《【書籍化決定】婚約破棄23回の冷貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる》2. 初めまして

「オフィーリアお前に縁談が來たみたいだよ〜」

ここは王都から馬車で3日ほどのところにあるリシュトバーン男爵領。

山間のちっぽけな領地である。

巖だらけの痩せた土地が続く。

領民達はみな放牧と農業で生計を立てていた。

領主である男爵家も非常に慎ましやかに暮らしていた。

そんな男爵家に珍しく王都から手紙が屆いた。

オフィーリアの父である男爵が首を捻りながら封を切る。

「ええと、バーンホフ侯爵家・・・誰?・・・って、ええっ侯爵家!?」

リシュトバーン男爵は震える手で、屆いた手紙をが空くほど見つめた。

ジャガイモを剝いていたオフィーリアは手を止める。

見ず知らずの侯爵家から自分に縁談が?

人違いだろうか。

あるいは知らずにどこかで見染められたのだろうか。

しかし彼は自分が容姿で見染められるほどしくはないことはよく理解していた。

どんなに考えても自分に縁談が來る理由がわからない。

それもかなり格上の貴族から。

どう見ても訳ありな匂いがする。

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「何かの間違いでなければ、後妻でも探しているのかな」男爵も訝しがる。

「これは・・・きっとあれだ。若い妻に暴力を振るって、死んだら地下室に死を隠してまた再婚。サイコパス侯爵。なんかそういう事件あったよな」

兄が大真面目な顔で言った。兄はゴシップ好きである。

いくらなんでも死ぬのはごめんだが、後妻の話なら仕方ないかなとも思った。

なぜならオフィーリアはリシュトバーン家のお荷だったから。

オフィーリアはい頃母親を亡くした。

そしてそれ以降オフィーリアの教育はなおざりにされていた。

みんな日々の暮らしだけで一杯で余裕がなかったからだ。

家庭教師を雇うお金もなければ、近くに學校もない環境。

気がつけばオフィーリアは淑としてまともな教育をけることなく適齢期になっていた。

16歳になってもこの貧しい田舎の貴族令嬢に結婚を申し込む者は現れない。

オフィーリアは役立たずな自分が家族に負擔をかけていることが悲しかった。

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貴族との縁談が無理ならば平民に嫁ぐという手もあるが、

悲しいかな、彼は家事が壊滅的に出來なかったのだった。

貴族の家にメイドとして奉公に上がったこともあるが、三日でクビになった。

手先が不用な上にそそっかしいので、々なものを壊してしまったからだ。

見た目も地味で痩せっぽち。

貴族社會の最底辺、でも平民としても使えない娘。

そして領地は悪天候も手伝って兇作続き。

領民も領主も食べていくだけで一杯。

侯爵家の婚約者としてオフィーリアに白羽の矢が立ったのは、まさにこの悪條件を見込まれてのことであった。

こんな娘なら他に貰い手もなかろう。

婚約破棄したくなっても出來ないだろう、侯爵家はそう踏んだのである。

オフィーリアは頭の中で侯爵家での暮らしをイメージしてみた。

ヨボヨボの老人を支えながらスープを飲ませてあげる自分。

井戸から汲んできた水で老人の足を洗ってあげる自分。

(暴力的な方とは限らないわよね。案外悪いお話でもないのかも)

貧乏な田舎暮らししか知らないオフィーリアの想像力には限界があった。

どう考えてもそれは農民の生活だと思うのだが。

(年寄りでも後妻でも構わないわ。このお話、おけしよう!)

オフィーリアが結婚に求める條件は低かった。

(それに侯爵家での花嫁修行なら今後の就職の際にも役立つはず)

なぜかいずれ辭める前提だ。

オフィーリアはポジティブなのかネガティブなのかわからない決意を固め、この縁談をけることに決めた。

何より初めて家族の役に立てるかも知れないことが嬉しかった。

自分がいなくなれば食い扶持が一人減って家族の負擔が軽くなるのは確実。

兄もお嫁さんをもらうことができるかもしれない。

兄には結婚を考えている平民の娘がいることをオフィーリアは知っていた。

(どうか婚約者に暴力を振るわれませんように。それ以外は何もみません)

婚約者が老人であったり、サイコパスであったりする可能はしっかりシミュレーションしたものの、目の覚めるような男子である可能にはほども思い至らないオフィーリアであった。

覚悟を決めたオフィーリアはすぐにない荷をまとめ王都へ旅立った。

その様子はどう見ても、未來の伴との対面を控えた貴族令嬢というよりは、都會に出稼ぎに行く農民に近かったけども。

王都にあるバーンホフ家の広大な屋敷。

その庭の片隅にある小さなあずまやでアドニス・バーンホフは一人たそがれていた。

特に夢中になれる趣味もない彼は、空いた時間があるとよくこうやって過ごしていた。

自分の人生は何てつまらないんだろう。

婚約なんてもううんざりだ。

なぜ侯爵家なんぞに生まれてきてしまったのだろう。

・・・と、いつものようにネガティブなことばかりを延々と考えていたところ

わんわんわん!わうぅぅ!

