《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》14・もふもふ聖獣のゆくえ

結界を張り終えると、アルヴィンは表を改めて話し出した。

「舞踏會のあと、し周辺の気を探ってみたのですが」

なんのことやらわからずに、私は尋ねる。

「気を探る?」

「はい。聖獣の気配についてです」

以前に見せてもらった、可いもふもふした鳥の絵を思い出し、私はうなずいた。

「そうだったの。ずっと探しているのね」

「ええ。怪しまれない程度に、迷ったふりをして宮殿のあちこちにおもむき、聖獣の気配がないか探索していたのです」

アルヴィンは言って、服の中にから下げていた、明な石を取り出した。

「あら綺麗な石! 七ってるわ」

「はい。これは特殊な魔道をほどこした、水晶のペンデュラムです」

アルヴィンは水晶に繋がっている鎖部分を持ち、垂直にぶら下げる。

「魔道のひとつで、探しているものの方向を示すものなのですが。集中して念じると、聖獣のいるほうに水晶がきます。聖獣が近ければ近いほど、強くを放つのです」

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ところが垂れ下がった水晶は、ゆっくりと円を描き特定の方向は示さない。

それにもさほど強くはなかった。

「これだと方向もわからないし、そんなに近くにもいないじね」

「はい。しかし我々がグリフィン帝國にいたときにも、こちらに向かって旅をしているときにも、確かにダグラス王國の方向に水晶がき、指が引っ張られるような覚があったのです」

「では、途中で聖獣が、他の場所に移したということか?」

ジェラルドの言葉に、アルヴィンはうなずく。

「そうとしか考えられません。いているので、そこまで遠くはないと思うのですが」

「……実は、ひとつ気になることがあった」

ジェラルドは立ち上がり、ゆっくりと窓辺に歩み寄りながら言う。

「我々の、歓迎の宴のときだ。王子の傍に、神らしきものが歩み寄ってきた。なにか急な用事ができたとしても、普通は小姓に伝令を頼むものだ。それが、泡を食った様子で、真っ青になった神が駆けつけてきたので、なにごとかと俺は耳を澄ませていた。すると、神はこう言ったぞ」

ジェラルドは深刻な口調と、顔つきで言う。

「やはり逃げられたようです、王子殿下、と」

「逃げられた? なにが?」

きょとんとしている私だったが、アルヴィンは眉を寄せた。

「もしもそれが、聖獣のことだとしたらダグラス王國が、どこかへ閉じ込めていた、ということもありえるのではないでしょうか」

「そうだな。ありえなくはない、どころか可能は高い」

ジェラルドはこちらを振り向いた。

「なにしろ、他國では考えられないくらいに、薬に特化して生産と研究に勵んできた國だ。これは推測の域を出ないが。薬を使って、聖獣をとらえていた、ということも考えられる」

私は思わず、両手で口を押さえた。

「薬って、眠り薬とか?」

「そうだな。睡眠薬か、麻酔薬。最悪の場合、毒薬ということも」

そんなものを、可いもふもふした生きに使ったのだとしたら、ひどすぎる。

「許せない、そんな可哀想なこと! でもいったい、なんのために?」

まあまあ、とアルヴィンが、なだめるように言う。

「まだそれが事実かどうかは、わかりませんよ。あくまでも、ジェラルド様の推測です。しかし私も、同様の仮説を立てておりますけれどね。そして、もし本當だとした場合。なぜ王室も承知のうえで、聖獣をとらえていたのか、ということですが」

「理由は簡単だ」

ジェラルドが話を引き継ぐ。

「聖獣がいれば、その気配をじて、ビスレムが襲って來ない」

あっ、と私は気が付いて聲を上げる。

「だからこのダグラス王國の王族は、ろくに魔道の訓練もしないで、のんきでいられたっていうこと?」

「おそらくそうだろうな。きみから話を聞いて、ずっと不思議に思っていたんだ。なぜビスレムが近寄らないのか。なぜそれが當然かのようにここの王族たちが攻撃に備えないのか」

