《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-52:パーティ・メンバー
霜の宮殿の大雪原で、冒険者達と魔の軍勢はぶつかり合っていた。
怒聲と唸りが響き渡り、凍てついた空気がかすかな熱を帯びる。
ちらつき始めた雪。
フェリクスは杖を握りしめ、呼吸を整える。息は白くなってたなびいた。
軍勢同士の決戦から距離を隔てて、フェリクスは巨大な狼と向かい合っている。仲間は、戦士団の3人のみ。
赤々とした眼球がフェリクスらを見下ろしている。
魔法使いは、ひょうひょうと口を開いた。
「縁がありますね?」
大狼は目を細めた。
「くく。確かに、そうです」
フェリクスらの役割は、魔の主力を引きつけること。
50メートルほど離れた位置で、冒険者の陣形と魔の軍勢がぶつかり合っている。陣形同士のぶつかり合いで、この神話時代の怪に奇襲を許せば一瞬で瓦解しかねない。
だから魔法使いは、まずは言葉で注意を引く。
そうした搦め手を使えるところが、魔神ロキの魔力を授けられた原因かもしれない。
冷たい空気を震わせ、大狼が告げた。
「あなた方は、私の仲間、狼骨ハティを倒した」
フェリクスは微笑を絶やさない。慇懃に腰を折った。
「恐れながら、神話の怪よ。私は、あなたに他のことでも縁をじていました」
それというのも、とフェリクスは続けた。
「あなたが以前に言った『群れ』という例え、あれが私には耳が痛かった。群れ以外のことはどうでもいい、そんな考えが、かつての私のようで――」
フェリクスはの戦士団だったが、出は貴族。そのため、最初は冒険者という存在自をいけすかなく思っていた。
リオンの父、冒険者ルトガーに會ってからはそんな偏見もなくなったが、それでも荒々しい典型的な冒険者は苦手である。
例えば――赤髪の斧使いのような。
「自分達を高く置いて、他の者を低く見る。神々もかつてそんな面があったと聞きますが、貴族も、戦士団も、何より私がそうでした」
他を滅ぼそうとする魔を笑えない。
「ですが、旅をして、戦士団も変わりました。特に――冒険者に対してね」
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リオンやミアとの旅が、戦士団を大きく変えたように思う。
大狼フェンリルはを鳴らした。
「なるほど。意外と傷的ですね」
フェンリルの青白いが、冷たい風になびいた。
凍てつく空気を叩きつけられ、フェリクスらは顔を庇う。
「私の魔力は、空気を凍てつかせ、力を奪う」
大狼は剣のような牙を見せて笑う。
「會話で時間稼ぎのつもりでしたか?」
見る間にに霜がおり、活力を奪われる。吸い込んだ空気に、肺が凍りそうだ。
「フェリクス殿!」
狼狽する戦士団に、フェリクスは言った。
「問題ありません。我々は、すでに備えている」
フェリクスらは、懐にアイテムを隠していた。魔神ロキの力でそれは熱を持ち、冷えるを溫める。
杖を握り直し、フェリクスは顔についた氷の粒を払った。
「対策済みです」
戦士団の一人が弱気に言い募る。
「しかし、尋常の寒さでは……」
確かに、それでも異様なほど寒い。早く大狼を倒さねば、ただでは済むまい。
「別の作戦もあります」
くすっと笑って、フェリクスは言った。
「我慢です」
3人の部下はあんぐり口を開けていた。
「が、が、我慢……?」
「冒険者式ですね? 後は、冒険者の陣か、ミアさんが戦況を変えてくれるのを信じて待ちましょう」
フェリクスは微笑んで、仲間と、大狼を見返す。
地面に杖をついた。
「では、始めましょう!」
冒険者を、ミアを、信じて託す。
凍てつく空気の中、フェリクスの笑いはからりと爽やかだった。
◆
ミアは額を拭った。
べったりと腕にが付く。
「……ちっ」
數十メートルにおよぶ巨大な蛇が、雪原をうねりながら高速で移する。ミアと3人の戦士団は、大蛇を追って駆けていた。
戦士団がぶ。
「ミア殿!」
鎖斧を巻き取りながら前へ転がる。巨人兵の斧が、唸りをあげて背中をかすめていった。
「くそっ……!」
敵の數が多い。その中で大――世界蛇(ヨルムンガンド)を引き付けるのは、ミアをしても相當の難事だ。
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――どうしたの、斧使い?
