《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》8・歌のと彼らの目的

「はい、あーんして下さいな」

私はスープを木のスプーンですくい、

を起こしたジェラルドに食べさせようとする。

「い、いや、大丈夫だ。ひとりで食べられる」

「だって、さすがにった肩の傷は、まだ塞がってなかったじゃないの。それにスープのった木のボールって、結構重いのよ。零して汚したりしたら、きっとラミアが怒って化けて出るわ」

そう言って、私はなおもスプーンを差し出した。

ジェラルドは、今度は口を開いて食べてくれる。

「ん。うん。なかなか、味しいな」

「よかった。貴族のお料理に比べたら質素すぎて、口に合うか心配だったの。でも材はどれも新鮮だし、なんたってラミアの調味料はすごいのよ」

「質素などということはない。充分だ。ありがとう」

「ジェラルド様。このご様子でしたら、もう一晩、こちらで休息されれば、萬全の調に戻られるのではないですか」

テーブルのほうで食べながら、アルヴィンが言う。

いや、とジェラルドは首を左右に振った。

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「一刻も早く、合流せねば。俺がいなくては、彼らが難儀する」

「なにを言っておられるのです。ジェラルド様になにかあったほうが、我ら一同、よほど困るのです。どうかを大切にすることを、第一にお考え下さい!」

熱心にアルヴィンが言い、ジェラルドは仕方ない、とうなずく。

「では、キャナリーさん。もう一日、我々が留まることを、許していただけるだろうか」

その、きりっとした顔に、私はまたスプーンを近づけた。

「洗濯も乾いてないし、もちろんそうして下さいな。キノコのスープが、嫌いでないならね」

ジェラルドは、ふっ、と綺麗な歯を見せて格好よく笑ったが、

スプーンがにつくと、あちっ! と言って顔をしかめた。

朝食後、またも私は彼らの晝と夜の食材を調達しに、森の中を駆け回った。

キノコや山菜だけでなく、果実、木の実、食べられる様々な草や菜。

幸い実りの季節であったのと、しばらく手付かずの狀態だったので、たくさん収穫できた。

けれど一年を通してとなると、気候によってはまったく収穫できないし、ラミアとならば節約して半月は、ほそぼそと食いつなぐ分量だ。

戻ると乾いた洗濯を取り込み、ジェラルドの傷の様子をみる。

「本當に不思議ねえ。明日には本當に、全快してしまうんじゃないかしら」

つぶやく私に、ジェラルドも自分のをしげしげと観察する。

「痛みはもう、まったくないんだ。正直昨日は、もう駄目かとあきらめかけていたんだが」

「私もです。力の限界で、疲れ果ててもおりましたからね。なにせ一晝夜、ほとんどジェラルド様おひとりで、ビスレムの大群を相手にされていたのですから。それがこうまで回復されるとは、 まさに奇跡としか」

「だが、朝から考えて、ひとつだけ思い當たることがあったんだ。キャナリーさん」

呼ばれて私は、これまでじていた違和を口にする。

「お話にる前に、ちょっと待ってしいの。多分だけどジェラルドさんも、アルヴィンさんも、本當なら『様』をつけなくてはならない人たちでしょう?」

その言葉にジェラルドは、とんでもないという顔をした。

「もしそうだとしても、この家の主は、キャナリーさんだ。つまりこの場ではきみが一番偉い。そんな気遣いはしなくていい」

「ううん、それだけじゃなくて、年だって、ジェラルドさんたちのほうが、ずっと上じゃないの? ちなみに私は、十五歳」

「ずっとというほどではないが、俺は十九歳、アルヴィンは二十歳だ」

でしょ? と私はさらに言う。

「だから、私に『さん』なんてつけなくていいわ。キャナリーって呼んで下さい。なんだか、あんまり丁寧にされると、背中がもぞもぞくなってきちゃうの」

すると本當にかなり元気になったらしいジェラルドは、明るい笑顔を見せた。

いのはよくないな。それなら俺のことも、ジェラルドと呼び捨てでいい。いや、ぜひそうしてくれ」

「ジェラルド様!」

アルヴィンが悲鳴のような聲を出した。

「さすがに、それはあまりにも、無禮、いや、不敬……」

「アルヴィン」

吸い込まれそうな、濃い青い瞳がちらりとアルヴィンを見てから、私に向けられる。

「この人は、俺の命の恩人だ。無償でどこの誰ともわからない俺たちを助け、家にれ、寢床をゆずり、食料を提供し、服を洗ってくれたのだぞ。これまでの人生で、俺が出會った中で、一番素晴らしいだと思う」

