《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》20・翼の一族
うながされ、正面の椅子に座った私に
ジェラルドは背中のアザについての説明を始めた。
「我々の世に伝わる神話。司祭や學者たちによると、中の半分は語としての空想がっているが、半分は過去の事実にもとづいているらしい」
ふーん、と私は正直、あまり興味をじずに適當なあいづちをうった。
「なにかと思えば、神話のお話だったの」
「ああ。森で暮らしていたきみには、馴染みが薄いことかもしれないが。この世界はそもそも、神イズーナが作ったと言われている」
「それくらいは知ってるわ。歌の魔力も、イズーナが授けたって、歌唱団で習ったし」
「うん。本題はここからなんだが……キャナリーは食べながら話を聞いてくれていいぞ」
ジェラルドは呼び鈴を鳴らし、小姓にお茶を熱いものにれ替えさせ、ついでにアルヴィンを呼び戻した。
「アザは確認されたのですか、ジェラルド様」
「ああ。確かに本だ。も形も、知識として知っていたものと寸分たがわない」
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私はお言葉に甘え、ガラス皿に盛りつけられた、いい香りのする寶石のような甘酸っぱいフルーツをシャクシャクと食べながら、ふたりの話を聞いていた。
「それでだな、キャナリー。イズーナはこの世界を作るときに、人間を治めるために魔力を持つ王族と皇族を。海を治めるために、魔力を持つ竜の一族を。魔を治めるために、魔力を持つ聖獣を。そして空を治めるために、魔力を持つ翼の一族をつくった。と伝えられている」
ジェラルドが言うと、アルヴィンがその先を続けた。
「海のない私たちの國に、竜の一族の話はあまり伝わっていませんけれどね。沿海州などでは広く信じられていて、船の守り神とも言われているのです」
ふんふん、と私はまだ食べながらうなずいた。
今度はジェラルドが話を引き継ぐ。
「そして翼の一族だが。いにしえの時代には王族と関わることも多く、人間界と馴染んだものは同化していき力を失った。いっぽう、人との暮らしを嫌ったものたちは爭いを避け、はるか遠方の山々に姿を消した、と言われている」
「へええ。ちょっとロマンティックね。竜の一族とも、翼の一族とも、會ってみたいわ」
私はようやく満腹になって、お茶を口にする。
「それで、その話と私の背中のアザに、いったいなんの関係があるの?」
「翼の一族とは言っても、常に重たい翼が背中にあるわけじゃないんだ。大きな魔力を発したときに、という狀態で目に見えるらしい」
「の翼? 綺麗ねえ」
私は想像して、にっこりする。
「ますます見てみたいわ」
「だから一見しただけでは、翼の一族だということはわからない。しかし確かめる方法はある」
「ふうん。どうやって?」
尋ねると、真剣な目でジェラルドは言う。
「つまりそれが、キャナリー。きみの背中のアザなんだ」
えっ、と私は目を丸くして、自分の首をいっぱい後ろに向ける。
「わ、私の背中のアザが、翼の一族の『あかし』だ、って言うの?」
「そういうことだ」
ふたりはうなずき、まじまじと私を見る。
「ええっと、待って。うーん」
私は懸命に、自分の頭の中を整理しようとした。
自分がただの人間ではなく特殊な一族だと急に言われて、納得できる人間はそういないだろう。
「つまり、だから私の歌で、怪我人たちが回復したっていうこと?」
「そうだ。まだわかっていない力も、められているかもしれない。翼の一族は、過去の話はたくさん言い伝えられている。しかし近年、実際に會ったものの話はない」
「私が……翼の一族。だとしたら、どうして森に捨てられたりしていたのかしら」
「あくまでも想像ですが」
アルヴィンが難しい顔で言う。
「翼の一族は、山腹に住んでいると言われていますから。たとえば大型の鳥に赤ん坊のころにさらわれ、巣に戻る途中で枝などにひっかかり、森に落ちたのかもしれません。猛禽類などは、小くらい、簡単に獲として捕まえますからね」
