《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》24・聖獣が可すぎる

出會えたことの嬉しさを伝えるように、私が優しくでていると、シルヴィはジェラルドにしたのと同じように、頬をすりよせてきてくれる。

さらには細く長い舌で、ぺろ、と頬を舐めてくれた。

「ふふ、くすぐったい。本當に可いのね」

「おい、シルヴィ。お前ちょっと、キャナリーになつくのが早すぎるんじゃないか」

ほんのし、拗ねたような口調でジェラルドが言う。

私はなかなか顔を見せてくれないサラに、一計を案じていた。

(私の歌聲に特別な力があるなら、もしかしたら)

思いついた私は、町に薬を売りに行ったとき、子供たちがよく歌っていた歌を、手拍子をとりながら口ずさんでみる。

「いしさん ころころ けってみよ こつんころころ ほらおちた だいじに しまって またあそぼ」

と、シルヴィの羽の中から、黒いゴムまりのようなものが、ポンポンと跳ねてから、しゅっと飛び出してくる。

「あっ、來てくれた!」

黒い塊はあっという間もなく、私の肩へと飛び移った。

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「……この子が、サラちゃんよね?」

私は黒いの塊のような生きを、そっと肩からつかんで手に乗せ、しげしげと観察する。

それは片方の手のひらにすっぽりおさまるほど、小さな小さな黒貓の姿をしていた。

ただし、単に極小の黒貓、というだけではない。

その尾は、ロウソクの炎のように、ゆらゆらとゆらめく深紅の火だったのだ。

「ああああ、かああ、わああ、いいいー!」

私はほとんど悲鳴に近い聲を上げ、サラに顔を近づける。

するとサラは、後ろ腳だけで立ち上がり、両前腳を私のほっぺたにぺたりとれて、くんくん匂いを嗅ぐように、鼻と鼻を近づけてきた。

の種子くらいに、小さな小さな鼻がぴとっとれて、私は自分の頬が、へにょっとゆるんでしまうのがわかる。

「なんなのこの子。なにこの仕草。可い。ああもう可すぎて辛い、が痛い、眩暈がするうー!」

サラのらしさに見悶える私を、ジェラルドとアルヴィンは目を丸くして、口をポカンと開けて見つめていた。

「サ、サラがこんなに簡単に、人に懐くとは……」

「信じられません。姿を見ることさえ、奇跡的だと言われる幻の聖獣だというのに」

「やはりキャナリーの、歌が持つ力なのだろうか」

「そうかもしれません。いえ、そうとしか考えられませんね。シルヴィがここに現れたのも、さっき魔道でキャナリーさんの歌が広く響き渡り、どこかでそれを聞きつけてやってきたのではないでしょうか」

