《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》9・剣の主になったらしい

午後になると、もうすっかり元気になったからと、

アルヴィンが水汲みをすると申し出てくれた。

泉までの道のりは、し遠いがわかりやすく説明も簡単だ。

ありがたく手伝ってもらうことにして、

私はジェラルドにお茶を淹れる。

「お茶菓子が、なにもなくってごめんなさいね。前なら保存用のジャムがあったんだけど、この家に戻ることは滅多にないと思って、殘していなかったの」

「そんなに気を遣わなくていい。それよりここへ來て、きみも一緒に飲んでくれ」

本當なら、長く留守にして汚れた部屋も掃除したかったのだが、どちらにしてもジェラルドがいては、ほこりはたてられない。

それにジェラルドと話すのは、なぜか楽しいとじていたので、私は素直に従って、ベッドの傍でお茶を飲むことにする。

そうして改めて、まじまじとジェラルドを見た私は、

思わず嘆の聲を出してしまった。

「窓からのに、銀髪がってるわ。それに瞳が本當に、寶石みたいに青くて綺麗ねえ」

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するとジェラルドは、なぜかうろたえたような様子になった。

「そ、そうか? 俺の家族はだいたいそうなので、自分ではなにも思わなかったが。そんなふうに言われると、嬉しいものだな。ありがとう」

「お禮を言われるようなことじゃないわよ」

私は笑う。

「きみこそ、キャナリー。つややかな黒髪がとても綺麗だ。それに俺は、きみのような、暖かな瞳のが、その……す、好きなんだ」

「本當? 私も嬉しいわ、そんなふうに言ってもらえると」

はしゃいでしまう私に、なおもジェラルドは言う。

「それからきみの聲も。昨晩の子守歌は、本當にの芯からいやされる思いがした。いつまでも聞いていたいと、俺は思った。──この先、ずっと……年老いても、いつまでも」

やった! と私は、両手の拳を握りしめる。

「私、歌った後にボロクソに言われて自信をなくして、とても悲しかったのよ。でもジェラルドがそんなにほめてくれるなら、それでいいわ!」

よかったー、と上機嫌で私は喜ぶ。

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「だけど、いつまでもずっと歌うのは無理よ。だって聲が枯れちゃうもの」

私が言うとジェラルドは、なぜか不安そうな顔になった。

「ええと、キャナリー。きみは十五歳だったな。もしかして、もう人はいるのか? あるいは、言いわしてはいないが、心に決めた相手は」

なあにそれ、と私はきょとんとしてしまう。

「だってずっと、ラミアとふたりきりでここにいたのよ?」

私は薬で埋め盡くされた、ラミアの古くてせまい室を指差した。

「王立歌唱団に、男はいなかったし。それに貴族の男はツンツンしていて、誰も私なんて目にらなかったみたい」

するとジェラルドは、表を和ませる。

「そうか、それならいい。焦る必要はないわけだな。しかしバカな男どもだ。……ところで、きみの淹れたお茶はすごく味しいな。料理も上手だし」

「そう言ってもらえるなら、ラミアに木の枝で叩かれながら、鍛えられたかいがあったわ」

私は笑って答える。

「いろいろな意味で、すごい人だったみたいだな、きみの育ての親は。昨日はあまりよく見られなかったが、外に薬草園もあったようだ」

「ええ。ラミアは他の國の生まれらしいんだけれど、そこでは薬草に詳しいと、魔と呼ばれてつかまったり、嫌がらせをされることもあったんですって。でもダグラス王國は、薬草が一番の生産品でしょ。悪くいう人もいなくて暮らしやすいから、この森に住んだらしいわ」

「ダグラス王國といえば、腹痛の白い丸薬、頭痛の黒い薬、で有名だからな」

「有名なのはそのふたつね。でも、睡眠薬や、昨日使った化膿止めだってよく効くのよ。まあ、街中で出回っているものの中には、もしかしたらインチキだって混ざってるかもしれないし、ラミアが作ったものは別格に効くけれど」

