《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》4・そして私は追放された

このままでは本當に、さっき顔を見たばかりで、印象も最悪の王子のもとに

嫁がされてしまう。

(ちょっと本當に、誰かこのわがまま王子を止めなさいよ! 王子が顔を見ただけでこれにした、って決めたが、將來の王妃様になってもいいの?)

私はやきもきしていたが、相當に手に負えない格なのか、臣下たちの誰ひとりとして、強気で勝手な王子のことを叱ったりはできないようだ。

仕方なく、私が言う。

「ランドルフ王子殿下。そのように言っていただけるのは栄ですが、せめて、わたくしの歌を聞いてから、お決めになっていただくことはできないでしょうか」

うーん、と王子は腕を組み、しかめっ面をする。

「歌だって、『四音の歌姫』なのだから、上手いに決まっているであろう」

すると、別の臣下も説得にかかってくれた。

「いやいや、やはり一度だけでも聞くべきです。今はまだ、令嬢の歌にどのような魔力をめているのか、わからないままではないですか。萬が一にもよくない魔力でありましたら、國王陛下や王妃殿下に叱られますぞ」

Advertisement

するとようやく、王子は気を変えたらしい。

「そ、そうであるか。母上たちに怒られるのは避けたいな。余はそろそろ、

歌に飽きてしまっているのだが、仕方ない。では、さっさと歌うがよい」

王子はまるで犬にでもするかのように、手の甲を上にして、こちらに向かって手を振った。

(なんなの、この人)

私はすっかり呆れて、偉そうに椅子にふんぞり返った王子を見る。

格がひどいのはともかく、レイチェルたちだってこの日のために、どれだけ練習してきたと思っているのか。

それを見た目の好みにしか興味がないなんて、失禮にもほどがある。

私は腹を立てながらも義務を果たすべく、一禮してから歌い始めた。

「ひかりのめぐみ のにみち くものしずくも やがてちにしみ はなはひらき たいがとなりて うなばらへ」

両手を広げ、たっぷりに、私は朗々と歌った。

いつもより聲がよく出ているのが、自分でもわかる。

観客は私をじっと見つめ、誰も一言のおしゃべりもせず、耳を傾けてくれていた。

王子などは鼻の下をばし、とろけそうな顔をして私の歌を聞いていたのだが。

「──いつか、たびを、おえる」

歌い終わったそのとき、ズズズズ、という、重たい地響きのような音がした。

わずかに震じる。

観客たちは不安そうに、隣のものと互いに顔を見合わせた。

(なんだろう、地震?)

私も不安になって周囲を見回し、たちすくんでしまう。

地響きはすぐに収まって、大きな地震にはならなかった。

しかし、私の不安はそのままだ。

なぜなら、たったひとつの拍手もおこらなかったからだ。

もちろん、一本のバラさえも、客席からは投げこまれない。

かわりに席の後ろの方に、真っ青になった私の養親、マレット子爵夫妻の顔が見えた。

靜寂を破り、ガタン! と音をさせて王子が立ち上がる。

「おい、いったい、今のはなんであるか。そなたの歌には、地震を起こす魔力があったのか!」

「はい。どうもそのようです」

私も今知ったのだが、事実だと思ったのでそう言った。

王子は、かんしゃくを起こしたように言う。

「すごく怖かったではないか。余を怖がらせて、どうしようというのだ! 余の魔道で地震を止められるかどうか、試したかったわけではないだろうな」

「とんでもございませんわ。もとより、このようなことになるとは、夢にも思っておりません。大変失禮いたしました。大事に至らなかったこと、それがせめてもの救いです」

「冗談ではないぞ! その顔と聲で、余をたぶらかしおって、なんと不吉ななのだ!」

いや別に、たぶらかしてはいないでしょ、と思ったのだが相手は王子だ。

黒でも白にできる人に、正論を訴えても仕方ない。

「申し訳ございません。どうか王子殿下の寛大な心で、お許し下さいませ」

私はひたすら謝罪する。このわがまま王子にかかっては、気に食わないから死刑! などと言い出しかねないと思ったからだ。

「そのは、不吉だ!」

観客の誰かがんだ。それはさきほどレイチェルに、バラの花を投げた青年貴族だった。

そのびをきっかけに、次々と私に向かってひどい言葉が投げつけられる。

「まったくだ、本當に不吉なだ、宮廷にいさせてはならん」

「そうですわ! なにせ森のあやしい薬売りから連れてこられた、という噂もあるとか」

「マレット子爵! これはあなたの責任ですぞ」

「出て行け! 不吉なめ」

「そうだ、出て行け! このはダグラス王國に災いをもたらすに決まっている!」

んだ中にはおそらく、レイチェルたち三人の親族や、取り巻きたちもいただろう。

観客席からはバラの代わりに、次々にものが投げつけられた。

自分ではなく小姓のものらしき靴、ワインの空瓶、コップ、食べかけの焼き菓子。

「不愉快だ! 余の好みの黒髪でなければ、投獄ものだったぞ! もういい、余は部屋へ戻る!」

立ち上がって王子が姿を消すと、さらに観客席の、私をののしる聲は大きくなっていく。

私は処罰されなかったことにホッとしつつ、無責任に騒ぐ客席の貴族たちに、だんだんと腹が立ってきた。

こちらがみもしないのに、森から連れてこられて學ばされて歌わされ、あげくに暴言をあびせられるなんて理不盡すぎる。

私はさきほど、頭にポコッとぶつけられた靴を拾い、思い切り客席に投げ返した。

「いい加減にしなさいよ、このひとでなし連中! わがまま王子を好き勝手にさせたあげく、大勢でひとりをよってたかってののしって、恥ずかしくないの?」

こちらの剣幕に気圧されたように、會場は靜かになった。

だがこちらをさげすみ、睨むような白い目はそのままだ。

「なにが貴族よ。人として最低だわ、あんたたちなんか!」

私は吐き捨てるとドレスの裾を持ち上げて、大で舞臺を降りた。

舞臺裏ではレイチェルたち三人娘が、腹を抱えて笑っている。

「地響きって! いったいなんですの、あなたのお歌の魔力!」

「絶対に、空腹になったあなたのお腹の音でしょう? そう考えたら、おかしくておかしくて」

「それとも食べ過ぎてが重くなったせいで、足音だけで地響きが起こったのかしら。ああもう、笑いすぎて涙が出てしまいましたわ」

「まったく、なんて下らない魔力!」

「気味の悪い、腹の音のお歌。あなたらしいわ、キャナリー」

「下品なゴミ捨て場には、ぴったりでしたわね!」

勝ち誇ったように言う三人に、私はそれでも微笑んでみせた。

「あらそう。でもあなた方のお歌は、素晴らしかったですわ。わたくし、歌の評価には、公平でありたいと思っていますの」

えっ、と三人は、返事に困ったのか言葉に詰まる。

「もちろん、人としては、心底軽蔑しておりますけれど」

私はそう言い放ち、不快な會場を後にしたのだった。

    人が読んでいる<【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺愛され聖女に目覚める>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください