《【書籍化決定】婚約破棄23回の冷貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる》11. 嫉妬

あのガーデンパーティーから數日。

オフィーリア宛にキャロラインからお詫びのプレゼントと心のこもった手紙が屆いた。

素敵なドレスと靴とアクセサリー一式。

泥でダメにしてしまったドレスの代わりだという。

プレゼントも素敵だったが、オフィーリアはキャロラインの気持ちが嬉しかった。

それ以降、キャロラインとオフィーリアは友達になった。

時々お互いの家を訪問してお茶を飲んだり、街へ出てショッピングを楽しんだりして友を育んでいった。

娯楽のない田舎育ちのオフィーリアにとって、キャロラインと過ごすひとときはとても新鮮で楽しい時間だった。

ニコラ夫人がそうであったように、キャロラインもまたオフィーリアの魅力の虜になった。

もともと末っ子で甘やかされて育ったキャロラインだったが、は素直なお嬢様だ。

會えば會うほどオフィーリアにのめり込んで行き、日々オフィーリアを炸裂させていた。

ここまでは良かった。

オフィーリアに貴族令嬢の友人が出來た。

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ここまではバーンホフ家の面々も微笑ましく思っていたのだが…………。

ある時キャロラインは、ショッピングの待ち合わせに兄を伴って現れた。

「兄のロバートよ。荷持ちにしちゃおうかと思って。うふふ」

「初めまして。キャロラインにいつも君の話を聞かされているよ」

穏やかに微笑みながら、これはお近づきのしるしに……と可いミニブーケを差し出した。

ロバートはキャロラインより4つ歳上の優しい兄だ。

アドニスよりもがっしりとした格で、溫かい茶の髪と黃金の瞳をしている。

包容力のある素敵な大人の男だった。

とにかく言の全てが紳士的でらかい。

昔からわがままな妹の世話を焼いてきたので、の扱いは手慣れたものだ。

疲れていないか、は渇いていないか、暑くないかと気にかけ、いたわってくれる。

アドニスと違って優しいこと!

故郷の兄と違って気が利くこと!

オフィーリアはキャロラインにそっと耳打ちする

「キャロライン、こんなに甘いお兄様がいて、よくアドニス様のような人と婚約する気になったわね」

「顔が好みだったのよね。あと甘い食べすぎてたまにはしょっぱいしくなることってあるじゃない?」

なぜかすんなり納得した。

キャロラインもすっかりアドニスのことは吹っ切れたようだ。

3人はその日和やかにショッピングや食事を堪能した。

ロバートはオフィーリアが試著するドレスやアクセサリーを可いと褒めてくれた。

アドニスにはいつも罵倒されてばかりなので、嬉しくて照れ臭い。

そんな様子をキャロラインは腕組みをしながらが満足げに眺めていた。

やがてロバートが馬車を呼びに行き、子二人だけが店に殘された。

するとキャロラインがおもむろに切り出した。

「ねえ、オフィーリア。あなたアドニス様とはもう深い関係なの?」

「は! とんでもないわ。いつもポンコツだ、山猿だと馬鹿にされてばかりよ」

「エンゲージリングはもらったの?」

「まさか!花一だってもらったことないわ」

キャロラインはそれを聞くと、予想通りだと言わんばかりに頷いた。

「やっぱりね。ねぇ……オフィーリア」

キャロラインは真剣な顔でオフィーリアの手を取る。

そしてものすごい弾を投下した。

「あなたアドニス様との婚約を破棄してうちの兄にしない?」

「えっ……………………!」

そう。キャロラインは例の一件以來、すっかりオフィーリアの信奉者となっていた。

そしてオフィーリアが好きすぎるあまり

(毎日一緒に遊べたらいいのに)と思い、さらに

(姉妹だったらなぁ……毎日一緒にいられるのに)になって、

(ハッ………………!)思いついてしまったのだ。

……姉妹になれる方法を。

アドニスは家柄と顔だけは良いが格が最低だ。

オフィーリアも辛い思いをさせられるかもしれない。

かつての自分のように。

ロバートはいつも自分のわがままを聞いてくれる。

常に穏やかで優しい。

オフィーリアのことだって絶対に大切にしてくれるはずだ。

考えれば考えるほど素晴らしいアイディアのように思えた。

オフィーリアと同じ屋の下で暮らす……

毎日がお泊まり會だ。毎日がお茶會だ。

ああ、想像しただけで夢みたいだ。

「ねっ? ねっ? いいと思わない?」

キャロラインの熱いプレゼンは続く。

「それで、結婚後は兄と寢室が一緒になるとしても、婚約期間中は私の部屋で一緒というのはどうかしら」

何がなんでもお泊まり會にする気満々のようだ。

キャロライン自の結婚はどうするつもりなのだろうか。

(確かにロバート様は優しいし、大人だし、素敵な男だとは思う……けど)