「特別に田畑の土がよいわけでも、軍事力があるわけでもない王國が、かなのは薬草のせいだろうな。それに、ビスレムが出ない」

「そんなに他の國は、その怪に酷い目にあっているの? こっちに來なくてよかった。だってダグラス王國の王族って、本當に頼りないのよ」

私はあの、甘ったれた王子の顔を思い出し、げんなりして言った。

「その怪を倒せるのは、魔力だけって言ってたわよね。の子の歌にちょっと魔力があるくらいじゃ、とても無理でしょう? だったら王族が魔道で戦うことになるんでしょうけど、あそこの王族たちじゃ無理よ。怪なんか見たら戸棚に隠れて、震えてるに決まってるわ」

言ううちに、私は心底心配になってきてしまう。

「そんな怪が、こっちにまで來たらどうしよう。現に、ジェラルドたちは大群と戦ったんですものね」

不安になって、セカンドテーブル代わりにしていた丸太にカップを置く。

と、その手にジェラルドの手がれた。

「あら、お代わり?」

尋ねた私はジェラルドの顔を見て、ハッとした。

深い青い瞳が、ひたと私を見つめていたからだ。

どういうわけかわからないが、首から上がぼわっと熱くなってくる。

「えっと、あの、ジェラルド?」

「きみのことは、俺が守る」

低い、真剣な聲で言われて、私はドキドキしてきてしまった。

「そ、そう言って下さるのは嬉しいけれど。でもあの、ずっとここに、あなたにいてもらうわけにもいかないし、こん棒もほうきもあるから、怪くらい私がひとりで」

わたわたと説明していると、真剣だったジェラルドの表が、ふっと和んだ。

「では、キャナリー。預けた剣があるだろう。それをちょっとここに、持ってきてくれ」

「いいわよ。汚れが気になるの? でも昨日、小川で洗っておいたから、綺麗だと思うわ」

「そんなことまでしてくれていたのか、きみは」

「ええ。あっ……でも、騎士の剣に勝手にるって、いけないって習ったかも。ダグラス王國では、騎士に會う機會がなくって忘れてたわ。もしかしたらジェラルドって騎士? いけないことしちゃってたら、ごめんなさい」

「いや。きみならば、まったく問題ない」

「そ、そう? じゃあ、よかった」

私はまた顔が熱を持つのをじつつ、立って行って、戸口の傍に立てかけていた、大きな黒塗りの鞘にった剣を手にする。

「重たいわよねえ、これ。よくこんなのを振ったりできるわ」

言いながら持っていくと、ジェラルドはベッドから、しふらつきながらも降りた。

「まだ休んでたほうがいいわよ。あなた、重癥だったのよ?」

なにをするつもりだろう、とうろたえる私の前で、ジェラルドはすらりと剣を鞘から抜いた。

「えっ、なに」

でも、ぎらりとる刃に私はさらに揺する。

「ごめんなさーい! か、勝手にったこと、怒ってるんでしょ? 悪気はないの、ちょっと汚れを落とそうとして」

あわわと頭を抱えて座り込んだ私に、優しい聲がかけられた。

「違うんだ。怒ってなどいない。立って、キャナリー」

「ほ、本當に? 頭を薪みたいに、かち割ったりしない?」

顔を上げるとジェラルドが、優しく微笑んでいるのが見える。

そこで私は立ち上がり、頭一つぶんくらいこちらより背の高い、ジェラルドの正面に立った。

その頭が、すとんと私より低くなる。私の前に、ひざまずいたのだ。

「この剣の柄を、両手で持ってしい」

なんだかよくわからないままに、私はそのずっしり重い大剣の柄を持った。

ジェラルドは用に指先で、刃にはれないようにして、その切っ先を自分に向ける。

「この位置で留めて、しっかり持っていてくれ」

「わかったわ。でも、なにをするつもり?」

尋ねる私を見上げ、ジェラルドは靜かに言う。

「風も水も土も火も聞け。我は今この剣を持つものを主とし、忠誠を誓う。この約束たがえたときには、その四つの威力をもってして、我を罰すべし」

(なになに、なんなのこれ。やっぱりまだ合が悪くて、幻覚でもみてるんじゃないの。もしかして、寢ぼけてるのかな)

