《【書籍化決定】婚約破棄23回の冷貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる》6. 淑育計畫始!
母のオフィーリアへのが止まらない。
翌朝アドニスが朝食のため食堂に行くと、自分の席の位置が変わっていることに気がついた。
前日までは長方形のテーブルの片側に父と母が並んで座り、向かいに自分とオフィーリアが並んでいたのだ。
ところが今朝は父の隣に自分、向かい側に母とオフィーリアが並んで座っていた。
「……?」
不思議に思ったが、果たしてそれはニコラ夫人の仕業であった。
理由は食事が始まってすぐに判明した。
「オフィーリア、ナイフの持ち方はこうですよ」
夫人は直接オフィーリアの手に自分の手を添えて指導する。
「オフィーリア! またソースを頬につけて! 全く手のかかる子だこと」
と言いながらいそいそと頬を拭いてあげる。
とにかく、夫人はオフィーリアのお世話をすることが嬉しくて仕方がないのだ。
手取り足取り教えるための席替えであった。
バーンホフ侯爵はこの様子を微笑ましく眺めていた。
妻のこんな楽しげな様子を見たのは結婚以來初めてだった。
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いつもは頭痛がするからと言って朝食をとらないことすらあったというのに。
ああだこうだとひとしきりオフィーリアを注意したニコラ夫人は、ふと
(あまりガミガミ言いすぎるとオフィーリアに嫌われてしまうかしら)
と心配になった。
「あ…あの、オフィーリア。々と口やかましいこと言いましたが、別にあなたが憎くて言っているわけではないのですよ」
「はい、ニコラ様」オフィーリアが照れたように答える。
「私は母をい頃亡くしているので……むしろ嬉しいんです」
「え?」
「母が今も生きていたらこういうじなのかなと思って。ちょっと溫かい気持ちになるんです。ふふ」
「オフィーリア!」
極まった夫人はオフィーリアにガバっとを抱きついた。
「ええ…そうよ。そうですとも。あなたはいずれアドニスのお嫁さんになるのだから私の娘も同然です。これからは私のことをお母様と呼びなさい」
そう言いながらオフィーリアの縦結びになっているリボンを自ら結び直してやる。
アドニスはドン引きした。
さっさとこの場から立ち去るに限ると思い、朝食を素早く胃の中に詰め込んだ。
「ごちそうさま。お先に失禮し……」
「ちょっと待ちなさいアドニス!」
母親によって秒で阻止された。
「今後のオフィーリアの教育計畫を考えました。あなたにも手伝ってもらいますよ」
オフィーリア本人にも全くの初耳の計畫であった。
夫人の考えはこうだ。
知識、技、外見、この3分野のブラッシュアップを急ピッチで進めなければならない。
『知識』は世界勢、國の歴史、社界の主だった人のデータなどを覚えること。
『技』はダンス、乗馬、刺繍など貴族令嬢としての嗜みをにつけること。
『外見』はドレスの著こなし、エレガントな所作をにつけること。
「裝いとマナーは私が擔當します」ニコラ夫人はウキウキと宣言した。
ファッションとエレガンスは彼の2大得意分野だ。
「では座學は一流の講師を手配しようか」とバーンホフ侯爵が提案した。
「まあそれは助かりますわ! ありがとうあなた」
夫人が顔を輝かせる。
妻と會話ができただけでなく、謝までされた!
