《【電子書籍化】殿下、婚約破棄は分かりましたが、それより來賓の「皇太子」の橫で地味眼鏡のふりをしている本に気づいてくださいっ!》第12話 地味眼鏡、改めエルサイド帝國皇太子

ゆっくりと人が退出していく中、蒼白な顔で震えるエリザ様だけが殘る。

「なあ、アイリーンに何をやろうとした?」

「そ、そんな危害を加えようなどとは、しておりません。ただ、しだけ自分の分を理解していただこうと」

「公爵令嬢という分をか?」

「い、いえ、婚約破棄された、令嬢という」

「へえ」

すっかり萎し切った様子の彼を、目を細めた殿下がじっと見る。怖い。私だったら倒れているかもしれない。

「で、何をやろうとしたんだ?」

「変薬を、その、しだけ」

「効能は」

「は、し変わる程度のもので、大したものでは」

「俺はそれで死にかけたんだが」

「……」

震える彼を、冷たい目で見つめる橫顔を、じっと見ていた。私が口を出すような場面でも無いだろう。ただ、り行きを見守る。

「罪に関しては後から決める。俺が変裝していた以上、大きな罪にはならないとは思うが、俺個人の評価としては別だ」

「……」

「ああ誤解すんなよ。俺は、殺されかけたことに怒ってるんじゃない。そのつもりはなかったのは分かってるしな。俺は、アイリーンを害そうとしたことに怒ってるんだ」

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すっと、腰を引き寄せられた。見せつけるように、私の髪をとって口付ける。

「理解したか?」

「は、はい」

「何か、アイリーンに言うことは?」

ぐっと強くを噛んだ彼が、こちらを向く。

「も、申し訳ありませんでした」

蚊の鳴くような聲に、心笑ってしまった。あの時の自信はどこへいったのか。

できるだけ真面目な顔を作って、それをける。

調べたところによると、彼の使った変薬は、本當に僅かな効能しか持たないもので。皮が変わるといっても、薬とすら気づかれないレベルだった。調不良か、荒れか、と思われる程度の。

それで恥をかくと思うところに、彼の価値観があるのだろう。

正直、私としては、そんな薬を盛られた程度で怒るつもりはなかったのだが。殿下が害されたとなれば、話は別だ。

言いたいことはあったはずなのだが、それも全て殿下が言ってしまった。私にできることはただ一つ。

殿下の寢るベッドに上がり、両手をばして、ゆっくりと殿下に縋った。するり、と頬をり付けて、殿下の手が私の腰に回ったのを確認する。

そして、彼に視線を送り、微笑んでみせた。

一瞬にして、彼の顔が強張る。

もともと、私の婚約者を奪ったのも、分と、財産がしかったからだという。それ以上の優良件にしなだれかかる私は、さぞや気分を害するものだろう。

楽しげに、殿下が笑った。さすが、容赦がない、と耳元に吹き込まれる。その吐息に頬を染めれば、ぐっとエリザ様が手を握った。

その瞬間、勢いよく扉が開く。

「エリザ!」

王太子殿下の絶と、それを制する周囲の聲。息を切らした様子の彼は、を噛み締めて震えるエリザ様を見てふっと微笑みかけ、ベッドの上に半を起こした殿下を見て凍りついた。

「久しいな」

「?! お、お久しぶりですヴィクター様」

「このが、今のあなたの婚約者だということで間違いはないな?」

「は、はいっ」

「これで、気兼ねなくアイリーンをもらっていける。こいつは俺のものだから、手出すなよ」

ふっと、殿下、いやヴィクター様が笑った。ぐっと私の腰を抱き寄せて、挑戦的に微笑む。

「え、は、ちょ」

「どうした? 婚約は破棄されたんだ、アイリーンも同意してる。どこに問題がある?」

同意した記憶はないけれど、斷る理由もないので黙っていることにする。

どちらも同じ継承権を持つ王子だが、その貫祿と実力の差は明らかだった。もともと國力に差があるのだから當然とも言えるが、それでも、あの時に私に婚約破棄を突きつけたあの人の表だとは思えなくて。すっとのすく心地がした。

「や、あのっ……し前まで、アイリーンは私の婚約者でして」

「知っているが? ……婚約破棄して捨てたお前のような男がアイリーンの名を呼ぶな」

「す、すみませんっ! ですから、こちらとしても、その、アイ、いえ、セラーズ公爵令嬢が以前からあなたと親しくしていた可能を捨てきれないと言いますか」

「は?」

笑顔の仮面をかなぐり捨てたヴィクター様が、低い聲で思わずと言った調子で聲をらす。

「お前が? そこのエリザと堂々と浮気をしてアイリーンを捨てた他ならぬお前が、アイリーンの不貞を疑うのか?」

「……っ」

「俺とアイリーンは確かに彼の留學時代の友人だが、決して仲ではなかった。それどころか、軽くれることさえ婚約者がいると拒まれたよ。アイリーンはどこまでも、お前に盡くしていたんだが」

「……」

「都合が悪くなるとだんまりか?」

心底苛立っている様子のヴィクター様の腕に、そっとれた。その苛立ちを隠さない瞳が私に流れ、思わずびくりと震えた。それを認めたヴィクター様が、しだけ表を緩める。

「それくらいで、大丈夫です」

「だが」

「國問題になったら、面倒です。あの人はどうでもいいですけど、私は、余計なものに殿下の時間を奪われたくはないので」

「……分かったよ」

不満げに顰められた眉。渋々と言った様子で、ヴィクター様は2人に向き直った。

「アイリーンに謝するんだな。そこのから俺の命を救ったのは、間違いなくアイリーンだ」

「……」

「変薬についてここまで詳しい人は、帝國中探してもいないだろうさ。俺がもらっていくが、相當な才能の損失だろうよ。俺が知ったことではないが」

まだまだ言い足りない、と言った様子のヴィクター様だけれど、彼もこれ以上は國的にもよくないと分かっているのだろう。何も言えなくなった2人を冷たく一瞥したあと、一言吐き捨てた。

「ああ、下がっていいぞ」

邪魔者を払うように、ヴィクター様が手を振る。そうして、彼のいう2人きり、側近だけがいる狀態になった。

「長かったな」

「え」

「……留學時代から、ずっと好きだったんだよ」

ぼそりと耳元で呟かれる。それが落ち著かなくて、染まる頬が恥ずかしくてを捩るも、その力が緩まることはない。

「ようやく、手にれた」

満足そうに呟いて、私を無理やりに橫にする。そのままぐっと私を抱きしめた彼から、やがて緩やかな寢息が聞こえてきた。

あの時のような景。ただ違うのは、私たちの関係に人という名前がついたこと。

私を抱きしめ、全てを委ね切って眠る彼の姿は、しの優越と、圧倒的な多幸を呼び覚ます。

願わくば。

この人が、皇太子という重圧の中で生きるこの人が、ヴィクター様であれる場所が、いつまでも、私の隣であればいい。

その穏やかな寢顔を見て、小さく微笑んだ。

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