《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》17・王國の終わりの始まり

「なんとか、お力を貸してはいただけまいか」

その夜、ジェラルドの部屋にランドルフ王子が半泣きでやってきた。

「余は、ビスレムのことは、教育係の話や、書で學んではいた。だが、あそこまで殘で兇悪なものだったとは、知らされていなかったのだ」

「なるほど。ところで、ご自の魔道で戦う方法は、學んでこられたのか?」

すでにこの國の王族の狀況を、私から知らされていたジェラルドは、特に呆れた様子もなく尋ねる。

ソファに姿勢よく座っているジェラルドに対し、ランドルフ王子はその足元に、這いつくばるようにしてすがっていた。

もうプライドも虛勢もかなぐり捨てたらしく、ひたすら低姿勢で言う。

「ほ、ほんのしならば、魔道は使える。しかし、それを戦いに混ぜ込むとなると、得意ではない」

「以前はこの國にも、他國と同様にビスレムの出沒が多かったのだろう? 商人や村人たちへ、ビスレム避けに魔力を込めた魔道は貸し出されているのか」

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「かつては、もちろん。し、しかし、すでに十年以上が経っているので、道から魔力が失われていると思う」

「それでは、ビスレムと戦いようがない。失禮だが、そうまで対策が取れていないというのは、我がグリフィン帝國にとっては信じがたいことだ」

ジェラルドの言葉に、ランドルフ王子はがっくりとうなだれる。

「そう言われると、お恥ずかしいが、仕方がない。しかし魔道で戦うのは、ものすごく大変ではないか。魔力を剣に乗せて使うなど、毎日毎日、とんでもない修業をせねばならぬのだろう?」

「そうだが、それが魔力を持って生まれ、民の上にたつものの義務だと思うが」

ジェラルドの言葉に、初めてランドルフ王子は、不満そうな顔になった。

「いや、それは違うのではないか。我々は本來、まつりごとをする立場。後ろにひかえ、指揮をとるのはわかる、し、しかし、自らが先頭で戦うのはおかしい。王族が死に絶えたら、國はどうなるのか」

この言葉に、ジェラルドの目に怒りが浮かぶ。

「ビスレムのおらぬ、人と人が戦うだけの世界であれば、そうなのだろう。しかし違うのだ。王子ともあろうものが、國に差し迫った危機があるときに、現実を見ないでどうする」

「だが、今からでは間に合わぬ! かつてビスレムと戦って生き殘り、戦闘経験のある王族もいるが、そのため手足が不自由になったり、心を病んだものもいる。我が父上もだ。五満足な王族のほうが、ずっとない」

「とはいえ、十五年間も平和な狀況が続いたなら、若く健康な王族もいるだろう。王子、あなたのように」

ランドルフ王子は、駄々っ子のようにわめいた。

「平和をする心優しい余が、あんな泥とも腐ともわからぬ、野獣のようなものと戦ったら、殺されて、それでしまいだ。現に今日、余の従兄弟がふたりも殺されたのだぞ! どちらも勇ましく、剣も余より強いものたちであったというのに。そのうえ、兵士も役立たずだ。まあ、余が逃げるときの、時間稼ぎにはなったが」

「當たり前だ!」

ビリビリと壁に響くほどの聲で、ジェラルドが一喝した。

ひゃあ、とランドルフ王子はまさに頭上に雷を落とされたように、頭を抱えてめる。

「魔力を持たぬものたちは、ビスレムに対して壁の役割りしかできぬ。命をかけて、ご自を守ってくれたのだぞ。もうし、謝の心は持てぬのか」

「しかし、しかし、それが世のことわりではないか。余は王族なのだ。いくらでもいる兵と違って代わりは効かぬ」

(このぉ……最低の、クズ王子!)

怒りに震え、飛び蹴りをくらわそうとした私を、アルヴィンが腕をつかんで引き留める。

けれど私の心と同調したかのように、ジェラルドは椅子から立ち上がると同時に、腰の大剣を鞘から抜いた。

「わあっ、なっ、なにを」

ぶん、ぶん、と大剣の切っ先を、恐怖で直している王子の顔の周囲で振り回したあと、ドスッ、と床に突き立てる。

パラパラと床の上に、切られた金髪が散った。

「ランドルフ王子。まず現実を見つめられよ。確かに、王族の人數には限りがある。しかしビスレムを倒せるのは、魔力を持った王族やその親族のみ。であれば、ご自が強くなり、ビスレムを倒せるようになるしか、方法はない」

バサバサの散切り頭になってしまったランドルフ王子は泣いた子供のような目で、ジェラルドを見上げる。

ジェラルドは、ほんのし口調を穏やかにして言った。

「ダグラス王國でも、かつてはそうされていたのだろう?ならば魔道や兵法を學べる書は、いくらでもあるのではないのか。無駄にした日々は惜しいが、仕方ない。今すぐにでも、進されよ」

叱咤されたランドルフ王子はうつむいて、床に散った髪のの端を見る。

それから再びおどおどと、ジェラルドを見上げた。

「間に合うだろうか、今からでも」

「それはわからん。あなた次第だ」

♦♦♦

「まったく、なんなのよあの王子は!

臆病ものにも限度があるわ! 蟲だってもうちょっとは、巣を守るがあるでしょうに」

「きみから聞いてはいたが、想像以上だったな……」

王子が退室すると、なんだか三人とも疲れてしまい、ぐったりして椅子の背にをあずけた。

「まずいですよ、このままでは。ビスレムが次々とやって來るようになったら、あっという間にこの國はおしまいでしょう」

「もう王族がふたり、亡くなっているからな。これから葬儀の支度で大変だ、などと言っていたが、それどころではないだろうに」

「……もう夜更けね。ビスレムは、夜も晝も関係なく襲って來るの?」

私は真っ暗になった窓の外を、不安な気持ちで見つめる。

そうです、とアルヴィンが答えた。

「しかし、ずっと寢ずに番をするわけにはいきません。ダグラス王國も、見張りくらいは立てているでしょうし、眠れるときに眠っておきましょう」

うなずいたジェラルドは、いつでも飛び出せるように、腰に大剣を下げたまま椅子で仮眠をとるらしい。

アルヴィンもすぐ使えるように魔道を並べ、外出著のままで休むようだった。

私は安心して眠るようにと言われたが、とてもそんな気にはなれない。

それより私は今、自分にできるかもしれないことに気が付いて、それを実行しようと考えていた。

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