラマ四半期1位 @2020-12-23 ヒューマンドラマ年間1位 @2021-05-07 書籍1巻発売 @2021-05-13 Kin◯leライトノベル1位 @2021-07-24 ピッ○マ、ノベル、ドラマ1位 @2022-03-28 海外デビュー @2022-08-05 書籍2巻発売(予定) @編集者の聲「明日がちょっとだけ笑顔になれるお話です」 ※カクヨムにも投稿しています ※書籍化&コミカライズ。ワンオペ解雇で検索! ※2巻出ます。とても大幅に改稿されます。 ※書籍にする際ほぼ書き直した話數のサブタイトルに【WEB版】と付けました。
8 124たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)
【書籍版①発売中&②は6/25発売予定】【第8回オーバーラップ文庫大賞『銀賞』受賞】 夜で固定された世界。 陽光で魔力を生み出す人類は、宵闇で魔力を生み出す魔族との戦爭に敗北。 人類の生き殘りは城塞都市を建造し、そこに逃げ込んだ。 それからどれだけの時が流れたろう。 人工太陽によって魔力を生み出すことも出來ない人間は、壁の外に追放される時代。 ヤクモは五歳の時に放り出された。本來であれば、魔物に食われて終わり。 だが、ヤクモはそれから十年間も生き延びた。 自分を兄と慕う少女と共に戦い続けたヤクモに、ある日チャンスが降ってくる。 都市內で年に一度行われる大會に參加しないかという誘い。 優勝すれば、都市內で暮らせる。 兄妹は迷わず參加を決めた。自らの力で、幸福を摑もうと。 ※最高順位【アクション】日間1位、週間2位、月間3位※ ※カクヨムにも掲載※
8 193継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
☆TOブックス様にて書籍版が発売されてます☆ ☆ニコニコ靜畫にて漫畫版が公開されています☆ ☆四巻12/10発売☆ 「この世界には魔法がある。しかし、魔法を使うためには何かしらの適性魔法と魔法が使えるだけの魔力が必要だ」 これを俺は、転生して數ヶ月で知った。しかし、まだ赤ん坊の俺は適性魔法を知ることは出來ない.... 「なら、知ることが出來るまで魔力を鍛えればいいじゃん」 それから毎日、魔力を黙々と鍛え続けた。そして時が経ち、適性魔法が『創造魔法』である事を知る。俺は、創造魔法と知ると「これは當たりだ」と思い、喜んだ。しかし、周りの大人は創造魔法と知ると喜ぶどころか悲しんでいた...「創造魔法は珍しいが、簡単な物も作ることの出來ない無能魔法なんだよ」これが、悲しむ理由だった。その後、実際に創造魔法を使ってみるが、本當に何も造ることは出來なかった。「これは無能魔法と言われても仕方ないか...」しかし、俺はある創造魔法の秘密を見つけた。そして、今まで鍛えてきた魔力のおかげで無能魔法が便利魔法に変わっていく.... ※小説家になろうで投稿してから修正が終わった話を載せています。
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