《悪魔の証明 R2》第72話 048 ミハイル・ラルフ・ラインハルト(3)

「確かに仰る通り、それはとても難しいことです」

トゥルーマンはそう回答すると、大きく吐息をつく。

「そんなことができるはずがない」

やはりと思いながら、彼の発言を諌めた。

「ええ、そうですね。他のメンバーが、おいそれと自殺してくれるわけがありませんから。ですので、このルールを実行するとき、リーダーはそのことをメンバーに伝えず、自らメンバーの殺害を実行しても良いという注釈を付加しております」

「な……」

図らずも言葉を失った。

トゥルーマンは、それを嘲笑するかのように臺詞を続ける。

「リーダーはいつか捕まるARKの大として役に立ちますが、他の人間は不要ですからね。関係者は極力ない方が、こちらに被害が及びませんし――リーダーの長を促すという観點もあり、このルールを制定することに致しました」

「何ということを……」

ようやく口から出てきた言葉はそれだけだった。

あまりにひどいルール、まさしく狂人の所行だ。

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さらに、トゥルーマンは口を開く。

「五つめ、ラインハルト社私設警察が、生存者の確認にくる前に、リーダーがテロリストとして疑われそうな場合、リーダーも自殺すること。六つめ……これはルールというか、ただの脅しです。脅しと申しましても、容は、四、五が守られない場合、家族を殺されることを覚悟せよという出資しているこちらからすれば、至極正當な主張になります」

と、獨斷と偏見に満ちた臺詞を述べる。

「そんな馬鹿げたルールが――」

し過ぎて、言葉を詰まらせてしまった。

失笑じりに述べられたルールに対し、激しい憤りをじたせいだ。

「確かに、馬鹿げたルールかもしれません」トゥルーマンは素直にそれを認めた。「私が即興で考えた思いつきも多分に含まれておりますからね。ですが、ルールなどはそのようなものですよ」

「自分で決めておいて、そのようなものだって?」

語気を荒げて、問い返した。

責任転嫁ともけ取れる言いに、激昂を通り越し呆れ果てそうになった。

「ええ、そうですよ。過去、コミンテルンに支配されたGHQにより、思いつきのルールを制定され、それを後生大事に保ち続けている馬鹿な國もあるわけですから。どこの國とはあえて申しませんがね。ですが、その思いつきは、思わぬところで功を奏することが往々にしてあるのです。云われのある嫌疑から逃れるなどというときには、特にね」

「――いずれにせよ、無益なルールであることは疑いようがないだろ」

「いいえ、そうでもありませんよ。このルールを始めてからというもの、かなり狀況は改善され、概ねこちらの意図する通りにくようになりました」

かなり意図と違う応答が返ってきた。

これ以上無益云々を問答をしても無駄だと気を取り直して、

「そんな馬鹿なものでARKの人間はいているのか?」

と、尋ねた。

「ええ、概ね。ですが、紙で詳しく指示を與えるわけにはいきませんので、どうしても伝言ゲームになってしまい、だいたいはルールに沿ってはやってくれるのですが、し改変されてローカル・ルール化されてしまうケースがなからずあります。まあ、貧民は低能ですからねえ。決められたルールなどそのまま守れるはずもありません。こればっかりは仕方がありませんので、多は目を瞑ることにしています」

トゥルーマンは緩やかな笑みを頬に浮かべながら言う。

こいつはやはり気が狂っている。

僕はまずそう思った。

自殺、他殺、と人の尊厳を平気に踏みにじる行為を、それも他人に押し付けるとはまさに鬼畜の所行だ。

ルールの説明をこれ以上聞いていると目眩がしそうになる。

気を確かめるため頭を振ってから、次にトゥルーマンの隣で靜かに佇んでいる人を見やった。

このような話を初めて聞いても、その人、白の仮面スピキオは我関せずといったじだった。レイからは聞いていたが、何事にも興味を抱いている素振りは見せず、らしきものもまったくじない。

やはり、こいつも狂人のひとり。教祖トゥルーマンに限らず、青年活部の人間も狂気に魅せられているのだ。

「なぜ、僕にARKの仕組みを教えてきたんだ。當然、何か理由があるんだろう」

吐き気を抑えながら、尋ねた。

「擔當直に申し上げましょう。あなたが次期ラインハルト社の會長だからです。ですから、ランメル様の忠実な僕である私は、後継者であるあなたに私が知るすべてを伝える必要があるのです。ランメル様のような神の強いお方になって貰わねばなりませんからね」

トゥルーマンはうやうやしく述べる。

おそらく都合の良いことを言っているだけだろう。その証拠に、この部屋にった時から今まで目が一度も笑っていない。

ふん、と僕は鼻を鳴らした後、挑戦的な視線を送った。

「あいにくだが、僕はラインハルト社に戻る気はない。したがって、父さんの後継者になることはありえない。その前に、トゥルーマン。僕がこのことを世間に公表しないとでも思ったのか」

語気を強めて、脅しをれる。

これに、

「ほう」

と、トゥルーマンは唸った。

その後、なぜか僕の背後に回ろうとした。あらぬことを想像した僕の頬は恐怖に引き攣った。

だが、結果から先にいうと、それは取り越し苦労だった。

両手を縛っていた紐は、僕に恐怖を與えたそのトゥルーマンによってほどかれた。

予想に反して攻撃を加えてこなかったせいでし拍子抜けしたが、気にせず椅子から立ち上がった。

長時間同じ勢で座っていたせいか、足と腰がし重い。

そう思ってから、部屋の外に出ようとしてを前にやったその時だった。

ぬうっと巨が正面に立ちはだかる。

その巨の主トゥルーマンが、おもむろに僕の肩に手を置いてくる。

僕はそのがした瞬間、その手を振り払った。

それを気にした素振りも見せず、トゥルーマンは僕を見下ろしながら言う。

「ミハイルさん。我々は世間に公表されても一向に構いませんよ。ですが、これがもし世間に伝わった場合、あなたの大事な人に何が起こってもおかしくはありません。不慮の事故というのはいつ何時起こっても不思議ではありませんから。ただ、そのあなたにとっての大事な人がランメル様ではないことだけは確かですがね。それでは、お引き取りください」

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