バーンホフ侯爵は嬉しさのあまり心の中で小躍りした。
そして彼はオフィーリアをダシにするとニコラと會話が出來ることに気づいた。
(オフィーリア嬢には何としてでもこの家にずっと居てもらわねば……)
固く心に誓った侯爵であった。
「という訳で、アドニスあなたはダンス、乗馬、それから貴族社會への顔つなぎを擔當してしいの」
「は? 嫌です。俺は関わる気はありません」
拒否してみるものの、アドニスの訴えは完全に無視された。
オフィーリアは驚いた。
花嫁修行と言うから、家事のようなものを想定していたのだ。
(ヨボヨボの老人にスープを食べさせる生活のはずが……)
改めてここが侯爵家であることを思い知らされた。
自分が生まれ育った田舎とは求められることがまるで違う。
不安だ。自分などに務まるだろうか。
田舎基準でさえ自分はポンコツだ。
侯爵家レベルの令嬢などに到底なれるとは思えない。
アドニスはオフィーリアが不安そうな顔をしていることに気づいた。
「母上、ほら! オフィーリアも困っています。 そもそもまだ俺と本當に結婚するかもわからないし。……婚約破棄の可能だって……」
自分がこの面倒くさい計畫に引き摺り込まれるのをなんとか阻止しようと試みる。
「縁起でもないこと言うのはおやめなさい!」
夫人が世にも恐ろしい顔でアドニスを睨んだ。
婚約破棄などさせてなるものかと顔に書いてある。
……と思ったら、次の瞬間目を大きく見開いて息子を見つめた。
「あらアドニス、お前オフィーリアの名前を覚えたのね!珍しいこと」
そして意味ありげにアドニスを見てニヤニヤした。
「ほらね。オフィーリアはこれまでの令嬢とは違うでしょう」
アドニスの抵抗も虛しく、かくして『オフィーリアを一人前の淑に育てよう!』プロジェクトが始した。
………………のだが。
オフィーリアは皆の予想を遙かに上回るポンコツだった。
まず所作。あらゆる作が「こぼす、壊す、転ぶ」のウルトラ3Kであった。
しさを追求するどころの話ではない。
また壊滅的な的センスのなさも問題であった。
本人にはその自覚が全くないだけにタチが悪い。
ちなみに、先日アドニスに渡した不気味な犬の置も、オフィーリア的には
「可い! 灑落てる!」と、真面目に選んだものだった。
オフィーリアのポンコツさの犠牲になるのは大抵アドニスであった。
ダンスのレッスンの時は悲慘だ。
何度も足を踏まれ、アドニスは靴を數足ダメにした。
またある時はこんなことがあった。
オフィーリアがバーンホフ侯爵に自分が刺繍したハンカチをプレゼントしようとしたのだ。
「先日ドレスを買っていただいたお禮です。初めての作品にしてはまあまあの出來ではないかと思うのですが」
見るとオフィーリアの指は絆創膏だらけだ。
「ありがとうオフィーリア。でもそれは私よりアドニスにあげるべきだ。婚約者にお守りとして刺繍りのハンカチを渡すことはこの國の慣わしだからね」
バーンホフ侯爵、うまく逃げ切った。
作品を見る前から回避する勘の良さはさすがとしか言いようがない。
そしてアドニスの手に渡ったハンカチは……非常に前衛的な作品であった。
(ど、どこが『まあまあの出來』だよ!)
不規則に絡まった糸の「団子」があちこちに飛び出して、妙な立を出していた。
指を刺した時ののシミまでついている。怖い。
(うっわ……お守りどころか呪われそうだ)
「ん? んんん?」
アドニス手に持ったハンカチを広げようとする……が。
「このハンカチ、広げられないんだが、どうやって使えと言うんだ!」
ハンカチは四つ折り狀態のままい付けられていた。
「………………」侯爵もニコラ夫人もフォローしようがなく無言になった。
「どうしたらこんなひどいものが作れるんだ。ポンコツすぎるだろお前……ぷっ!くくく」
アドニスが笑っている!?