ミアをあざ笑うように、世界蛇の聲が空に響く。
もう一の大フェンリルは、魔法使いフェリクスが引きけてくれている。それでもこの有様だ。
雪原に満ちているゴブリン、オーク、巨人兵。それぞれは大した敵ではないが、切り倒しても切り倒しても、終わりが見えない。
戦士団が聲を張った。
「ミア殿! 一度、陣に戻りますか!?」
「それじゃダメだ! この蛇を好きにさせたら、陣が囲まれちまうっ」
戦いは2つの面に分かれていた。
目的地となる神殿へと通じる大階段、そこから左側で冒険者の方陣と、魔の軍勢が圧しあっている。數は冒険者が100人、魔達はその3倍ほどだろう。
ミア達はそんな陣から50メートルほど離れ、『遊撃擔當』を擔っていた。
個の力は冒険者が勝っている。そのため數に勝る魔に包囲を許していない。が、もしミアが押さえている大蛇か、フェリクスの相手である大狼が方陣に向かえば、隊形をされ包囲されるだろう。
「方陣の連中はよく耐えてる。フェリクスもだ! なら、あたしらも……!」
ミアは言葉を切る。
大蛇がをくねらせて空高くびあがった。
「退くわけには、って……!」
さぁ、との気が引く。
闇の大蛇が一直線に、ミア達の方へ向けて特攻してきた。
「散開だ!」
反でぶ。
力の限り橫に転がり、すんでのところで回避。轟音をたてながら、敵は巨をみるみるに雪の中へ潛り込まる。あっという間に消えた。
「潛りやがった……!」
立ち上がりながら舌打ちする。
神出鬼沒のこの攻撃で、すでにミア達は幾度も危うい目に遭っていた。時折、大蛇の狙いは方陣へも移り、冒険者が何人も戦闘不能になっている。
苦戦に、焦った。
「……リオン」
ちらり、と大階段を見やる。
さっきから震えが止まらないのは、階段上の神殿から、とてつもない気配をじるせいだ。リオンが何と戦っているのか――どれほど恐ろしい存在と対峙しているのか、嫌でもわかる。
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早く行ってやりたい。
年とパーティの握手をしたのは、ミアにとってつい昨日のことのようだ。
「こんなところじゃ、止まれねぇ……!」
地面から伝わる音と衝撃にさらに神経を集中させる。
微震が近づいた。
「ミア、左だぁあ!」
5メートルほど離れた、戦士団の男。その足元で雪がぜた。二頭の外套姿が、10メートル近く跳ね上げられる。
「くそっ!」
世界蛇(ヨルムンガンド)はすぐに旋回。ミアを見つけ、金の目を細めて笑った。
長い舌が暗い空をなめている。
――さぁ、どうする?
のたうつ巨。余波でさらに一人が吹き飛ばされ、雪煙が舞った。
大蛇は大きくアーチを描き、ミアに迫る。
「なめんな……!」
橫に跳んで回避。斧貓と呼ばれた軽さは、ミアの武だ。
じゃらりと鎖を摑み直して、右腕で思い切り投擲する。
緋の斧が闇のウロコに刺さった。
「不!」
スキル<斧士>の技。
世界蛇(ヨルムンガンド)のが地面に叩きつけられる。
――なに……!
まるで巨大な掌で、全長數10メートルに及ぶ大蛇を押しつぶしたかのようだった。
彼方で轟音が鳴る。フェリクスらもまた激戦であり、今もまた降り注ぐ氷柱をやり過ごしたらしい。
「ミア!」
フェリクスが聲を張ってくる。
ミアは笑った。
「こっちは、心配いらないよ!」
その言葉を証明せんとばかりに、ミアは足に力をこめた。
「おおっ!」
鎖を引いて、のたうつ大蛇の勢いを跳躍に利用する。腕利き冒険者の腳力も相まって、ミアは一気に10メートル近くも跳びあがった。
一瞬の浮遊。
大蛇がむしろ小さく見える。金の目がくわっと開いて、ミアを捕えた。
に赤いが宿った気がする。頭に響くのは、トール神の大笑だ。
――やるじゃねぇか!
――さぁ、どうする!?
にっと笑って斧を思い切り振りかぶった。
「力、借りるぜ、神様!」
やっちまえ、と雷神の掌が背中を叩いてくれた気がした。
鎖を引く。さらに加速しながら、ミアはんだ。
「雷神の鎚……!」
リオンの見様見真似の一撃は、雷神の魔力と合わさって、それそのものに機能した。
雷が大蛇を駆け巡る。
――ぐ、おおっ!
