《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》3・歌と魔力の披

「いよいよですわね。今年の歌姫たちの披會では、どのような不思議なことが起こるのかしら」

「前回の、國王陛下のお誕生日祝いのときは、ひどいものでしたわねえ。ひとりだけ、空気を香油のようないい匂いにした男爵令嬢がおられましたけれど。他の三人のお歌では、そよ風ひとつ吹かなくて」

「あのとき、香りを出現させた男爵令嬢は、公爵夫人になっておられるな」

「今回は王子殿下がお喜びになるような、魔力の高い歌聲が聞けるとよろしいのですけれど」

「レイチェル嬢ならば大丈夫だろう。なにしろ、侯爵家の家柄。ご親族が王族につらなるを引いておられますし、さぞや魔力をめた歌を披されるに違いない」

ざわざわと、歌姫たちの舞臺に集まった貴族たちは客席で、期待に輝く目をし、あれこれと雑談に花を咲かせている。

會の會場は、太い何本もの柱に支えられた屋のある、大神殿だった。

壁はないので外にまで、歌聲は響き渡る。

一段高くなっている舞臺前には、両脇にずらりと椅子が並んでいる。

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真ん中の舞臺よりも高くなっている場所には、王族とその親族である公爵家が陣取っていた。

(うわあ。なんだかすごいことになってる。いつにも増してこの人たち、気合がみなぎってるわ)

舞臺裏では、私を含めた四音の歌姫が、一張羅を著て自分の番を待ちけている。

私はレイチェルたちの、すさまじいまでのごてごてした、著飾りぶりに引いていた。

(カエルの卵は巨大化してるし、ミノムシは三連になってるし! 馬糞はいつもより三倍増しの、てんこ盛りになってる!)

間もなくラッパが吹き鳴らされ、王子殿下のお出ましとなった。

レイチェルたちはキャーッとめきたち、舞臺裏から顔をのぞかすようにして、王子のことをじっと見つめている。

「ああん、素敵。なんて気品に満ちたお顔立ち」

「はしたなくてよ、エミリー。でも本當に、なんて優雅なお方なのかしら」

「金髪がさらさらと額に落ちて、わたくしうっとりしてしまいますわ」

そんなに男前なのだろうか、と私もそっと彼たちの背後から、王子の顔を盜み見た。

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金髪に灰の目。當たり前だが、豪華な裝束にを包んでいる。

(別に悪くはないけれど、普通。ちょっと口元にしまりがないわね。いかにも甘やかされた、お坊ちゃん、てじだわ)

ダグラス王國の第一王位継承権者、世継ぎのランドルフ王子に対する私の印象は、それだけだった。

王子の背後には摂政である公爵が立っているが、國王夫妻のお出ましはない。

最近、國王の調が思わしくなく、王妃はほとんどつききりで看病している、との話だった。

だからよほど重要な、外や國政に絡んだ公務でもないと、出席はしないらしい。

「こたびは我が誕生日をともに喜んでくれて、余は嬉しい。さあ、歌姫たちの聲をみなで楽しもうぞ」

王子の言葉と、それに対する観客の、わあっという拍手喝采を合図にして、披會は始まった。

殘念ながら歌姫には食べる機會はなかったが、客たちは手にワインなどのグラスを持ち、軽食の乗ったトレイを従者に持たせている。

まず最初はカエルの卵をぶら下げた、ブレンダが舞臺の中央に上がる。

固唾をのんで観客が見守る中、張した様子ではあったが、ブレンダはを張って歌い出した。

(ふーん。さすがに上手いじゃないの)