侯爵夫妻も使用人も驚いた。
アドニスが笑うところなど誰も見たことがなかったのだ。
「オフィーリア!素晴らしいわ!」
ニコラ夫人が目を潤ませながらオフィーリアの手を取る。
「アドニスはね、ハンカチなんて山のようにもらっているの。だけどこの子を笑顔にしたハンカチはあなたのものが初めてよ!」
笑顔……とはちょっと違う気もするが。
確かに彼は見事な刺繍りハンカチを引き出し一杯に持っている。
しかしその図案や送り主が記憶に殘ったことは一度もなかった。
彼が婚約者の名前を覚えたのも……
彼の印象に殘るハンカチをプレゼントしたのも……
彼を笑わせたのも……
田舎から來たこの貧乏で不用なが初めてであった。
アドニスの中の『氷』がしずつ溶け始めていたことに、この時はまだ誰も気づいていなかった。
…………當の本人さえも。
6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)
「わたしと隣の和菓子さま」は、アルファポリスさま主催、第三回青春小説大賞の読者賞受賞作品「和菓子さま 剣士さま」を改題した作品です。 2022年6月15日(偶然にも6/16の「和菓子の日」の前日)に、KADOKAWA富士見L文庫さまより刊行されました。書籍版は、戀愛風味を足して大幅に加筆修正を行いました。 書籍発行記念で番外編を2本掲載します。 1本目「青い柿、青い心」(3話完結) 2本目「嵐を呼ぶ水無月」(全7話完結) ♢♢♢ 高三でようやく青春することができた慶子さんと和菓子屋の若旦那(?)との未知との遭遇な物語。 物語は三月から始まり、ひと月ごとの読み切りで進んで行きます。 和菓子に魅せられた女の子の目を通して、季節の和菓子(上生菓子)も出てきます。 また、剣道部での様子や、そこでの仲間とのあれこれも展開していきます。 番外編の主人公は、慶子とその周りの人たちです。 ※2021年4月 「前に進む、鈴木學君の三月」(鈴木學) ※2021年5月 「ハザクラ、ハザクラ、桜餅」(柏木伸二郎 慶子父) ※2021年5月 「餡子嫌いの若鮎」(田中那美 學の実母) ※2021年6月 「青い柿 青い心」(呉田充 學と因縁のある剣道部の先輩) ※2021年6月「嵐を呼ぶ水無月」(慶子の大學生編& 學のミニミニ京都レポート)
8 193反逆者として王國で処刑された隠れ最強騎士〜心優しき悪役皇女様のために蘇り、人生難易度ベリーハードな帝國ルートで覇道を歩む彼女を幸せにする!〜【書籍化&コミカライズ決定!】
【書籍化&コミカライズ決定!】 引き続きよろしくお願い致します! 発売時期、出版社様、レーベル、イラストレーター様に関しては情報解禁されるまで暫くお待ちください。 「アルディア=グレーツ、反逆罪を認める……ということで良いのだな?」 選択肢なんてものは最初からなかった……。 王國に盡くしてきた騎士の一人、アルディア=グレーツは敵國と通じていたという罪をかけられ、処刑されてしまう。 彼が最後に頭に思い浮かべたのは敵國の優しき皇女の姿であった。 『──私は貴方のことが欲しい』 かつて投げかけられた、あの言葉。 それは敵同士という相容れぬ関係性が邪魔をして、成就することのなかった彼女の願いだった。 ヴァルカン帝國の皇女、 ヴァルトルーネ=フォン=フェルシュドルフ。 生まれ変わったら、また皇女様に會いたい。 そして、もしまた出會えることが出來たら……今度はきっと──あの人の味方であり続けたい。王國のために盡くした一人の騎士はそう力強く願いながら、斷頭臺の上で空を見上げた。 死の間際に唱えた淡く、非現実的な願い。 葉うはずもない願いを唱えた彼は、苦しみながらその生涯に幕を下ろす。 ……はずだった。 しかし、その強い願いはアルディアの消えかけた未來を再び照らす──。 彼の波亂に満ちた人生が再び動き出した。 【2022.4.22-24】 ハイファンタジー日間ランキング1位を獲得致しました。 (日間総合も4日にランクイン!) 総合50000pt達成。 ブックマーク10000達成。 本當にありがとうございます! このまま頑張って參りますので、今後ともよろしくお願い致します。 【ハイファンタジー】 日間1位 週間2位 月間4位 四半期10位 年間64位 【総合】 日間4位 週間6位 月間15位 四半期38位 【4,500,000pv達成!】 【500,000ua達成!】 ※短時間で読みやすいように1話ごとは短め(1000字〜2000字程度)で作っております。ご了承願います。
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