のたうつ巨の上に乗り、ミアは聲をあげた。
「神様がいない人間なんて、楽勝だと思ったか!?」
思い切り口角をあげてやる。親指でを示した。
「殘念だったな、あたしらは、まだ『ここ』で神様と繋がってる。それに――」
リオンの顔がを過ぎった。
「あたしらだって、神様に負けちゃいない」
ミアは聲を張り上げた。大蛇の上に屹立して、苦戦する方陣に向けてぶ。
「こんな連中に負けやるわけにはいかないだろ!? あたしらだって、英雄だ! 別に神様に頼まれたから英雄を目指してるわけじゃねぇ!」
聲は雪原に響いて、消えていく。
「冒険するから、英雄なんだ!」
巨大な魔も、世界の危機も、冒険者にとって営みにすぎない。険を冒す生き方に憧れてきたのだ。
「なってやろうぜ、英雄に!」
魔達に圧されていた方陣に、きが戻った。
鼓舞された前衛が踏ん張りだす。後退が止まり、方陣が進み始めた。前へ、前へと。
「――ん?」
大蛇の上という高所から、ミアは雪原を見渡せた。
冒険者の四角い陣形を、魔達が包み込もうとしている。しかし、方陣の移によって魔の戦列は長くびていた。
敵は、王都の時のように圧倒的な大勢ではない。無理に戦線をばせば――必ず薄い部分ができる。
大蛇が力を取り戻し、をゆすりだす。
ミアは目を見開いた。
「ロイドぉ! お前の正面だ、そこが、敵の層が薄い!」
肺から聲を押し放つ。
「進めぇ!」
冒険者らので、赤や青など、々とりどりのが強まった。
「前衛は壁に集中だ!」
「多陣形がれてもいい!」
「手近なやつとパーティーを組め!」
100名の鋭冒険者が、連攜を再開させる。薄い層に向けて、冒険者石鎚のロイドを中心とする一群が突撃した。
敵陣が、破れる。
冒険者は數名単位に――パーティーに分かれて戦い始めていた。
ミアは笑む。
「……へっ。やるじゃん」
世界蛇(ヨルムンガンド)がをたわめる。
――うるさいやつだ!
大蛇がを跳ね上げ、再び地中に潛る。ミアは跳ね飛ばされ、雪原に転がった。
を起こすと、眼前で巨人兵が斧を振り上げている。
「やべ……!」
巨人兵を炎の槍が貫いた。フェリクスだ。40メートルほど離れた位置から、杖の先をミアの方へ向けている。
距離は40メートル以上。魔法としてはかなり正確な狙撃だ。
雪原に喚聲が満ちる。
方陣が勢いを取り戻し、戦局全がいていた。大狼フェンリルが方陣へ走り出すのを、フェリクスらが火炎魔法で阻む。方陣は形をしつつも、魔達を駆逐し撃侵した。
「蛇は地中だ!」
「方陣に進んでるぞぉぉおお!」
冒険者、その<盜賊>や<野伏>といったスキル持ちには、狩神ウルが力を授けていた。彼らは持ち前の探知能力で、ミアや仲間に世界蛇(ヨルムンガンド)の出方を教える。
「回復はこっちだ!」
薬神シグリスの力をけた者は、治癒の能力を高め、
「火線(バル)!」
魔神ロキの力をけた者は、魔法の威力を高めている。
方陣の最前列に壁役の前衛を置き、そこはトールやヘイムダルといった武神の魔力をけた冒険者があたっていた。
――ただの、人間のくせに!
