《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月20日:クライマックス・プレリュード
隨分とお待たせしてしまい、申し訳ないです
新王アレックスと前王トルヴァンテによる、王権を巡る爭いはエインヴルス王國を、ひいてはこの大陸のほぼ全てを巻き込んだ大きな騒となった。戦火は大陸の殆ど全土に広がり、雙方が開拓者を戦力として起用したが故に熱ある限り死なずの彼らによって戦いの火は衰えることなく燃え盛り続けた。
いや、それどころか突如として現れた二の恐るべき存在………地上に羽ばたいた灼熱の太が如き赤い蝶と、戦いの記憶そのものが怨讐と実を得て蘇り続けているかのような深く濁った緑の軍勢。人と、人と、人ならざる脅威が混ざり合った殺し合いはエインヴルス建國以前の歴史書を紐解いたとて前例のない大戦爭であった。
だが何事にも終わりはあり、この王國に騒を齎した雙王戦爭にも終わりが近づきつつあった。そしてそれを理解してか、あるいは何事においても終焉の直前こそが最も盛り上がるのか……戦爭の最後の日となったその日は、それだけで筆者は歴史書を一冊完させられると確信を持っている。
───NPC「作家ダイモス」執筆戦記「雙王戦爭」324ページ目に書かれた文章
◇
「さぁーて………いよいよクライマックスだね。サンラク君はちゃんと働いてくれるかな? まぁいいか、働かなかったらそれこそ素寒貧になるまでひん剝いて馬で引きずってサードレマ百周だね」
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特定個人の人権や財産、その他諸々の尊厳を叩き潰すと気軽に呟くは、夜空のような濃紺の長髪を夜風に靡かせながら遠く見える先……この國の王が本來あるべき場所を見つめる。彼の使命は、玉座にしがみつく偽りの王を討ち、真に座すべき王をそこに導くことにある………というのが大義名分ではあるが。
「ぶっちゃけ”上”に用は無いんだよねぇ……地下さえ無事なら私的にはノープロブレム、大公サマと前王のおじいちゃんには悪いけど、私流(・・)でやると大更地になっちゃうんだよね」
定期的な攻勢によって出を強い、消耗させる……という考えそのものは間違っていないだろう。だがこれはゲームであり、なによりシャングリラ・フロンティア。やる気に満ち満ちたユーザーが疑似的な無限の兵力として運用できるのであるならば、は出を強いる戦法を最善とは考えない。
「やっぱ一撃で!スパっと!首を切っちゃえば過程の勝率はどうだっていいのさ!!」
一撃斬首、邪魔するものは火薬でぶっ飛ばす。それがこの戦いに勝利を求めた……アーサー・ペンシルゴンが考(およそ十五秒)の末に導き出したたった一つの冴えた答えであった。
……その答えを十五秒で作り出した時點で、ペンシルゴンは次の解答を考える事は早々にやめたのだが。
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「配信戦線はほぼ半壊! 野良プレイヤー達の戦況はほぼ膠著!んでもって……潛伏と奇襲を目論んでたのは君たちだけではなぁい!」
ごう、と風が吹いた。
それは夜風と真正面から激突し、その上で押し返してしまうほどに強く……それまで後ろに流れていた髪が前に戻ってくるよりも先に、その風の方へと振り返ったペンシルゴンは両手を広げ、彼ら(・・)へと語りかける。
「さぁさ!いざ決戦の日だよレッドペンシルエージェンシー諸君!」
ペンシルゴンの視線の先、そこには飛行ユニットを裝備した何もの戦機達が己を浮遊させつつもより高い空と、目標へと飛翔するその瞬間を今か今かと待っていた。
「私らはサードレマの一等地を貰うってのに、大公サマの城より良い一等地があったんじゃあ私らの別荘が霞んじゃうよねぇ!」
『そうだそうだーっ!』
『ゲームでくらい最強の一等地に住みたーい!』
戦機を通して拡大された聲が、ペンシルゴンの言葉に同意のびを返す。飛行能力を兼ね備えた機で統一された彼らは、その上でさらに皆一様に似たような武裝である。
「だったらどうすればいい!?答えは簡単!私らよりイイトコに住んでる奴らの一等地を火薬と暴力で耕して二等地にしちゃえば私らが繰り上がりで一等地!」
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『『うおおおおおお!!』』
すさまじい暴論、だがしかしこの場にそれを否定する者はいない。なにせ彼らはRPA、何かを奪い取ること以上にぶっ壊す(・・・・)事が大好きな一団なのだから。
「報提供があったから王城は滯空防ザルなのが確定!思う存分”撃”したまえよ諸君!!」
ああでも、とペンシルゴンはウィンクをしながら付け足す。
