《【書籍化決定】婚約破棄23回の冷貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる》17. 君と歩む未來

「アドニス・バーンホフ卿、あなたとの婚約を破棄させていただきたく存じます」

え……………………?

今なんと言った?

會場全が凍りついた。

賭けをしている貴族たちは二転三転する勝敗に困した。

(なんだろうこのデジャヴ……)

アドニスははたと今朝見た夢を思い出した。

(ま、正夢!?)

背中を冷や汗が流れる。

(あの夢の通りだとすれば、このあとは…)

このあとのオフィーリアの冷たい眼差しと言葉を想像する。

ダメだ、きっと耐えられない。

アドニスは恐怖のあまり顔を上げることができなかった。

「わ……私、も、もう我慢できませんの」

やめろ!やめてくれ!それ以上言うなオフィーリア!!

「だ、だって……アドニス様は、いつもわた……私を傷つけてばか……うっ」

……………………ん?

「ばかり……で、だから、ええと……もう、だ、だい……大キラ………えぐっ」

…………ええと?

恐る恐る顔を上げる。

目の前にいるのは冷たい目で蔑むように見下ろすオフィーリア

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………………ではなかった。

オフィーリアは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で、子供みたいに泣いていた。

「え……と、お、お金…そう! お金に釣られて婚約しっ……したけど、もう うぐっ飽きてしまいましたの……ひっく……おほ ヒック……ほほほ」

その時、會場にいた人全員が同じことを思った。

(この娘は役者にだけはなれないだろう)

そう。オフィーリアの演技は壊滅的に酷かった。

王都の歴史に殘るポンコツな芝居であった。

賭けをしていた貴族たちは顔を見合わせ首を傾げた。

ややこしすぎて、どちらが勝ったのかわからない。

アドニスはホッとして

そして込み上げるおしさでが潰れそうになった。

(婚約破棄だと言いながらなぜそんな辛そうな顔をしているんだ。

……なあ、俺はしは期待していいの?)

「婚約は破棄しない。俺は君と結婚する」

「うっうっ む、無理です。他に好きな人がいる人と……い、いやです」

そう言うとオフィーリアはアドニスを突き飛ばして走り去った。

途中々なものをひっくり返しながら。

「は?待って!!それ多分誤解だから」

追いかけようとしたアドニスだったが、オフィーリアがこぼした料理ですべって転んでしまった。

オフィーリアは大急ぎで止めてあるバーンホフ家の馬車に飛び乗ると、一人で先に帰ってしまったのだった。

オフィーリアに馬車を持って行かれてしまったバーンホフ家の3人が困っていると、國王がやってきてものすごーく豪華な馬車を用意してくれた。

「あ、これ返さなくていいから」國王が言う。

「お祖母様からオフィーリア嬢へ、歌のお禮だってさ」

「これで婚約がなくなったら灑落にならんぞ」

と馬車の中でバーンホフ侯爵が苦い顔で言う。

「トラの背中に乗っているようなね。生きた心地がしないわ」とニコラ夫人がブツブツ言う。

やがてオフィーリアよりだいぶ遅れて3人は屋敷に帰り著いたのであった。

アドニスは真っ直ぐオフィーリアの部屋に向かった。

すると、ミアとデミィが慌てふためいてやってきた

「大変です! オフィーリア様が出て行ってしまいました!!」

ミアとデミィの話によるとこうだ。

王宮から一人戻ったオフィーリアは自室に駆け込むなり一人で著替えをして、

わずかな荷だけを持って出て行ってしまった。

てっきり部屋にいるものだと思ってお茶を持って行ったら、もぬけの空だったというわけだ。

バーンホフ侯爵はオフィーリアを追いかけようとする息子を呼び止めた。

「アドニス。あの娘を連れて帰って來れなかったらお前は勘當するぞ!」

アドニスは振り向いて不敵な笑みを浮かべた。

「どっちにしろ、見つけるまで絶対に帰って來ないさ」

俺は絶対に君を見つけ出す。

地の果てまでだって探しに行ってやる!

……と颯爽とレアにりオフィーリアを追いかけるアドニスの旅は、地の果てどころかわずか50mで終了した。

なぜなら屋敷の玄関から50mほど先で、スキリオスが激しく吠えていたからだ。

當然ながらバーンホフ家の敷地だ。

うううう……わんわんわワン!!

スキリオスは一本の木を見上げて吠えている。尾をブンブン振りながら。

(気のせいだろうか。なんだか以前にもこんなことがあったような…………)

ゆっくりと木を見上げる。

月明かりを背にオフィーリアが枝にぶら下がっていた。

「オ、オフィーリア!?」

アドニス、バーンホフ夫妻、使用人たちは……みんなあっけに取られた。

(スキリオス、グッジョブ!)

