《【書籍化】碧玉の男裝香療師は、ふしぎな癒やしで宮廷醫になりました。(web版)》1-6 この國での名は

とてつもなく短いので、12時に次話も投稿します。

亞妃――それが、萬華(この)國で與えられた名。

風に飛んでいってしまいそうな天の羽のように軽い羽織りに、ヒラヒラと足に絡むらかい襦

亞妃は甘えるように腕に沿う著の袖を、わざと手を振って揺らしてみた。

薄絹でも全く寒くはない。向こうでは、今頃はまだ皮を纏っていたというのに。

それに、百華園(ここ)はなんとかな場所なのだろうか。

後宮という場所に連れて來られ、まず最初に思った事はそれだった。

青と白、茶と緑。それが亞妃の知るのほぼである。しかし、ここ後宮は、軽く首を巡らしただけでも様々なが目に飛び込んでくる。

赤だけでも、るような赤、夜を混ぜたような赤、若葉に映える赤、移り変わる赤、と數え切れないくらいのが存在していた。

「目がチカチカしてしまいますね」

とても大きく、強く、しく、そして調和した國。

馬の背に乗せられ、駆け回った北の大地とは何もかもが違う。

住む家の形も、に纏うも、髪型も、化粧も、人に必要とされるものも、扉の向こうに咲き始めた花のも、葉の形も、土の香りも、空の高さも、耳に聞こえる鳥の囀りすらも――何もかもが違うのだ。

予想すら出來なかった程の知らないものばかりに囲まれ、亞妃は自分達が『狄』と呼ばれる理由が分かってしまった。

「亞妃」と、自分の名を呟いてみた。

に指を沿わせ、もう一度同じ言葉を呟く。己の口から出たというのに、まるで音だけが上りしているようで、ちっとも口に馴染んではいなかった。

それでも、今後はずっとそう呼ばれるのだ。

「わたくしは…………亞妃」

亞妃は耳を塞ぎ、瞼を閉ざした。

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