そこまで謝してくれているのか、と私はなんだか照れてしまった。

そんなに言ってくれるなら、もっとたくさんキノコを採ってくればよかった。

「べ、別に、そんな。私は、當然のことをしただけよ。ふたりとも、 悪い人には思えなかったし」

「それだけではない。では呼び捨てにさせてもらうが、キャナリー……」

ジェラルドは一度言葉を切り、その深く青い瞳を私に向ける。

「俺は昨晩、目は閉じていたが、痛みでなかなか寢つけなかった。ところが、きみの優しい、き通るような歌聲を聞いた途端、すーっと苦痛が収まっていったんだ」

「私の、歌?」

「それは確かに、私も同じです」

テーブルのアルヴィンも言う。

「椅子でうつらうつらしながら、子守歌を耳にするうちに、打撲の鈍痛が消え、いつの間にか眠っておりました」

関係ないわよ、と私は照れるのを通り越して、し呆れてしまう。

「昨日話したとおり、私の歌は披會で、小さな地震を起こしただけだったのよ。それに、この家でも毎晩みたいにラミアにせがまれて、子守歌を歌っていたわ」

しばらく考え込むように、ジェラルドは難しい顔になった。

やがてアルヴィンが、思いがけないことを聞いてくる。

「その、ラミアさんという方は、かなりお年を召していたのですよね。持病などは、なかったのですか?」

うーん、と私はラミアとの日々を思い出す。

「私が心ついたときには、もうおばあちゃんだったから、曲がった腰が痛いとか、目がかすむ、とはよく言ってたわ。歯もなかったし。 でもなにしろ薬作りの名人だから、すごく長生きだと自慢してたっけ」

「きみが心ついたときに、すでにそんなご高齢だったのか?」

ジェラルドの問いに、私はうなずく。

「ええ。おばあちゃんていくつなの? って初めて聞いたのが、私が十歳くらいだったかしら。そのとき、ちょうど百歳じゃよ、って言われてお祝いしたのを覚えてるわ」

「「百歳?」」

ふたりは同時にぶ。

「待ってくれ。ラミアさんが亡くなったのは?」

「一年は経ってないわ。私が十五歳になって間もなく」

「キャナリーが十歳のときに、百歳。ということは、亡くなったのは百五歳ということか?」

「そんな! 信じられません。我が國に記録してある、歴史の中の最高齢でも、 百一歳。それも魔道を駆使して、かなり延命されたはずです!」

そうなの? と私は驚く。人間の壽命がどれくらいなのか、知る機會がなかったのだ。

子爵家の家庭教師からは、基本は上流階級の令嬢としての行儀作法と言葉遣い、それに簡単な王國史、教養のための詩や蕓を習うばかりで、そんなことは教えてくれなかった。

「自分が歌うようになったのは、何歳くらいか覚えているか、キャナリー」

なんでそんなことを聞くのだろう、と思いつつ私は答える。

「え、ええと、そうね。あ、思い出したわ。木こりのおじさんに、森の魔除けの歌だよ、って教えてもらった歌があったの。ラミアがそのころずっと毎日寢込んでしまって、初めてひとりで水汲みに行ったとき。確か五歳くらいだったわ。覚えたての歌が嬉しくて、毎日のように歌ったものよ」

「寢込んだ後、ラミアさんは回復されたのか?」

「ええ、あのときは。いつの間にかすっかり元気になって。去年までは、キノコ採りにも行ってたのよ」

ということは、とジェラルドは、重要なことを打ち明けるように言う。

「キャナリーが赤ん坊のときに、ラミアさんは九十歳。長生きとはいえ。すでにはあちこち弱っていた。そして九十五歳で寢込む。もしかしたら、そのまま天壽をまっとうする可能もあったかもしれない。そのとき五歳のキャナリーが、歌を歌い始めた。そしてラミアさんは回復して元気になり、さらに十年生き、百五歳という驚くべき年齢に達した」

で? と私がきょとんとしていると、

アルヴィンがガタンと席を立つ音がする。

「そ、それでは、もしや彼の歌に、治癒や回復の魔力がめられている、ということでしようか?」

「ないない、それはないわ」

私は思わず、笑ってしまった。

「言ったでしょ? 貴族出でもないし、なんでか知らないけれど、地震が起きたのよ。あるとしたらそれが私の、おかしな歌の魔力なの」

「だが昨晩もその前も、この家で歌っていた時には、地震など起きなかったのだろう?」

「え、ええ、そうだけど、ダグラス王國には地震って、ほとんどないって聞いたわ。なくとも、王國の歴史書に記載がないそうよ。いくらなんでもそんな滅多にないことが、私が歌うと同時に起きたなんて偶然は、あり得ないんじゃないかしら」

「もしかしたら、歌と地震も無関係とは言えません」

アルヴィンの言葉に、私はびっくりしてしまう。

「人を元気にして、地震を起こす魔力? ちょっと理屈がわからないというか、変な魔力すぎません?」

笑いを含んだ聲で言ったが、ジェラルドは妙に真剣な顔を、アルヴィンに向ける。

「そうじるのか?」

「はい。なにか、微妙に事態が変わったことはわかります。國境を越えれば、もっと詳しいことがわかるのではないかと思いますが」

ではやはり、ダグラス王國に用事がある人々なのだ、と私は悟る。

商用か、それとも流のある貴族がいるのか。

興味はあったが、 あまり事に立ちるのはよくないと思い、詳しくは聞かずにおいた。

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