「なるほど、そう考えれば筋が通る。キャナリーの歌には、想像を超えた効果があったわけだな。さすが翼の一族だ」

なにやら真面目くさった顔で話しているふたりに、私は可い生きに出會えた嬉しさで、満面の笑みを浮かべて尋ねる。

「ねえねえ、このサラちゃんの尾って、面白いわねえ。炎みたいなのに、ってもまったく熱くないの」

「サラの尾は浄化の火だ。不浄のもの、黒い魔道に侵されたけがれたものしか燃えない」

言いながらジェラルドは歩いてきて、私の手の中のサラを、まじまじと見る。

「という話を、書で読んだんだが。本當だったんだな」

ジェラルドが人差し指で、そっとサラの額をでた。

そのときにはサラはおとなしく、目を閉じて気持ちよさそうにしていたが、炎の尾にれると、ふーっ、とを逆立てた。

「駄目よ、ジェラルド。そこはられたくないんですって」

「そ、そうか。それは悪かった」

「むしろ、アゴの下がいいって言ってるわ」

「なんだそれでは、普通の貓と同じ……」

言いかけてジェラルドは、ぎょっとしたような顔で私を見る。

「きみは、サラと話ができるのか?」

「ん? あ、ああ、そういえばそうね。なんだろう、言葉はわしてないけど、考えていることは伝わってくるってじ」

「そうなのか。……しかしきみが翼の一族であるならば、ありえるのかもしれない。我々よりも、霊たちの存在に近いのかもしれないな」

自分の存在がどうだこうだと言われても、私は私、キャナリーだとしか思えない。

「うーん、どうなのかしらね。どっちでもいいけど」

「意志の疎通が可能なら、尋ねてみてくれないか? なぜ、我々の國に戻ってこなかったのか。今までどこで、なにをしていたのかを」

私はうなずいて、そっとサラの頭を指ででながら、心の中で聞いてみる。

すると、ジェラルドたちの予想とほぼ同じ、本來あってはならないような答えが返ってきた。

「わかったか? キャナリー」

みるみる私の表がけわしくなっていくのを見て、ジェラルドが言う。

「ええ。いい匂いのする、酒のった大きなツボが、ダグラス王國の王宮の、裏山に置いてあったんですって。そういうのって、よくあることなの?」

「……祭壇を作り、聖獣のために食事というか、供をささげることは、我が國でも時々行われていた。他の國も同様だし、さほど珍しいことではない」

「そうなのね。だけどそれを飲んだら目が回って、が痺れて、飛べないし、ほとんどけなくなっちゃって……それから先は、サラもシルヴィもよく覚えていないって」

「やはり、薬を使われたのかもしれないですね」

アルヴィンが眉を寄せて言い、私も顔をしかめた。

「だとしたら最低よね! 続きをもうし、聞いてみるわ」

「ふみゃーあ」

「きゅぴいい」

私はサラとシルヴィから話を聞きながら、人の言葉に訳してふたりに伝える。

「それで、半分眠ったような狀態で、何年も何年も裏山の地下に閉じ込められていたのが、あるとき歌が聞こえてきて……それで」

私はハッとして、顔を上げた。

ジェラルドもアルヴィンも、なにかに思い至ったという顔で、私を見る。

「キャナリー、披會できみが歌ったとき、地震が起きたと言っていたよな?」

「推測していたとおり、聖獣と無関係ではなかったようですね。おそらくですが。それはシルヴィとサラが目覚め、幽閉されていた地下から出したときの衝撃、あるいは出しようともがいておきた地響きだったんじゃないですか?」

「みゃおおう、んなお」

「ぴいいい」

「そのとおり、ですって。サラもシルヴィも、私の歌がかすかに聞こえてきて意識がはっきりしたみたい。そのときの歌が、またこっちのほうから聞こえてきたんで、興味を持って飛んできてくれたそうよ」

「これですべて、辻褄が合うな。しかし、ダグラス王國め。聖獣にあやしげな薬を使うなど、絶対に許せん。このままではすまさんぞ」

ジェラルドは、固い土の塊と化したビスレムの処理に、右往左往している王子一行に、ジロリと鋭い視線を向ける。

あの連中への怒りはひとまず置いておいて、ともかくよかった、と私はで下ろしていた。

私の歌には、地震を起こす魔力なんかなかったのだ。

と、アルヴィンがポンと両手を打ち合わせた。

「そうだ、それではキャナリーさん!」

「なあに?」

「このビスレムの大群の後始末を、なんとか手伝ってもらえないか、サラとシルヴィに頼んでいただけませんか?」

なるほど、と私はその提案をれた。

「いい考えね! でもいくら聖獣でも、そんなことできるかしら」

確かにシルヴィの、むちむちして見える太い足なら、ビスレムを運べるかもしれない。

私はそう考えて、サラに心の中で呼びかけてみた。

(この、固まってしまったビスレムが邪魔なの。消してしまうことはできないかしら?)

「んみー」

サラは小さな口で、可く鳴いた。

「やってくれるみたい。みんな、離れてろって」

私が伝えると、ジェラルドとアルヴィンは、喜びと驚きの表を浮かべつつ、村人たちを導して、その場から離してくれる。

私も彼らと一緒に、ビスレムの群れから離れた。

すると、再びサラを頭に乗せたシルヴィが、ばさっ、と翼を広げて飛び立ち、低空を旋回し始める。

その背から、ポンポンとビスレムたちに向かって小さな火の塊が、雨のように降り注いだ。

火の塊は、一見シルヴィの背から出ているように見えるのだが、よく観察すると放出しているのは、サラのようだ。

「ああっ、見て。あんなにカチコチだったビスレムが、ボロボロと崩れていく」

私が指差すまでもなく、ジェラルドたちも固唾を飲んでそちらを見ていた。

しゅーしゅーと火の塊が降り注ぎ、やがてすべてのビスレムが、砂の塊のようになっていく。

次に、シルヴィがくちばしを開いた。

「きゅぴいい!」

ビスレムだった砂の塊に向かって、サラに負けないくらいの可い聲で鳴くと、驚くべきことがおこる。

強い風が吹き渡り、一瞬にして乾燥した白い砂のようになったビスレムの殘骸は、灰のようにサラサラと、跡形もなく綺麗に吹き飛んでいってしまったのだ。

「うわあ。村も畑も、どんどん綺麗にお掃除されていっちゃう」

「なるほど、ビスレムたちにとって、聖獣が天敵なわけだ。空からこんな攻撃をされたら、どうにもならない」

しばらくして、農地や村に大量に殘っていたビスレムの殘骸は、すべて消え去っていってしまった。

わあっ、と村人や、町の人々が一斉に駆け寄ってきて、拍手喝さいが送られる。

「どこのお國の人たちが存じませんが、本當にありがとうございます」

「聖獣をるなんてすごい方々だ」

「さぞや立派なお國の、偉い方々なんでしょうねえ。そちらのは、聖様でいらっしゃいますよね?」

「かあちゃん、おいら見た! る綺麗な翼があったよ、このの人」

「こ、これ、指を差したりしたら駄目よ、失禮でしょう。あの、聖様。この瓶はうちで作ったジャムなんですけれど。末なものではありますが、ぜひ、召し上がってくださいな」

「聖様! おらの家の酢漬け野菜も、どうか持っていってくだされ。町の売りなんかのより、ずっと味いんだから」

「この木の実りのパン、今朝焼いたんです。形は不格好だけども、味は保証します。せめてものお禮に、もらってください!」

次々に差し出してくれる村人たちの心づくしの食べに、私はすっかりしてしまった。

「本當にいいの? ありがたくいただくわ。とっても味しそう!」

私は両腕にもらった品々を抱え、心から謝した。

自分が聖かどうかピンとこないが、せっかく翼があったのだから、やぐらから飛んでみればよかった、と思ったりはする。

けれど私の心を、なによりも大きくしめていたこと。

それは全全霊で必死に歌った結果、とてつもなくお腹が空いている、ということだった。

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