けたたましい犬の聲に思考を中斷された。

犬のスキリオスがし離れたところで激しく吠えている。

尾をおの下に丸め込んで、警戒するように低く唸っている。

なぜか一本の細い木を見上げながら。

すると木の上からけない聲がした。

「た、助けてください〜。誰か〜」

木の枝にしがみついていたのは果たしてオフィーリアであった。

今からさかのぼること30分。

オフィーリアは長旅の末、無事侯爵家に到著した。

門番に侯爵夫人の手紙を見せ、元を明らかにしたのち敷地り、母屋に向かって歩いていたところ突然犬に襲われる。

食いつかれ、ドレスの裾が破れた。

怖くなったので逃げたが追いかけてくる。

仕方がないので犬が諦めるまで木に登ってやり過ごそうとしたのである。

「何者だ!木の上で何をしている!?」

ああ良かった。誰か來た。

オフィーリアはしホッとして聲のする方へ顔を向けた。

「すみません、決して怪しい者ではございま……」

オフィーリアは思わず息をのんだ。

凄まじく形の貴公子が立っていたからだ。

サラサラの白金の髪に海のような深いブルーの瞳。

(なんてしい人だろう)

険しい顔で睨まれているのも構わず、我を忘れしばらく見惚れてしまった。

そこへ騒ぎを聞きつけた門番が心配してやって來た。

「アドニス様! 大丈夫ですか?」

(…………!)

一瞬にして意識が現実に引き戻される。

アドニス様。門番は今確かにそう言った。

(ま、まさかこの方が……)

どうやら婚約者は老人ではなかったらしい。

それどころかすこぶる男子である。

おまけに侯爵家と來た。

(えっ……こ、こんなしい方が私と婚約を!?)

條件が良すぎる。

この縁談、やはり怪しい……怪しすぎる。

門番が何かをアドニスに耳打ちすると、彼はし驚いたようにオフィーリアを見た。

「では君が……二十四番目の婚約相手となる令嬢か」

(二十四番目!?)

まさか自分の前にそんなにいたとは!

明らかに普通じゃない人數だ。

思わず地下室に23が放置されている様子を想像してしまう。

オフィーリアの背中に冷たいものが走り、心臓がバクバク言い始めた。

そして自分が木の上にいることを一瞬忘れてしまって……

(あっ!落ちる!)

……と思った次の瞬間、素早く回り込んでけ止めてくれた、サイコパスかもしれない婚約者の腕の中にいたのだった。

(捨て犬みたいだな)オフィーリアを見てアドニスは思った。

みすぼらしい服を著た令嬢は驚くほど軽かった。

そしてなぜだか青い顔をしてガタガタ震えている。

さっきは自分に見惚れていたようだったのに。

今はなぜこんなに怯えているのだろう。

見惚れられるのには慣れていたアドニスだったが、怖がられたことはなかったので不思議に思った。

彼は腕の中の痩せっぽちの令嬢を地面に下ろした。

「は、初めまして。オフィーリア・リシュトバーンでございます。至らぬ點も多々ございますが侯爵家の婚約者として今後進をし……」

アドニスは片手を上げてオフィーリアのことばを冷たく遮った

「自己紹介は不要だ」

「はい?」

「婚約でも結婚でも構わないが、それ以外僕に何も期待しないでくれ」

「……?」

「言っておくが君と親を深めるつもりはない。部屋も生活も別々になるが、君は君で好きに過ごすといい。あまりに金を浪費されるのは困るがな」

「別々……ですか」

目の前の令嬢はなぜか明らかにホッとした様子を見せた。

「承知いたしました」

…………おや?

普通はみんなそこで泣くか怒るかなんだけどな。

まあ、どうでもいいか。

言いたいことだけ言うと、アドニスは門番にオフィーリアを無事に母屋まで送り屆けるように命じた。

そして到著したばかりの婚約者をほったらかしにして自分はどこかに行ってしまった。

きちんと名乗ることもせず。

スキリオスの犬種はあえて書きませんでしたが、ミニチュア・シュナウザーです。

小さい犬にボコボコにされてこそのオフィーリアです。

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