《【電子書籍化】殿下、婚約破棄は分かりましたが、それより來賓の「皇太子」の橫で地味眼鏡のふりをしている本に気づいてくださいっ!》第18話 お願いだから、話を進めてほしい

「依頼容は?」

「アイリーン・セラーズの暗殺」

「アイリーン・エルサイドだ」

「突っ込むところそこですか!?」

「俺が依頼をけた時點ではセラーズだったから問題ない」

律儀に乗ってくれる暗殺者の彼。意外に真面目だ。

私の言葉は、完全に無視される。どうにか本題に戻そうと、無理矢理言葉を重ねた。

「他にはありますか!」

「ない」

「そうですか!」

お願いだからそんなに不満げな目で見ないでほしい。私は至って常識的な行をしているつもりなのだ。明らかに非常識なことばかり繰り返しているのは、ヴィクター様の方だろう。

「それで、俺をどうするつもり」

「証人としてしばらくこの城で過ごしてもらう。今すぐお前の証言を元にヴァージルに詰め寄ってもいいが、どうせいつものように逃げられるだけだろう。然るべき時まで、切り札として囲い込ませてもらうぞ。もともと、わざわざ生け取りにしたのもそのためだ」

「……可の子たちが、俺のことを待ってるんだけど?」

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「……お前、どっちが素だ?」

「どっち? 俺はいつだって、の子の味方だよ?」

格が強すぎる。屬過多、とどこかで聞いた言葉が頭をよぎった。

「まあどうでもいいな。場所は與えるから、そこで過ごせ。俺に雇われた、ということだ。理解できるな? 金は出した。暗殺を依頼する代わりに、ただ城で過ごすという任務を依頼する」

「基本的に、どんな任務でも俺の拒否権はあるんだけど」

「……」

無言でじっと彼を見つめるヴィクター様。その視線が怖い。有無を言わせぬ迫力はさすがと言ったところだが、彼に堪えた様子はなかった。

「俺としては不本意。待たせてるの子たちに、申し訳ないでしょ」

「……私の護衛騎士、というのは如何でしょう?」

「アイリーン、正気か?」

「正気も正気です。悪くない案だと思いますよ? 私の護衛が不足しているのも、これからもヴァージル殿下に狙われる可能を考えたときに々心許ないのも事実です」

「だからといって、こいつである必要があるか? お前の命を狙った男だぞ?」

「ヴィクター様らしくないですね、し冷靜になってください」

苛立ったような様子のヴィクター様に、そっと手をばした。

その腕に軽くれ、そっと顔を見上げる。最初は頑なにそらされていた瞳が、しばらくして、私を捉えた。苛立ったようなが、ゆっくりと消えていく。

「……悪い」

「はい」

「だが、理解してくれ。俺は今まで、散々我慢したと思うんだが」

「……っはい」

「俺を待っていた新妻の姿を最初に見たのが、他の男だったという事実に、相當に苛立っている。加えて、その時に他の男に口説かれていた事実も、気に食わない。自分で企畫したことであってもな。覚悟はしていたが、実際に経験するとなんの役にも立たなかった。冷靜さを欠いたことは謝るが、それは分かってくれ」

「はい」

やはり、今日のヴィクター様はしばかり余裕がない。そんな彼の姿は新鮮だったけれど、いい加減、暗殺者の彼の視線が痛い。

「俺、放置? ひどくない?」

「このまま一晩中放置してやってもいいが? 俺としても、むさ苦しい男よりもアイリーンと話をしたい」

「ひどいな、むさ苦しいとか。の子はみんな、綺麗って言ってくれるのに」

「自分で言ってて恥ずかしくならないのか、それ?」

「……君、なかなか煽ってくるねえ?」

「いや? 思ったことをそのまま言っているだけだ。頭と口がつながっているらしい誰かさんを見習って、な」

いつまで経っても終わらない煽り合いに、ため息が出る。ヴィクター様が普段の調子を取り戻したのは嬉しいことではあるのだが、このままだと話が進まない。

「本題に戻しますよ!」

「はーい」

「……ああ」

「ですから、私の護衛騎士などどうですか!」

「さっきジェクター殿下も言ってたけど、なんで俺なのかな?」

「は?」

「ジェラシーと、ヴィクターを掛け合わせて、ジェクター。似合ってるよ」

「おい」

「ですから! 本題に戻ります! くだらない煽り合いはやめてください!」

本當に、どうしてこうなった。

私を狙っていた暗殺者を捕まえて、指示をした人間をはかせる。語だったら最高に盛り上がる、迫した場面のはずなのに、あまりにも登場人に危機がなさすぎる。

「なんであなたなのか、ですか? あなたが、何よりも、ヴァージル殿下に対しての抑止力になるからですよ」

ふう、と息をつく。なんだか、無駄に疲れた。

「自分で私を殺すように指示を出した暗殺者が、いつの間にか私の護衛騎士になっているんです。的な方法は、何もヴァージル殿下に指示されてもいなければ伝えてもいないのでしょう? だったらきっと殿下は、あなたが私の暗殺のためにしれっと護衛騎士に潛り込んだと思うはずです」

「……そういうことか。アイリーンちゃん、頭いいね」

「ちゃん?」

不穏な聲で呟くヴィクター殿下は、無視する。

「まだ暗殺は実行中、準備中だと思わせてください。そうすれば、新たな策に出ることはないでしょう?」

「見抜かれてる可能は考えないのかな?」

「見抜かれていたとしても、問題はありません。私たちが殿下の思を見抜き、その上であなたを確保したという事実を殿下が理解すれば、次はこのような単純極まりない手段に出ることは避けるはずです。疑心暗鬼に陥って、自滅してくれるかもしれません」

「俺が裏切る可能は?」

「あなたの行原理は、わかりやすくお金ですから。ヴァージル殿下に対しての忠誠心など、かけらも持ち合わせていないことは知っています。萬が一しでも怪しいきがあれば、気づいてくれる優秀な人もいます。今回、あなたのきを見抜いたように」

「そう、正解。いいよ、引きけようか。面白そうだし、何より、こんな可い子の騎士だなんて、心躍るからね。強気で可い子は、好きだよ」

今にも何かを言いかけそうなヴィクター様のことを、じっと見つめる。私の視線をけたヴィクター様は、固く引き結んだ口元をもぞ、とかしかけて、けれど靜かに口を閉じた。

「では、これからお願いいたしますね、暗殺者さん?」

「よければ、レオ、と呼んでくれないかな? 君に名前を呼ばれたら、心躍りそう」

「……必要であればその時に呼びます。しばかり、機嫌を損ねてしまうので」

「アイリーンに何かしたら、死んだ方がましだという目に遭わせてやるからそのつもりで仕事しろ」

今度は、何か言いたげな様子のレオを睨みつける。視線をじたらしい彼は、ふ、と笑って口を閉じた。

護衛騎士という選択はまあ良い。良いのだが、明らかに相が悪すぎる2人に、これからのことを思って小さく頭を抱えた。

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