「あくまでもメインターゲットだけ更地にしようね、サードレマの一等地に住むのは前王と大公サマに勝利を捧げるべく命を賭した「英雄」なんだから……ネ?」
あくまでも今から為す全ては”忠義”と”正義”故である、と言い放ったペンシルゴンに、RPA機械化撃強襲部隊のある者は苦笑いし、またある者は笑した。
『同志! さっき言ってた話じゃ結構ヌルゲーかもって言ってましたけど流石に決戦想定でいいんすよね!』
「うーん、どうだろ。ちょっと相手に申し訳ないくらい仕込み(・・・)があるし……多分、今日一番注目されるのは”ここ”じゃないよ」
王國騒イベント最終日の、本拠地への奇襲作戦であるというのにもかかわらず、「これは決戦であるか?」との問いにどこか含みのある否定を返したペンシルゴンにRPAの面々は疑問符を浮かべる。中には、その理由を知っているが故に苦笑いを浮かべる者もいたが。
「本命が必ずしも一番目立つとは限らないからね、主人公より目立つ脇役なんてそう珍しいものじゃない」
『そりゃ一どういう………』
簡単なことだよ、とペンシルゴンは風に揺れる髪を抑えながら答えた。その顔には……正を隠すかのような………仮面。
「このゲームで一番目立ってる奴を一番目立つように囮にしたからね」
◇◇
一騎當千、人馬一、鎧袖一。
比類なき鎧武者がそれに勝るとも劣らない巨馬にり巨大な武を振り回し、駆け回り暴れ回る様を形容する言葉はいくらでもある。
とはいえ、その全てが當てはまるような景を目にすることはこの現代社會を生きていく中でそうそう無いことだろう。
「頑張ろうね、緋鹿楯無」
「ヴォルルルルルァッ!!」
鍛えられた鋼の如き外殻を持つ巨馬、この舊大陸においては知る者の無き鎧馬アルマアロゴ・ヘタイロンが牙の覗く口を開いて咆哮の如き嗎(いななき)を上げる。その上にる異形の鎧戦士。恐らく男アバターなのだろう巨を覆う鎧は、本來あるべきはずの視線や呼吸を通す隙間すら存在しないのっぺらぼう(・・・・・・)の如きつるりとした未知の材質であるが故、その姿から無機質なマネキンと見間違えた者もなくはない。
だがアルマアロゴ・へタイロンの咆哮が響くとき、それは躙の合図。サードレマより始まり鐵跡を越え、シクセンベルトの制圧をもって王都ニーネスヒルにとの間に橫たわる翔風樓結(しょうふうろうけつ)の大河に陣を敷く前王陣営が誇る最強の一騎。
これまで敗戦を続け、ニーネスヒルまで追い詰められた新王陣営のプレイヤー達にとってはまさしく絶の巨影。
「いやマジであれどうすんだよ!」
「ガッチガチに固めた戦機すらぶっ飛ばされたんだぞ……人間で止められないだろ」
「なんかあの人に対抗できる奴いないのか!?」
「【最大防】呼んで來いよ誰か……」
「聖ちゃんがいるのに新大陸から帰ってくるわけないでしょ!」
ニーネスヒルから出撃し、大河を挾んだ先に並ぶ前王陣営のプレイヤー達の中にあっても頭三つは抜けたその姿に新王陣営のプレイヤー達はどうすればよいのだ、とどよめく。
あるいは、上に載っている異形の鎧なれど中は(まだ)人類であるはずのプレイヤーのみであったならば。新王陣営側にも対抗のはあったかもしれない。
だが、前王陣営が取った戦法は非常にシンプルなものであった。
「よーし、強化支援一通り付與完了~、じゃあ強化延長よろしく」
「了解了解……栄華よ、盡きる事なかれ。栄よ、る事なかれ。輝きは褪せず、憧憬と羨のを背負いし汝よ、その輝きの消えぬを願う。【律よ、限り無く輝け《リミテッド・エクステンション》】」
ありったけの強化支援を一騎當千たる単騎に集中させ、さらにその効果時間を延長する。千対千であるとしても、九百九十九の兵と一騎當千の兵が連攜を為せばそれはもはや二千に匹敵……否、それすらをも凌駕する一群となる。
「その……何度もありがとうございます」
「おう、気にすんなよ【最大火力(アタックホルダー)】! バッファーは最強のアタッカーを作るのが趣味で仕事みたいなもんだ、【黒剣】……ああ、今は【旅狼】だっけ? あんたらほどガチってないからクランには混ざらないけどプレイヤー最強の火力持ちを強化出來てウチらも結構楽しんでるしな!」
【最大火力】の看板は、あるいは當人が思っている以上に大きな力を持つ。あるいはそれは負のを引き寄せることもあるが、それだけであるわけでもない。現に、「【最大火力】をもっと最強にして突っ込ませたら大勝てるんじゃね?」という眼前のバッファーの言葉を端に発したこの戦法に參加するプレイヤーは勝利を重ねて進軍するほどに數を増しており、今やアルマアロゴ・ヘタイロンも含めて人馬雙方が凄まじい量の強化魔法のオーラを纏っている。
その補正量はただでさえプレイヤーの中でもトップクラスのステータスを持つその者をさらに……もはや過剰と言えるほどに強化しており、ただの突進で人の群れが塵芥のように吹き飛ばされることはこれまでの戦闘で誰もが理解していた。
「サイガ-0さんっ!」