キャロラインの家の馬車でバーンホフ邸まで送ってもらう。

馬車を降りる際、ロバートが紳士らしく手を差し出した。

そして馬車を降りると…………ロバートはオフィーリアの手に口づけをしたのだった。

意味ありげな眼差しでオフィーリアを見つめながら。

さらには「キャロラインとお揃いにしておいたから使ってね」と言って可らしいネックレスまでプレゼントしてくれた。

…………この様子は玄関掃除のフリをしながらこっそり観察していたミアにより、すぐさまニコラ夫人に報告された。

「なんてことなの!!」ニコラ夫人はショックを隠せなかった。

っぽい眼差しで秋波を送ってましたよ! 思わず私までドキッとしました」ミアの顔が赤い。

これは由々しき事態である。

「まずいわ。このままではあの娘を奪われてしまうかもしれない」

なんと言ってもアドニスは23回も婚約を破棄されているのだ。

神的に未で、緒レベルは8歳児並みだ。

を口説くことなどできるはずもない。

いっそオフィーリアが顔と家柄で男を選ぶような打算的なの子だったら良かったのにと夫人は思った。

今のアドニスには勝ち目はない。

彼はオフィーリアに対してちっとも優しくないではないか。

もう何ヶ月も一緒に暮らしているのにプレゼントの一つも贈ったことがない。

それに対してロバートは初対面で花束、ネックレス、手に口づけの三大クエストをクリアした強者である。間違いなく上級者だろう。

早速アドニスを呼びつけ、厳しく叱責した。

アドニスは母の小言を適當に聞き流していたが、

『ロバートがっぽい眼差しでオフィーリアの手に口づけを』

のくだりを聞いた途端苦蟲を噛み潰したような顔になった。

「アドニス、お前はオフィーリアのために何かをしてあげたことがありますか?」

………………なかった……かも。

「いたわってあげたことがありますか」

………………ない。

「プレゼントや花を贈ったことがありますか」

………………ねえよ。

しい、かわいい、好きだ、してる……と言ったことはありますか?」

………………あるわけないだろ。

「このままオフィーリアがロバートにをしてしまったらどうするのです!」

不愉快になったアドニスは逆ギレした。

「は? 知らねえよそんなこと! あんなポンコツが誰を好きになろうが俺には関係ない!」

自分はオフィーリアになんか興味ない、興味ない、興味ない……。

アドニスは自分に言い聞かせた。

手に口づけされた時、オフィーリアはどんな顔をしていたのだろうか。

嬉しそうに頬を染める様子を勝手に想像してイラつく。

気になってしまう自分にも腹が立った。

そんな最悪な気分の時、廊下でばったりオフィーリアに出くわした。

オフィーリアは手に可らしいミニブーケとネックレスを持っていた。

「…………それ」

「はい? あ、これですか? 可いでしょう?」

オフィーリアがにっこり笑ってブーケを見せる。

ーーなぜかその笑顔が無に癪にった。

「別に見せてくれなくていいよ。興味ないからそんなもの。お前にも」

アドニスは冷たく言うと、プイと顔を背けて行ってしまった。

「キャロラインごめんね。 だけど僕とオフィーリア嬢は多分無理だ」

その晩、自宅のラウンジでお茶、ロバートはお酒、を飲みながらくつろいでいたら突然切り出された。

「お兄様! どうして!? 彼の何が気にらないの?」

「そうじゃなくてオフィーリア嬢の方に全く脈がなくてさ」

「なんでそんなことわかるの!? まだ會ったばかりじゃない!」

ロバートは口ごもる。

「そ、それは……分かるんだよ」

「そんなことないわ! 二人は絶対上手くいくんだから!」

兄と親友をくっつける気満々のキャロラインを眺めながらロバートはため息をつく。

手に口づけたとき、さりげなくモーションをかけてみたのだがオフィーリアの反応は『無』だった。

(あれは……絶対に想い人がいるだろ)

(でもまあ、いい友達ができて良かったねキャロライン)

とキャロラインに優しい眼差しを送る妹想いの兄なのであった。

ちょうど同じ頃、オフィーリアは自室のバルコニーで星空を眺めていた。

先程のアドニスの言葉が頭から離れず眠れなくなってしまったのだ。

(興味ないからそんなもの。お前にも)

頭の中で何度も繰り返されるセリフ。

わかっていたはずだ。

もともと自分と親しくするつもりはないと言っていたではないか。

だから落ち込むことなんてないはずだ。

それとも自分は何かを期待していたのか。

そんなことを考えているとふと、夜風に紛れて覚えのある匂いがした。

(あれ……。焚き火?)

焚き火の匂いのする方を見てハッとする。

廄舎の方角から煙が上がっている………………?

「ミア!デミィ!馬小屋の方の様子がおかしいの! 私ちょっと行ってくるわ!」

ミアとデミィの寢室のドア越しにんで、オフィーリアは寢巻きのまま飛び出して行ったのだった。

あて馬の回

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