《【書籍化決定】婚約破棄23回の冷貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる》12. 火事とたんこぶと初めてのプレゼント

廄舎に近づくにつれて焚き火のような匂いが強くなり、煙を上げているのが見えた。

バタバタと人の走る音や怒鳴り聲も聞こえてきた。

「よし右ウィングのゲートは全部開けた」

「急げ! 馬が全部揃っているか確認できたか!?」

「屋敷に連絡を!」

バーンホフ邸の一角にはちょっとした屋敷のような大きな廄舎がある。

天井の高い石造りの建で、右ウィングには約20頭の馬が、左ウィングには8臺の馬車を格納している。

二つのウィングの間にあるり口部分は者や馬丁が代で寢起きする部屋がある。

(火事……!)

右ウィング……馬がいる廄舎から煙が上がっている。

オフィーリアが到著した時、廄舎の前は馬丁や者たちでてんやわんやであった。

どうやらボヤがあったらしい。

それに気が付いた馬丁が馬達を避難させるため慌てて廄に駆け込んだ。

煙で視界が悪い中、馬たちがっているブースのかんぬきを外していった。

炎に怯えた馬たちはブースの扉が開いた途端、我先にと外めがけて押し寄せ、混していた。

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とは本能的に炎を恐れるものだ。

馬たちも皆興して暴れている。

馬丁と者たちは馬を鎮めるのに手を焼いていて、オフィーリアが來たことに気づかなかった。

(……ん? レアがいない)

外で暴れている馬たちの中にアドニスの馬のレアがいないことに気づいた。

『俺の大事な相棒だ』

そう言った時のアドニスの優しい顔を不意に思い出す。

考えるよりも先にいていた。

そしてオフィーリアはまだ燃えている廄舎の中に駆け込んだのだった。

幸い、建が石造であるため炎はさほど大きくなかった。

あちこちでワラの燃えかすが黒い煙を上げている。

オフィーリアは視界が悪い中、広い侯爵家の廄舎を用心深く進んでいった。

程なくして、オフィーリアの耳はレアのいななきを捉えた。

「レア!」

外したはずのかんぬきが倒れ、ヒンジに引っかかって出られなくなっていた。

ワラが炎に包まれる中、自分のブースに閉じ込められたレアは恐怖のあまりパニック狀態になっている。

ブースの壁をガツンガツンと前腳で蹴ってもがいていた。

「レア! もう大丈夫だからね! ゴホ! お、落ち著いて!」

優しく聲をかけながら急いでかんぬきをどかす。

その途端、レアはブースの扉を蹴り開け、一目散に外に駆け出していく。

そして運の悪いことに、レアが蹴った扉は外側にいたオフィーリアの顔面を直撃してしまった。

衝撃で目の前に火花が散る。

そして……そのまま気を失って倒れてしまったのであった。

ちょうどその頃、廄舎の外には屋敷から駆けつけたアドニスたちがいた。

「大丈夫か!? 怪我人は!?」バーンホフ侯爵が聲をかける。

「はい! 大丈夫です。怪我人ゼロ。馬も20頭全て確認終わり無傷ですっ!」

疲れを見せながらも馬丁がホッとした様子で答えた。

「中の藁が全て燃えてしまえば自然に鎮火するでしょう」

「オフィーリア様は!? オフィーリア様はどこです!?」

キョロキョロしていたミアとデミィが悲痛なびを上げた。

「え?」

レアをでていたアドニスが驚いて二人を振り返る。

「オフィーリア様は私たちより一足先にこちらへ向かわれたんです!」

「……………………!」

心臓が激しく鳴り、全が凍ったような覚に襲われる。

(まさか!)

次の瞬間アドニスは煙で何も見えない廄の中に飛び込んでいったーー。

オフィーリアが目を覚ますと、真っ先に視界に飛び込んできたのは至近距離で覗き込むアドニスの顔だった。

その深いブルーの瞳にしばし見惚れていた彼はアドニスの聲にハッと我に返った。

「オフィーリア!」

「オフィーリア様!」ミアとデミィも橫で涙を流している。

そしてバタバタと侯爵夫人を呼びに行ってしまった。

アドニスと二人きりになったオフィーリアは混しつつ、を起こした。

なぜか頭がズキズキする。

「だ、大丈夫か!?」

「え……と、これは」

狀況が飲み込めない。

ふと、アドニスの顔が煤で真っ黒であることに気がつく。

「ふふ、アドニス様なんでそんな顔が真っ黒……」

途端、強く抱きしめられた。

(…………!?)