そして、この一団……最初はサードレマの防衛を擔っていた「防衛軍」改め、今や王都にまでその手をばす「侵略軍」にはもう一人旗頭がいる。あるいは、知名度と人気の”質”においては【最大火力】をも上回りかねないプレイヤーが。
「秋津茜さん」
「ペンシルゴンさんから伝言を預かって來ました! 「ボコボコにしちゃって」だそうですっ!」
「そ、そうですか………」
「私もアシストに回りますねっ!」
「よ、よろしくお願いします」
【最大火力】……サイガ-0が思っていたよりも対人戦に積極的な姿勢を見せるに、サイガ-0は若干困しつつも改めて前を見る。
翔風樓結(しょうふうろうけつ)の大河は一言で言ってしまえば、飛び石のように設置された足場、あるいは大河を直接渡って進むエリアである。轟々と流れる大質量の水流は常人であれば踏ん張る事すら葉わず流され、さらに大河の中心深度は有志の調査によれば「軽く10メートルはあるっぽい」とされている……即ち、泳いで渡ることは現実的ではない。
故に、飛び石の如き足場を使用して渡るのが基本的な攻略方法であるわけだが………
「秋津茜さん……足場を渡る時は気を付けてください」
「どうしてですか?」
「恐らく……地雷的な魔法などが仕掛けられているかと」
「なるほど! 了解です!!」
今やサイガ-0達が攻め手に転じた以上、新王陣営が防衛策を張り巡らす側である。あるいは水中にも機雷が仕掛けられているのでは、と警戒しつつもサイガ-0は如何にしてこの戦いを攻略するべきかを考える。
以前までであれば姉がそういったプランを提示していたが、今の上司(リーダー)はどうにも、大局的な方針こそ示すが一局面においては放任、というよりも「まぁ流れで」と雑に任せるパターンが多いようにも思える。
本人が現在行方知れずで王國騒イベントに殆ど參加していないために仕方がないのは承知しているが、さらに言えば24日に一緒に遊ぶことを約束しているので今無理に合流する必要もないのは分かっているがそれはそれとしてやはり一緒に王國騒イベントが出來れば最上であり、別に武將として進撃したかったわけではなく……………
「………………」
々と思うところ(・・・・・・・・)があるため、無言で考え込んでいたサイガ-0の隣で”黒い武”の調子を確かめていた秋津茜であったが、ふと思い出した「伝言」をサイガ-0に伝える。
「あっ、そうでした! ペンシルゴンさんからもう一個伝言がありました?」
「え?」
「連絡がついたからサンラクさんも王國騒に參戦するそうです!」
「!!!……あの、それは何処に……」
「確か………あ、そうです! 奧古來魂の渓谷だそうです!」
程、とサイガ-0は軽くうなずいた。あるいはサイガ-0をあくまで視力的に見ている者にはそう見えた。
「……正面突破で片を付けます」
あるいは、戦線離を招きかねないその報をサイガ-0に伝えるよう指示した者の狙いはこれ(・・)であったのかもしれない。
親友の妹が人並みの責任を持っていることを知っているからこそ、その責任に発破をかけるための魔法の言葉を與えればどうなるかを。
「申し訳ないのですが、急用ができました。ここを攻略したら………ちょっと、離します」
「お、おう……」
サイガ-0に強化支援を行っていたプレイヤーはのちに語った。
───呂布ってああいうじだったんだろうな。
・ニーネスヒル
王都。今回の王國騒においては新王陣営の旗頭である新王アレックスがいるのはサーティードであるため、最優先で守るべき本陣ではない………が、「王都なんだから重要拠點だろう」と勘違いしているプレイヤーは両陣営ともに案外多い。
あるいは、王都が攻められているという事実に浮足立つのはプレイヤーだけではないのかも?
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何よりも本を愛する明渓は、後宮で侍女をしていた叔母から、後宮には珍しく本がずらりと並ぶ蔵書宮があると聞く。そして、本を読む為だけに後宮入りを決意する。 しかし、事件に巻きこまれ、好奇心に負け、どんどん本を読む時間は減っていく。 さらに、小柄な醫官見習いの僑月に興味をもたれたり、剣術にも長けている事が皇族の目に留まり、東宮やその弟も何かと関わってくる始末。 持ち前の博識を駆使して、後宮生活を満喫しているだけなのに、何故か理想としていた日々からは遠ざかるばかり。 皇族との三角関係と、様々な謎に、振り回されたり、振り回したりしながら、明渓が望む本に囲まれた生活はやってくるのか。 R15は念のためです。 3/4他複數日、日間推理ランキングで一位になりました!ありがとうございます。 誤字報告ありがとうございます。第10回ネット小説大賞ニ次選考通過しました!
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