《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月20日:この道を通る者は一切の持ちを捨てよ

書き下ろしで一人稱視點は書いてるのでそんなに久しぶりではないけど久しぶりの視點

今になって……凄く………嫌になってきた。

戦場の風というやつは、やけに溫(ぬる)いものなんだなぁ……なんてしょうもないことを考えながら、俺は溜息をついた。

とはいえ自分一人で済む話なら持病のフレが危(いくらでもい)篤でログアウトな(いわけがきく)んだが、人を巻き込んでいる以上は逃げるわけにもいかない。というか逃げたとして後が怖い。

「はぁー…………」

「マリッジブルー?」

「失死させ(あおざめたかおにして)やろうか?」

「腐らない虛構(ゲーム)のからを抜いて意味があるのかなぁ?」

「映(バ)える」

何故かにぃい、と深い深い笑みを浮かべてるんだが……本當こいつのことはよくわからんぜ。

ああもう、踏ん切り付けて覚悟を決めよう。現場まで來たんだ、ここで逃げたら何より俺自恨になる。

「さて……」

もう二度と使うまい、と誓っていたんだが……忌まわしき「Sun Luck Channel」と紐づけられた別天津の隕鉄鏡を裝備。マニュアル作でかせる事を確認したのち、改めて今いる場所……奧古來魂の渓谷のど真ん中で辺りを見渡す。

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現在、王國騒イベント最終日……ここにきてプレイヤーの結束は両陣営共にほぼ崩壊したと言っていい。なにせどちらの陣営も"王"が健在となればあとは陣取りゲームでどちらが有利を取れるか、という話になっているからだ。あるいは千人の暗殺者がバラバラに、しかし一斉に王の首を狙いに行けば一人くらいはその首に刃が屆くかもしれない。

要するに混戦だ、大を付けて大混戦と言っていい。

風の噂では? レイドキラーなるレイドモンスター殺しに特化したやつが今回のイベントで出現した焠がる大赤翅と嬲る縁大緑の両方を討伐しようと暴れ回ってるだとか、なんか尋常じゃなく強い騎士が化けみたいな馬に乗って呂布じみた暴れっぷりを見せているだとか、新王陣営の配信者プレイヤーがダイレクトマーケティングされながら殺されただとか……眉唾ものな話からなんか心當たりのある話まで、々と耳にしているが………まぁ、それだけペンシルゴンのやつがやらかしまくってる、ということだろう。

ウソとホントがごちゃまぜになった報の錯綜は奴の十八番だしな。

そんなわけで、ここ「奧古來魂の渓谷」もまた最終日ということでプレイヤーでごった返している……というか割と最前線だ。

なにせ他のエリアと比較しても「一本道」かつ「ルートが極端に絞られる」という決戦用フィールドみたいな場所なのだ。隠するのは現実的ではないが、同時に隠される可能も低い。これが勢力vs勢力であればあえて危険な"上"を突破して裏をかかれる可能もあったが、最終日の混戦はもはやお前が味方でお前は敵、くらいの區別しかつかない。極論、後ろで百人不意打ちで死んでも自分一人が突破できればそれでいい、と……そんな狀況だ。

「ディプスロ、イムロン……始めよう」

「おうよ」

「はぁい」

ので、発想にひとひねりれるわけだ。

百人倒したって百五十人に無視されたら意味がない、なら……百人を倒す姿で百五十人を止める。あるいはその報でさらに人を集める。

誠に憾ながら、それを可能にする方法があるんだよなぁ。

「……【泡沫の城壁《インスタント・キャッスル》】」

ディプスロが発した二枚の(・・・)巨大土壁が奧古來魂の渓谷の一本道を三つに分ける。

既に銃弾やら魔法やらが飛びっていた戦場において、しかし前に進みながら迫(せ)り上がるという本人曰く「劣勢を無理やり押し返す用の魔法」が敵だけではなく味方をも押し返して戦場に空白を生み出す。

とはいえ、それ程の優位(アドバンテージ)を生み出す魔法には當然デメリットがある。的にいうと五秒で損傷関係なく崩壊する、というデメリットだ。本當はもっと発できるはずなのだが、一度に”二回分”発するために々削った結果、五秒しか維持できないんだとか……まぁ五秒あれば準備は終わる。インベントリアをちゃちゃっと作するだけだしな。

土壁の向こうで、何事かと騒ぐ聲が聞こえてくる。崩壊する土壁は下に崩れ落ちていくわけだが……まぁなんだ、幕は上がる、と。

別天津の隕鉄鏡がこの世界(ゲーム)の外側にある畫配信サイトと接続され、リアルタイムで今起きていることを電脳の海に流し出す。

「───まぁ、なんだ。やれと言われ、逃げ場も無い。ので、二度と使わないと思っていたけど、もう一度配信やらせてもらいます」

土壁が崩れ、隔てられたプレイヤー達はまずそれ(・・)を見ることになる。この世界最初の征海船、あるいは神代を纏う現代の船、そして……実はまだ一度も航海した事がないブリュバス……フルネームなんだっけ、ブリュッセル・バスターソード? ペンシルゴン由來だった気がするから後で聞こう。

「一応前王陣営として參加していて……まぁ最終日まで普通に別のことしてたんだけど、そのせいで「せめて最終日くらい働け」とどやされまして……足止め(・・・)しろ、と」

改造(・・)によって最初の形狀から隨分と変わり果てた姿にこそなっているが、見るものの目を惹き、足を止めさせる役割を果たすには十分すぎる。

橫っ腹を見せる形で渓谷のど真ん中に出現したクルーザーサイズの征海船に、プレイヤーの視線が集まり……そして、その上に立つ俺に自然と視線が集まっていく。青聖杯も使っているからな、集客力は上々だろう。

「とはいえ見境なしに辻斬りしても全員を足止めできるとは思えないし、じゃあ逆の発想で行ってみようと」

どこぞの橋に立って刀を千本カツアゲした武蔵坊弁慶の話を聞いて思うが、普通カツアゲに遭ったら逃げるだろう。いや當時の刀持っている武士が好戦的だったのかもしれないが、それでも九百九十九本も集める中で一騎打ち(カツアゲ)に消極的な奴もいると思うんだよな。

それでも九百九十九人もカツアゲに付き合っている辺り、単純な闘爭心以上に「勝ったら弁慶が持ってる武総取り」みたいな下心があって然るべきだろう。

「俺の力が盡きるか負けるまで、無限組手(景品付き)(カッコケイヒンツキ)やります。この配信見てログインした人もぜひぜひ振るってご參加ください……全員ぶちのめします」

新王陣営視點:土壁が崩れたと思ったらなんかゴテゴテした船の船首に立つ半がなんか無限組手宣言してる

前王陣営視點:でっけぇ船のケツ

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