「よ、よかった無事で」

アドニスは震えていた。

もし藁の炎が意識のないオフィーリアの服に燃え移っていたら大変だった。想像するだけでもゾッとする。

倒れているオフィーリアを発見したときは恐怖のあまり一瞬心臓が止まりそうだった。

気を失っていただけと分かってどれほど安堵したことか。

「えっ? あの、あ……レア、レアは!?」

「……。レアは無事だ。そうか……そのために無茶したんだなお前」

「良かった! レアちゃんと外に出られたんですね」

アドニスはオフィーリアのおでこにできたたんこぶを見て顔をしかめた。

「馬鹿野郎……他人のために怪我ばっかりして。もっと自分を大事にしろよ」

このポンコツと言いかけてアドニスは

「いや……俺のせいだな。全部俺が悪い」

いつになく真剣な瞳のアドニスにオフィーリアは戸った。

「い、いえ?そんな別に」

何が起こっているのか今ひとつ理解できない。

「……だから……代わりに俺が大事にする……」

アドニスは震える指でオフィーリアのおでこの髪をそっとすくい

「もう二度とお前に怪我なんかさせない。……絶対に」

そう言うと、そっとおでこのたんこぶに口づけたーー

痛いのは怪我をしたおでこのはずなのに。

が締め付けられるように痛む。

オフィーリアは気付いてしまった。

キャロラインの兄に手に口づけられた時とはまるで違うの高鳴りに。

ーーずっと気づかないように蓋をしてきた自分の気持ちに。

その日を境にアドニスのオフィーリアに対する態度がし変わった。

なんと言うか……優しくなった。

あくまで以前と比べて多はマシになった程度ではあったが。

ある時彼は

「ほら、これやるよ。たんこぶのお詫びだ」

とぶっきらぼうに言って、小さなベルベットの小箱を投げてよこした。

アドニスの瞳そっくりな深いブルーの石をはめ込んだ指っていた。

オフィーリアは箱を開いた瞬間そのブルーに瞳を奪われた。

(アドニス様が私にプレゼントを!? )

初めての贈りがドキドキして喜びが込み上げてくる。

オフィーリアは堪らなくなって両手で口元を覆う。

アドニスが生まれて初めて自ら寶石商のところまで出向き、選んで買ったサファイアだった。

なんとなく、この寶石をオフィーリアに離さずつけていてしいと思ったのだ。

「こ、こんな高価なものいただけません」

と言いつつも心は嬉しくて泣きそうだった。

「や、安だよ!ついでがあったから買っただけだ」

「…………」

「安だから……普段つけてろよ。ずっと」

「ずっと?」

「そうだ。寢ている時もずっとだ」

ちょっぴり拗ねたような顔のアドニス。

(だからアイツから貰ったネックレスなんて捨てちゃえよ)心の中でつぶやいた。

さすがのオフィーリアでもこの石が高価であることくらいわかる。

け取っていいものかと躊躇していると、さらに畳みかけてくる。

「お前この、わ、わりと似合うし?」

「他のよりは多はか、可く見え……ないこともない」

そうなのだろうか。

この指に著ければ貧相な自分でもしは可く見えるのだろうか。

他の人にはそう見えなかったとしても。

もし彼の目にそう見えるのであれば。

変わったのはアドニスだけではなかった。

あれ以來、白馬のレアがオフィーリアに絶対服従するようになった。

賢いレアはオフィーリアが自分の命の恩人であることを理解したのだろう。

怪我を負わせてしまったこともなんとなく察していたのかもしれない。

以前の王侯貴族としての矜持はどこへやら、骨にごまをすってくるようになったのが面白い。

例えば、背に乗ったオフィーリアが降りる時は必ず水溜りを避けて乾いた地面を自主的に探す。

またオフィーリアが暑いと言えばササっと木側に移したりとまさに至れり盡せり。

オフィーリアが手綱をるまでもなく、ほぼ自運転で目的地に連れて行ってくれるのだった。

そしてレアのこの気を利かせたつもりのサービスがとんでもないハプニングを引き起こすことになるーーーー。

次回13話はちょっぴりっぽい話になる予定です。R15のガイドラインを確認せねば……

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