話を聞き、ますます私は考え込んでしまった。
いわば、出生のを突然知らされたようなものだ。
「それじゃあ、どこかに私の両親が、いるのかもしれないのね。それだけじゃなく、私と同じ種族の人たちが」
「ご両親か。そういうことになるな。場所については、見當もつかないが」
(お母さんと、お父さん。ラミアの家で暮らしていたときは毎日生きるのに必死で、考えたこともなかった。でも、そうなのね。私にもいるんだわ)
複雑な思いにとらわれて、黙ってしまった私を、ジェラルドは気遣ってくれる。
「突然こんな話をして、悪かった、キャナリー。魔力のほうにばかり気持ちがいっていた。きみのご両親に繋がることなんだから、もっと慎重に考えて伝えるべきだったよ」
心配そうな聲に、私はハッとする。
「いいのよ、気にしないで。私もこれまで考えたことがなかったの。それに今大切なのは、魔力とビスレムのこと。それに聖獣でしょ。自分の生い立ちについては、ひまなときにのんびり考えるわ」
さて、と私はようやく食事を終えることにして、立ち上がる。
「アルヴィン。今度またビスレムが襲ってきたときに、なにか私にも使えそうな、魔道はないかしら」
「はい? どういう意味ですか」
「キャナリー、なにを言っているんだ」
困するふたりに、私は言う。
「私の歌の魔力が、回復以外にも使えるかもしれないじゃない。ねえ、ジェラルド。あなた、なんだかんだ言って、次にビスレムか襲ってきたら、あの王子を助けてあげるつもりでしょ?」
尋ねると、渋い顔でジェラルドは認めた。
「あの王子ではなく、町や村の人々を、だがな」
「そのときには、私も手を貸したいの」
「キャナリー!」
ジェラルドは、怖い顔をする。
「絶対に駄目だ! きみはあの連中の恐ろしさを知らない。すでに王族が殺されたと聞いただろう? いくら気が緩んでいたとはいえ、剣の訓練をけた大の男がやられたんだ。きみが戦える相手じゃないぞ」
「そうですよ、同居していたおばあさんとは、わけが違うんです!」
必死になって説得してくるふたりに、まあまあ、と私は両の手のひらを、下に向けて振った。
「落ち著いてよふたりとも。別に私が直接ビスレムに飛び蹴りして倒そう、って言ってるんじゃないわ。だから、遠くからでも魔力を使えるような道はないのかな、って」
「ううん。そうですねえ」
アルヴィンは顎に手を當て、考え込む。
「ジェラルド様は、魔力を剣に流し込む方法で戦われます。弓や槍などの武でも、だいたいはそんなじですが、やはり練習が必要です」
「駄目なものは駄目だ、キャナリー」
ジェラルドは、まったく引こうとしない。
「安全な城の中で、じっとしていてくれ。きみを守りながら戦うことには、かえって危険がともなう」
厳しい表で言うが、私も引き下がるつもりはなかった。
「前にも言ったでしょ、ジェラルド。私だってあなたを守りたいのよ」
「だから、ここでおとなしくしていてくれることが、俺を守ることだと言っている!」
「私をおとなしい、上品でおしとやかな令嬢だとでも思ってるの?」
「そ……それは全然、思っていない」
「なんですってえ? 私だってこれでも一応、行儀作法の勉強をしたのよ!」
「そういうことを言っているんじゃない!」
「じゃあどういうことよ」
「そ、そうだな、強くてたくましくて、野的で個的で、つまり、その、魅力的だと思っている」
「そうよ、強くてたくましい、森で育った野生児よ! だったら私があなたを守っても、ちっともおかしくないじゃない?」
「それとこれとは話が違う!」
言い爭っていると、窓の外から鐘の音が聞こえた。
時を告げるものではなく、急事態のためのものらしく、激しく何度も打ち鳴らされる。
それからすぐに、激しく扉がノックされた。
來訪を告げようとした小姓を押しのけるようにして、すぐにランドルフ王子が駆け込んでくる。
招かれざるその訪問者が持ってきた報。
それは先日より多くの怪が現れた、という聞きたくないものだった。
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