私は素直にそう思った。か細いが綺麗な歌聲に、観客たちも聞きっている。

観客はすべて貴族であり、前列ほど高位の家柄のものが座っていた。

もちろん、歌姫たちの家族も來ているし、自分の子息に迎える花嫁探しに、

一家総出で來ているものたちもいる。

観客席の青年貴族たちは、それぞれ手に三本のバラの花を持っていた。

歌が終わったとき、友達としてお近づきになりたい、と思った場合には白いバラを。

人になってしい、という場合には赤いバラを。

家族ぐるみで、結婚を前提にした正式な付き合いを申し込みたい、という場合には、黃いバラを舞臺に投げれることになっているのだ。

の部分にはリボンが結ばれ、そこに投げたものの名前が記されていた。

複數のバラが投げられた場合、後日、歌姫がその中から、相手を選べることになっている。

が、たいがいは歌姫の親の希で、より分の高いものが選ばれた。

もちろん、王子がんだ場合、決定権は最優先で王家にある。

「あら。なんだか上から、白いものが降って參りましたわ」

「おお。これは花びらじゃないか」

「ブレンダ嬢の歌の魔力で出現したようだ。なんとしい」

観客たちが言うように、ブレンダが歌っている最中に、なにもない天井から大量の白い花びらが、舞臺を囲むようにして、ひらひらと舞い落ちてきた。

花びらは床に落下したり、誰かの手にれた途端、ふっと消えてしまう。

「なにこれ、綺麗! やるじゃないの、カエルの卵ったら」

思わず私は、口に出してそう譽めていた。うっかりカエルの卵と言ってしまったが、なんのことやらわからないようで、

周囲の小姓や侍、レイチェルたちにも聞き咎められずに済んだ。

歌い終え、ブレンダは靜かに頭を下げる。

すると客席から十本の白いバラと、六本の赤いバラが投げれられた。

ブレンダはそちらに向かって、想よくお辭儀をしたが、どこか悔しそうではある。

おそらく王子が無反応だったのと、予想したよりバラの本數がなかったからだろう、と私は思った。

次にエミリーがれ違いに、舞臺へと上がる。

そして歌い出して間もなく、再び不思議なことが起こった。

「なんだか目の前が、ピンクにかすんできませんこと?」

「ええ、本當に。これは霧ですわ。綺麗な、ピンクの霧が渦を巻いて」

「幻想的で、しいですわねえ」

それがエミリーの、歌聲の魔力らしい。

客席はうっとりした表になり、やわらかな霧のに目を奪われている。

私は今度は口に出さないよう、慎重に心の中だけで言う。

(へええ。ミノムシもすごく上手だわ。ずっと聴いていたくなっちゃう)

エミリーが歌い終えると再び拍手が起こり、會場からは白いバラが十五本、

赤いバラが九本、さらには黃い花も二本、投げれられる。

隣で見ていたレイチェルの額に、むきっ、と管が浮いたのを私は確かに見た。

おそらく投げられたバラの數の多さに、嫉妬したのだろう。

けれど嬉しそうに戻ってきたブレンダに、レイチェルは作り笑いを向けて、を張って舞臺へと上った。

たいした自信家だ、と私はちょっと心してしまう。

レイチェルが舞臺に上がると、さすがに侯爵家の令嬢だけあって、

ひときわ大きな歓聲が上がった。

王子も椅子に座り直し、姿勢を正して聞き勢にる。

そしてレイチェルが歌い出し、メロディがクライマックスに差しかかったとき。

ぱあっ、との蝶が大量に出現した。

蝶は會場中を舞し、人々の頭や柱に止まり、見惚れるほどのしさだ。

歌も素晴らしく、私はこれまでのレイチェルからの暴言もいっとき忘れ、聞き惚れてしまったくらいだ。

(すごいわ、馬糞侯爵令嬢! 格は最低だけど、歌は最高!)

そしてレイチェルが歌い終えると花びらや霧と同様、の蝶も姿を消してしまう。

舞臺は一瞬、シンとなった後、わあっという大歓聲に包まれた。

王子も立ち上がって拍手をし、レイチェルは歓喜に頬を赤く染めている。

そして同時に、ばばばっ! と數えきれないくらいの白いバラと赤いバラ、

それに黃いバラが客席から投げれられた。

ただ、王子だけは再び椅子に腰を下ろし、途端にレイチェルはがっかりした顔になる。

舞臺裏にもどってきたレイチェルは、馬糞頭の髪飾りをブチッともぎ取り、

自分の侍に投げつけた。

よほど王子のハートを止められなかったことが、悔しいらしい。

そしてなぜか、私のことを思い切り睨みつけてきた。

「あら。わたくし、なにかいたしました?」

尋ねるとレイチェルは、ふんっ、と鼻息荒く橫を向く。

答えられるはずがない。ただの八つ當たりで、私はなにもしていないのだ。

(でもすごいわね。三人とも、歌に素敵な魔力があったんだわ。私だけなにもないと格好悪いけど、まあ仕方ないわよ。なんたって、貴族でもなんでもないんだから)

とにかくさっさと終わらせよう、と私はすたすたと舞臺に歩いていき、

教えられたとおりにまずは王子に、それから両側の客席に頭を下げたのだが。

「そなた! そなたに決めたぞ、余の伴は」

「はいっ?」

いきなり王子が言い、私は腰を抜かしそうになり、観客たちはどよめいた。

背後にいた取り巻きらしき、摂政や位の高い貴族たちが、慌てて止めにる。

「王子殿下、まだ。まだでございますぞ」

「いささか早すぎます。しばしお待ちを」

「ともかく歌を聞いてから。お妃候補になされるのは、それからでなくては」

えええ、と王子は駄々っ子のように不満な顔になる。

「余は、黒髪の娘が好みなのだ。顔立ちも、赤味がかった琥珀の、不思議な瞳のも気にった。だからもう、これに決めた。お前、名はなんという」

これ、と指を差された私は、不快に思いながらも、ドレスの裾を上げてお辭儀をする。

「キャナリー・マレットでございます、王子殿下」

「そうか。うん、歯も綺麗で健康そうだ。これならば、世継ぎの子もたくさん産めるだろう」

「殿下、殿下、お待ちくださいというのに」

「マレット家は子爵ですぞ。後宮ならばまだしも、お妃候補としては、いささか爵位が低すぎます」

「ならばどこか、適當な公爵家にでも、養に出せばよいではないか。あるいは、マレット家の爵位を上げればよいのだ。余の好みの令嬢を、引き合わせてくれた禮だ」

「しかしお歌もまだですし」

「歌の魔力など、なんの役に立つ。花や蝶やら霧ならば、庭園の噴水と花壇でいいではないか」

私の気持ちを一言も聞かずに、王子は勝手に話をすすめる。

呆然とした私の目に、観客席の後ろのほうで、出世の期待で瞳をキラキラ輝かせている、マレット子爵夫妻の顔が映った。

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