おたおたしていると、靜かな聲でジェラルドは続けた。

「キャナリー。剣をけ取った、と言ってくれ。それから、柄を額につけて」

「えっ。……け、剣を、け取った……」

私は言われたとおり、次に剣を持ち上げて、柄の部分を軽く

額につけた。一瞬、パッ、と目の前が明るくなった気がする。

「なっ、なにこれ。はい、返すわよ」

騒なものを持っているのが怖くて、私は急いでジェラルドに剣を渡した。

ジェラルドは妙に嬉しそうに、剣を鞘へと仕舞う。

「キャナリー。今のは、『剣の誓い』だ。國によって正式な作法に違いはある。けれど騎士も戦士も、剣を扱うものにとって、この誓いは神聖なものだ」

「そうなの……。ええと、それを誓うとどうなるの?」

している私に、ジェラルドは微笑む。

「つまり、俺の剣の主は、きみということだ。危険があったときには、俺はなによりもまず、キャナリーを守るという約束だよ」

「そ、そう、なの」

私はどう返事をしていいか、わからなかった。嬉しいのと、なんだかわからない恥ずかしさで、どうにかなってしまいそうだったのだ。

「でも、あの、そうだ! それじゃあ私も、なるべくジェラルドを守るようにするわ。一方的なのって、不公平でしょ」

私の言葉に、ジェラルドは笑った。

「面白いなあ、きみは。本當に、これまでこんなに會ったのは初めてだ」

なんだかよくわからないままの私だったが、気にられたらしいというのは理解できる。

「じゃあ、お友達と思っていいの?」

「そうだな。當面はそれでいいことにしよう」

「當面?」

それはとりあえず今は、ということだろうか。

先々は違うのだろうか。

どうも時々ジェラルドの言うことは、遠回しでよくわからない。

「とにかくキャナリー、きみは俺の大切な、特別な友人だ。だからできれば、俺たちの旅に同行してしい」

えっ、と私は驚いたけれど、まったく抵抗はなかった。

「ジェラルドたちがいいのなら。私は居場所がないから戻ってきたけど、ここで特にやりたいこともないし。ラミアくらいの年になったら、薬草を作る毎日も悪くないけれど。あちこち旅をできるなら、そのほうがずっといいわ。だけど」

私はチラ、と旅行鞄を見る。

「旅するためのお金は、まったく持っていないのよ。それに、通行手形だって」

「大丈夫だ。それはこちらで用意しよう。それでいいな、アルヴィン」

ちょうど戻ってきて、ドアを開いたアルヴィンに、ジェラルドが言う。

「はい? なんのお話ですか」

「キャナリーを、一緒に連れて行くという話だ。手形のための書類と、彼のための馬車が必要になるが」

「ジェラルド様が、そうされたいというのであれば……キャナリーさんは、ジェラルド様の命の恩人ですから、私にとっても大切な方です。けれど、そのためにはまず、はぐれたものたちと合流しなくては」

「うん。無事でいてくれるといいのだが」

「ジェラルド様も、明日には魔力も回復されるでしょう。私の魔道も、力を取り戻し始めました。特に悪い予もしないので、おそらく、みな無事ではないかと思われます。泉に出かける途中、この場所を示した伝令魔道を飛ばしておきました」

「では明日には合流できるかもしれないな」

魔道? 伝令? とよくわからない話に首を傾げる私だったが、気分はずっとうきうきしていた。

(でも、昨晩はもちろん、今日もずっとバタバタしていたし、じっくり考えたりしてなかったけれど。ジェラルドはビスレムと戦える、っていうことは、魔力があるの? さっき、魔力が回復とかどうとか言ってたし。じゃあどこかの王族?)

考えかけた私は、まさかね、と首を振った。

旅に同行するようわれた後ではなおのこと、そんなことがあるわけない、としか思えない。

(まあ別に、ジェラルドが王様でも、妖でも、なんでもいいけど)

ただ明日からもジェラルドと一緒に居られるのだ、

と思うと私はそれだけで、嬉しくて仕方なかった。

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