《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》人をしても良いんだと思えるようになった令嬢の話

私と殿下は瘴気石の管理所で最初の実験をする事になった。

スキルの水晶を作る実験だ。

神が人にもたらしたと言い伝えられるスキルの水晶を、私達が作り出す――もしもこれが上手くいったらとんでもない事になると思う。

でもやらない選択肢は無い。

可能があるだけで、本當に作れるかどうかは分からないけれどなんとなく“いける”予はある。

一番近い管理場は、王都から馬車で二日はかかるところにあるらしい。

距離的にそこまで遠い訳ではないのだけど、山があって越えるのがしばかり大変なのだそうだ。

挑戦する容が容(極)なので、連れて行く人員は極限まで絞って――シルヴァが馭者として同行してくれる以外は聖獣達だけ。

殿下の瘴気引き寄せ質は私と聖樹の杖とランランの三本柱で何とか対処出來るだろうという事で。これだけ戦力が揃っていれば護衛は要らないだろう、とは陛下の談。

道中、魔獣を見付けたらどんどん聖獣化させていきなさいともおっしゃっていた。

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「でもさ……大丈夫かな。俺、王都から出た事が無いんだよ。長時間馬車に揺られるのも初めてだ」

「大丈夫……と言いたいところですが、山は特に揺れますからね。……が、頑張りましょう」

不安そうな殿下を前にして、頑張りましょうとしか言えない。

こればかりはどうしようもない。

往復四日。余裕を見て五日……。

食料品などを鞄に詰め込む作業をしながら、ふと思う。

ランランに乗って行ったら、早いんじゃないかしら。

「……殿下。ランランに乗せて貰いませんか?」

殿下はぴたりと止まった。そして「天才か……?」と言った。

「それ良いな。すごく良い。空を飛んで旅をするなんて、語の中の話かと思ってたけど……」

目が輝いている。

お気に召したようだ。

「あの夜會の時に陛下を乗せて飛んだようですし、あれから更に大きくなっている今なら私達が二人で乗っても大丈夫な気がします。……ちょっと試してみませんか?」

「試す!」

――という訳で、ランランのツリーハウスがある裏庭の大木にやって來た。

このツリーハウス、陛下が図面を起こして材料を用意し、殿下がスキルで作り上げて私が聖域化した可いおうちだ。

ちなみに著手から完まで一時間掛からなかった。

このツリーハウスはマロンもいたく気にったようで、よく土から出て來ては登ったりかじったりして遊んでいる。

「ランラン、降りておいで」

聲を掛けると、ランランがその巨じさせない軽い作でふわりと降りて來てくれた。

「あのね、私と殿下を乗せて飛んでみてほしいの。お願いしても良い?」

「ピィ!」

良いようだ。ぺたりとお腹を地面に付け、“乗って”とアピールして來る。

「乗ってみましょう、殿下」

「うん!」

背中に乗った瞬間、羽のあまりのふわふわさにを覚えた。

つい両手を使ってもふもふに夢中になってしまう。

「えっ……凄い。ランラン、あなた……こんなにふわふわしてたの……?」

「ステラ。もうちょっと奧に詰めて」

「あ、すみません。はいどうぞ」

殿下が乗ると肩がれた。

伝わって來るの骨が以前より無くなって來た気がする。筋の厚みが出て來たのだ。

これぞ筋トレ効果。換日記で毎日お互いのトレーニング狀況を報告し合っている甲斐があった。

「ほんとだ。ふわふわしてる。……しかもあったかいね」

あれっ。聲がいつもより近い……?

そうだ。こんなに詰めていたら顔の距離も近くなる。

「……なんで端っこに寄って行くの? 危ないよ」

「な、なんとなく」

照れている間にランランは翼を広げた。

翼が広がると思っていたよりスペースがあって、落ちてしまうかも、という恐怖は意外とじない。

翼がはためくとバサッと音がして私達は宙に浮かび上がった。

瞬く間に地面を離れ、王宮の屋が目下になる。

ランランが風を上手く制しているようで、風圧はほんのししかじない。

「凄いな! 見て、ステラ! もう王宮の屋より高くなったよ!」

「本當ですね。怖くないですか?」

「大丈夫!」

「ランランは? 私達を乗せて飛ぶの、重くない?」

「ピィ!」

平気、と言っている。

高度はぐんぐん上がり、空へ向かって、王宮は遙か目下へ。

上空から見る王都の風景にしていると、殿下がある方向を指差した。

「あそこに山が見えるだろ。あの山の向こうに管理場があるんだって」

「あら。本當ですね。あの辺りの瘴気が一際濃く見えます。……こうして見ると、案外近くじますね」

「行ってみる?」

「今からですか?」

「だってすぐそこじゃないか! ランランならあの山もひとっ飛びだろ?」

「ピィ!」

とっても良いお返事だった。

旋回でランランのが傾き、しバランスが崩れて殿下が私の腕を摑む。

「っと。大丈夫?」

「はい。ありがとうございます」

風に煽られた私の髪が殿下の指先で耳に掛けられた。

目が合うと青くて綺麗な瞳が細められ、いつもの優しげな笑みが浮かぶ。

「……シルヴァを置いて來ちゃったな。夕食までには帰ろうね」

「はい……」

これから大変な場所に行くというのに全く気負いが無い、いつも通りの殿下だ。

心から頼れる人。貴方と居れば、私は何も怖くない。

誰にもされなかった過去は、貴方のおかげで乗り越えられそう。

「――あの、殿下」

「ん?」

「私ね、殿下のことが大好きですよ」

こんな私でも、人をして良いんだと思えるようになったのは貴方のおかげ。

目を丸くした殿下の瞳の中に、微笑んでいる私が映っているのが見えた。

これにて完結です…!

お付き合いくださった方、ありがとうございました!おかげさまで最後まで書き終えることが出來ました。

そこで新連載を始めてみました。

『悪リリーベル、結婚は諦めて王宮書として就職します!』

https://ncode.syosetu.com/n7986hx/

あまり長くせず、中編の予定です。ぜひご覧になってみて下さい!

本日11/10、この聖域化令嬢の書籍版、2巻が出ます。

この最終話の先のお話をしと、セシル殿下から見たステラのお話が掲載されています。

報告に書影がございますので、よかったらお手に取ってみて下さい。

では、聖域化令嬢にお付き合い下さいまして本當にありがとうございました!

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