「あなた、外務長はスキリオスに継がせたほうがよろしいのではなくて?」

「本當だな。アドニスよりよっぽど優秀だ」

し離れたところで、ホッとした様子のバーンホフ侯爵とニコラ夫人が小聲で言う。

「屋敷を出ようとしたらスキリオスがドレスに食いついて離れなくて……それで」

オフィーリアは決まり悪そうに眉を下げた。

「私って……なんでこうポンコツなのかしら。自分で自分が嫌になります」

「ああ、婚約破棄の演技もポンコツで本當に助かったよ。上手だったら神的ダメージが大きすぎて立ち直れないところだった」アドニスが木に近づいた。

「わ…私には侯爵家の嫁なんて無理なんです。アドニス様にはもっと相応しい方がいらっしゃると思います。……お願いです。このままさよならさせて下さい」

「お前は……本當にそれでいいのか?」

「はい。それがみんなにとって一番いいことだと思います」

木の上のオフィーリアはアドニスに顔を見られないよう橫を向いた。

目が合ったら泣いてしまいそうだったから。

「…………じゃあなんでその指だけ持って行くんだよ」

オフィーリアの指にはアドニスから贈られた指があった。

アドニスの瞳のそっくりなサファイアの指が。

「もっと高価な寶石も、ドレスも全部殘して行くくせに……なんでその指だけ持って行くんだよ!!」

「…………っ」

「なあオフィーリア……出ていくなんて言うなよ。俺……もう他の人と結婚なんて出來ないよ」

アドニスが木を見上げ切なそうに言う。

「俺はお前としか結婚したくない。……お前と結婚できないなら、もう一生誰とも結婚しなくていい」

オフィーリアは耳を疑った。

何を言っているのか意味がわからない。

ディアンドラを選んだはずではなかったか。

噂になるのも構わず、堂々と朝帰りをしたはずではなかったか。

だから婚約破棄を言い出される前に自分から言ってあげたのだ。

それが自分がアドニスのために出來る唯一のことだと思ったから。

「オフィーリアしている」

「なっ……………………!? だ、だってディアンドラ様が」

「信じてもらえないかも知れないけど、ディアンドラは……なんていうか男友達?」

「い、意味がわかりません。あんなにっぽくて、も大きいのに」

「…………? ディアンドラはが大きいのか?」

アドニスの目にはっていなかったようだ。

「いずれにしても、神に誓って彼とは何もないんだ。信じてくれ!」

っぽいと言うなら、泉で下著で水浴びしているお前の……い、いや、なんでもない」

「!!!な、な、なんで」

水浴びを覗いたとは言えないアドニスは咳をして誤魔化した。

本當なのだろうか。

アドニス様とディアンドラ様はなんでもなかった?

期待してはダメだと自分に言い聞かせながら、一方で期待している自分がいる。

オフィーリアはを噛み締めて涙が溢れるのを堪えようとした。

神様……私はまだここにいてもいいのでしょうか。

「お願いだオフィーリア。チャンスをくれ。お前に好きになってもらえるよう全力で頑張るから。必ず幸せにするから」

「そっ、そんなのとっくに……!」

そんなのとっくに好きに決まっている。

本當は自分だってこの人と離れたくない。

アドニスのことを想うだけで心が張り裂けそうになる。

だから彼の瞳とそっくりなサファイアの指をどうしても外せなかったのだ。

オフィーリアがぶら下がっていた枝がバキリと折れた。

(落ちる!!)

的にめて目をギュッとつむる。

そして目を再び開くと、オフィーリアをけ止めたアドニスの顔が間近にあった。

「…………!」

「なぁ、今なんて言いかけてた?」

オフィーリアの目から涙が溢れた。

アドニスは腕の中にいるオフィーリアのおでこにそっと口づける。

「わ、私なんかで……いいんでしょうか」

腕に抱えているオフィーリアをぎゅっと抱きしめ、今度は頬に口づける。

「お前がいい」

……真っ直ぐにオフィーリアの瞳を見てそう言うと、アドニスは優しくを重ねた。

遠巻きに二人の様子を見ていたバーンホフ家の人々は安堵した。

そして靜かに屋敷の中に戻って行ったのだった。

しばらくしてアドニスの腕の中のオフィーリアが泣き止んだ。

そのまま無言で星空を眺めていた二人だったが、やがてオフィーリアがクスッと笑って言った。

「私たちが初めて會った時のこと覚えてますか?」

「ああ」

「オフィーリア・リシュトバーンでございます。至らぬ點も多々ございますが侯爵家の婚約者として今後進をしてまいる所存でございます」

あの日の口調を真似て、オフィーリアが下手くそな芝居を披する。

初めて會った時はこんな日が來るなんて思いもしなかった。

ただの利害で結ばれた婚約者同士。

それがいつしかお互いにとってこんなにもかけがえのない存在になるなんて。

「君を必ず幸せにするから期待していてくれ」

アドニスもあの日の口調を真似て悪戯っぽく言った。

「言っておくが君とは今後じっくり親を深めるつもりだ。部屋もベッドも一緒になるので覚悟しておくがいい、二人で々な所に行ってたくさん思い出を作ろう。金も好きなだけ使うがいい。俺は甲斐のある男だからな」

そう言うと二人で顔を見合わせて笑った。

エピローグに続きます

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