《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》25・聖獣と遊ぼう
城に戻ると、早速ジェラルドとアルヴィンは、ダグラス王國に聖獣がとらえられていた経緯を問い正すために、ランドルフ王子たちと話し合いの場を持った。
私が翼の一族の聖であることがわかり、聖獣の言葉を伝えられるとなると、噓も言い逃れも通用しないに違いない。
國同士の難しい話は彼らに任せ、私はというと、空っぽになったお腹を満たすことに専念した。
村人たちからいただいた食料を、まずはありがたく食べ、それだけではとても足りなくて、さらに料理を追加してもらう。
「ああー。さくさくしっとりアップルパイを、お腹が大歓迎してるう。このミートパイも、おがとろっとろ。バターたっぷりのパイ皮とソースがよく合って、いくらでも食べられちゃう。そこに冷たいミルク! ……うーん、濃くて味しいい!」
大きな、男の頭くらいもあるアップルパイと、同じ大きさのミートパイを二つずつペロリとたいらげると、ようやくお腹は落ち著いた。
そこで私は自室を出ると、急いで広い中庭へと向かう。
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通常は貴族たちの散歩コースで、季節ごとの花が咲きれる、しい場所だ。
その真ん中の噴水広場に、彼らはいた。
たくさんの貴族たちが集まってざわざわしていたし、野次馬が近寄らないよう、衛兵が警備として取り囲んでいる。
あの不愉快三人娘もいて、私を見ると肘でつつきあって、なにかささやいていた。
「あら、ごきげんよう」
挨拶すると、三人はびているような、腹を立てているような、なんともいえない複雑な顔つきになる。
「ね、ねえ、ゴミ捨て場……ではなくって、キャナリー。あなたが、歌聲でビスレムを止めたなんて、噓ですわよね?」
「聖獣と、なにか関係がおありなのかしら?」
「いったいあなた、何者なんですの?」
「変なことをお聞きになるのね」
私は笑って、即答する。
「わたくしは、わたくしですわ」
それだけ言って、三人の前を平然と、すたすたと歩いて行った。
「おい、待て! ここから先へ、行ってはならん!」
「あら、どうして。友達なのよ」
衛兵は改めて私の顔を見て、慌てた表になった。
「これは聖キャナリー様でしたか。失禮いたしました、貴方様は、お通ししてよいと命じられております」
「よかった。約束してるんだもの」
そうして私はようやく、彼らと再會した。
「約束どおり、逃げないでいてくれたのね! もうお腹はいっぱいになったわ。ゆっくり遊びましょう!」
私がそう呼びかけたのは、シルヴィとサラだ。
サラは、ポーン、とシルヴィから飛び出して、私の頭の上に乗る。
「あら、駄目よ。髪がくしゃくしゃになっちゃう。ふふっ、耳を舐めたらくすぐったいわ」
頭から肩へ、首の回りへと、ちょこちょこくサラが可くて仕方ない。
すると自分も構ってくれというように、シルヴィが頭をすり寄せてくる。
「わっふわっふで素敵なり心地! シルヴィ、あなたお日様の匂いがするわ。……ねえ、ちょっと背中に乗ってみてもいい?」
頼んでみると、どうぞ、というように、シルヴィはの片側を、地面のほうに低く傾けてくれる。
私はわくわくしながら、サラを肩に乗せたまま、羽でおおわれたシルヴィの背中に乗った。
「ふっかふかの、お布団みたい。それに溫かくていい気持ち」
広いシルヴィの背中の上で、私が右に左に転がるその周囲を、楽しそうにサラがぴょんぴょん飛び回る。
「きゅぴい!」
とシルヴィが嬉しそうに鳴き、ばさっ、と翼をはためかせた。
「え? しっかりつかまって、って? シルヴィもしかして、あなた飛ぶつもり?」
うん、というように、シルヴィは首を縦に振った。そして。
「っ、きゃあ!」
ばふっ、ばふっ、と大きく羽ばたきをすると、シルヴィのが宙に浮いた。
おおっ、と下で野次馬たちが、どよめくのが聞こえる。
「逃げちゃうわけじゃないんでしょ? いなくなったら、ジェラルドが悲しがるもの」
しっかり大きな背中につかまって、サラとシルヴィに尋ねた私は、どちらからもちょっと遊びたいだけ、という意志をじ取ってホッとする。
「そうよね。ずっと閉じ込められていたんだから、文字通り、羽をばしたいと思って當然だわ。なにか食べたいものはある? ジェラルドに言って用意しておいてもらいましょうよ」
サラに尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「みゃうあー。みゃーあ」
「お酒か果? おもお魚も食べないの?」
「んみゃ」
「やっぱりそういうところは、普通の貓や鳥とは違うのね。……っていうか、シルヴィ。あなたってむっちりふくふくして、ちょっと味しそう」
しっかりと抱き著いて言うと、羽ばたきながらシルヴィがビクッとしたのをじ、私は笑った。
「冗談よ! いくら私が食いしん坊でも食べたりしないわ」
私が言うとホッとしたように、きゅぴぃ!とシルヴィが鳴いた。
「みゃーう、みゃん」
「サラだって食べないわよ。戻ったら味しい果を一緒に食べましょうね」
「みああ!」
サラは嬉しそうに鳴いて、私の背中に乗ると、両前腳を互にかし、ふみふみしてくる。
小さな腳の、豆粒のような球のふにふにするがくすぐったいやらおしいやらで、私の顔はずっとにこにこしているままだ。
そのうち私は、ぐんぐん遠ざかる地面を眺めるうちに、最高の気分になってきた。
大地にはしい緑が広がり、気持ちのいい風が頬をでる。
はるか遠くに、灣曲したり江が見え、海がきらきらっているのが確認できた。
「すごーい! こんなに気分がいいことって、初めてよ! 空が近いわ。ああ、海と空ってどこまでも続いて、本當に大きくって広いのね。お日様に反して、雲が綺麗。ダグラス王國が、すごくちっちゃく思えるわ」
ラミアの家がある森そのものは、結構大きかったが私の行範囲だけだと、ものすごく狹い部分だ。
私は「自分が世の中を知らない」ということをようやく知ることができた気がした。
これもジェラルドと出會ったおかげだ。
(世界って、本當に大きくて広いんだわ。もっと知りたい。見たことのない景や、異國の人々の暮らし、音楽や踴り、それに食べたことのないお料理 !)
上空にいくほど、風は冷たく強くなっていったが、シルヴィの羽に包まれているので、寒さはほとんどじない。
「こんなに自由にどこにでも行けるのに、地下なんかに閉じ込められていて、辛かったでしょうね」
羽に頬を寄せると、きゅう、とシルヴィが鳴く。
しかし伝わってきた意志は、うつらうつらと眠ったような狀況だったので、苦痛というほどではなかった、ということだった。
食事として時々、口の端から酒を注がれていたらしい。
「でも二度とあんなのはイヤ? 當たり前よね、私もジェラルドも、絶対にあなたたちを二度とそんなことにはさせないわ。もとの、グリフィン帝國近くの巣に戻ってもいいし、好きなところに行ってもいいし。……私? そうね、多分、ジェラルドの侍として、一緒に行くことになると思うわよ」
私の言葉に、サラが喜んで、顔のすぐ橫でお腹を見せ、ごろごろとを鳴らした。
「そう。そんなに私の歌を気にってくれたの。じゃあ、なにか歌おうかな」
私は言って、お気にりの歌を口ずさんだ。
そうするとなんだか、自分が大空を飛ぶ鳥になり、さえずっているような気持ちになったのだった。
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