「聖獣を閉じ込め、その恩恵にあずかっていたというのなら、筋は通りますね」

「グリフィン帝國で聖獣の姿を見なくなってから、十五年って言ってたものね。王子の年が、十八歳。三歳でビスレムの脅威がなくなったのなら、ろくに魔道で戦う必要もなくて、さぼってたのも納得だわ」

私はふたりの話に納得して、うんうんとうなずきながら言う。

「だけど、アルヴィンの言ったように、これはまだ想像よね。事実かどうか、それを確かめなくっちゃ」

ジェラルドは私を見て、窓際から椅子に戻って腰かける。

「そうだな。そのためにはもうしばらくこの國に、滯在しなくてはと考えている」

はあ、とアルヴィンが溜め息をついた。

「そうですね。それも一日二日ではなく、事態が判明するまでの時間がしい。なにか滯在理由を考えましょう。たとえばですが、従者たちが腹痛を起こしたとか。まあ、私でもいいですが」

「それは駄目よ」

私は反対する。

「だってこの國は、薬だけは自信を持ってるんだもの。きっと王室用達のお薬が、どっさり屆けられるわ」

「それでは飲むふりをして、効かないということに」

「それも駄目。効かなかった、ってことになったら、王室のメンツをつぶしたとか言われて、薬師たちが罰せられてしまうもの」

「確かに、ありえそうですね」

ううん、と私たち三人は首をひねる。

「アルヴィンが、誰か令嬢にをして、この地を離れがたくなったというのはどうだ」

「冗談じゃありませんよ、面倒くさくてかないません」

「噓がバレたら恨まれるわよ! 呪われたらアルヴィンが可哀想よ」

「呪う……そこまで恐ろしいのか、この國の令嬢は」

ええ、と私は確信に満ちた目で言う。

「そう思うわ。私の知ってる限りではね」

アルヴィンは青い顔になる。

「冗談ではありませんよ、沙汰はやめましょう。後々やっかいなことになりそうですし」

さらにもうしばらく私たちは頭を悩ませ、その結果として、妙案がひねり出された。

それはジェラルドが絵畫をたしなみ、この王宮の窓からの風景をとても気にったので、ぜひとも絵に描きたい、という滯在延長の理由だった。

「あら、ジェラルド。絵心がないなんて言ってたけど、なかなか上手じゃないの」

翌日、早速ジェラルドにあてがわれている部屋のひとつには、キャンバスとイーゼルなど、絵を描く道一式が準備され、運び込まれた。

「ほ、本當か。それならよかった。まだ木炭の、下書きなんだが」

照れているジェラルドを勵まそうと、私は言う。

「本當よ。お皿の上の、調味料がかけられたおイモでしょ? 味しそうに描けてるわ」

「……キャナリー。これは、池とバラの茂みなんだが」

「えっ! あっ、ごっ、ごめんなさい、つまりその、點々が調味料に見えて」

「うん。點々が、バラのつもりだった」

「だっ、大丈夫! そう言われると、そう見えてきたわ!」

「私にもそう見えますよ、ジェラルド様!」

アルヴィンが私に加勢して、両手を握って必死に言う。

「皿とイモにも見えますが、違うと言われれば違うように見えるものです!」

「そうよ、皿でもイモでもないわ! バラと池よ!」

「そうですとも、バラとイモです!」

「えっ? 違うわよ、皿と池だってば」

「えっ? バラではなかったですか?」

「えっ?」

「もういい、ふたりとも」

私とアルヴィンの勵ましに、ジェラルドは逆に自信をなくしたらしかった。

珍しくジェラルドらしくない、力のない聲で言う。

「だから言っただろう、俺には絵心はないと。別にキャナリーたちの想がどうであっても、俺は気にしないが。問題はこの國のものたちを、騙しおおせるかどうかだ」

「わ、私は問題ないと思いますが。あくまで萬が一のために、従者の中から絵の上手いものを探して、描かせるという手もございますよ」

「そのほうが、いいかもしれんなあ」

アルヴィンの提案にジェラルドはそう言ったが、結局、その目論見は間に合わなかった。

絵畫制作のために滯在する、という話は瞬く間に宮廷に広まってしまったからだ。

そのため、その日のうちにジェラルドの部屋には見學を希する貴族たちが訪れてきた。

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