世界蛇(ヨルムンガンド)が方陣を食い破るように、その中心部に出現した。だがすでに読んでいた冒険者らは、直撃される人數をゼロにしていた。
むしろ大蛇に魔法や弓が打ち込まれる。
空に橋を渡すように、世界蛇(ヨルムンガンド)が陣形から逃れた。
ミアは、大蛇のきに狙いを定める。
「そこだな!」
鎖斧を投じる。
魔力がこめられた斧は、世界蛇(ヨルムンガンド)の腹に重たい一撃を叩きつけた。
「重撃」
雷神の力と、スキル<斧士>の力が重なりあう。
世界蛇(ヨルムンガンド)は大きくのたうち、魔を巻き込みながら、大階段の方へ退卻した。雪煙がもうもうと立ち込める。
「う……」
魔力を使いすぎたせいか、目が霞む。神様の力というのは反も凄まじいらしい。
空気に毒を吐くという大蛇の特は、一ヵ所に留まらないことと、神々の魔力のおかけで、影響を押さえられているようだが。
よろめいたミアを、誰かが支える。
「やりますね、ミア」
フェリクスだった。全に氷をつけて、大狼の凍てつく魔力の凄まじさを語っていた。
「あんたこそ、平気かよ」
「ええ」
顔についた霜をぬぐって、フェリクスは細目で笑う。
「期待通りです、ミア」
「は?」
「いえいえ、こっちの話ですよ」
後で絶対に聞き出そうとミアは決めた。
いつの間にか、フェンリルは方陣をぐるりと迂回して、その背面に回っていた。フェリクスは、距離をとった大狼をミアや方陣と迎え撃つために、合流してきたのだろう。
――ウオオォォオオオオン!
フェンリルが遠吠えを放ち、狼を集めていた。
「どうやら、連攜はこちらが上のようです」
フェリクスが、運搬係(サポーター)から何かをけ取った。輝くクリスタル。ミアは見覚えがあった。
「霊石……?」
霊を側に納めた、古代だ。
フェンリルから氷柱が降ってくる。陣形をしてから、大狼は仲間の狼と共に、氷風をまとって突進してきた。
フェリクスが小さく唱える。
「霊よ」
石から緑、青、そして赤のが飛び出す。
ミアは目を見張った。
「霊……?」
「『封印解除』がないため、私には一度きりの使用です。が、ロキ神の力――リオンさんにあったような、霊を昂らせる力があれば……!」
3つのは、大狼フェンリルの周りに水撃を、炎撃を、風撃を叩きつける。小型の狼は瞬く間に灰にされ、炎がフェンリルの突進も阻んだ。
大狼はぎりと歯をむき出しにして吠える。眉間からを流しながら、陣形を飛び越え、大階段の方へ駆けた。
「大狼は、冷気を発する魔法を使う。我々は、炎の霊石を懐にれることで耐えていたのですよ」
ミアは笑った。
「……へっ! やっぱり、あんたと一緒の方がしっくりくるね」
「それはどうも」
方陣の守りは萬全。追撃すれば、勝機が深まる。
加速するミア達だったが、不気味な唸り聲が耳をなでた。
フェンリルと世界蛇(ヨルムンガンド)の目が、赤黒くりだす。
――ユミール様、どうか心臓をぉ……!
――手に、れてくださいませ……!
世界蛇(ヨルムンガンド)のり聲が黎明の空に響く。
大蛇のは徐々に大きさを増した。隣ではフェンリルが同様に唸りながら、周囲に雪風を巻き起こしていく。
ミアは足を止め、囁いた。
「……ハティのやつと同じか?」
王都の戦いを思い出す。
創造主ユミールに命じられるまま、灰になったで立ち上がった魔――狼骨ハティに近い威圧を覚えた。
フェリクスは首を振る。
「ユミールのびは聞こえていません。強引に魔力を使わされているというよりは、自分の意思で、最後の力を絞ろうとしている」
大蛇の全が震える。軋むような音をたてながら、蛇の全は見上げるほどに大きくなった。
大きくもたげた頭は、100メートルもの高さがあるかもしれない。とぐろを巻いたら、砦さえその側に包み込んでしまうだろう。
――世界蛇(ヨルムンガンド)を見るがいい!
魔力に応じて、世界蛇はでかくなる。
世界蛇が、揺らいだ。ミアは自分がよろめいているのだと気づいた。
視界を塞ぐほど、目の前の魔は大きい。
まるで神話の世界だ。一方、ミア達は――ただの人間。
顔が青くなる。
「た、倒れて來るぞぉぉおおお!」
ミアの絶で、冒険者達が全員、弾かれたように退避行をとっていた。
「下がれ下がれぇぇええ!」
「橫に跳べぇぇ!」
「魔法じゃ無理だ!」
「走れぇぇえええ!」
ミアもフェリクスも、夢中で雪原を駆ける。妨害にく魔は、斧や杖で押しやった。
背後で、轟音。
凄まじい量の雪が巻き上げられ、視界全が白くなる。ミアとフェリクスは雪と風圧に押し流されて、數十メートルも吹き飛ばされた。
はっ、と獣の息遣い。
「っ」
ミアとフェリクスは、そろって左へ向かって飛んだ。
大狼フェンリルの顎が、がちんと噛み合わされる。雪で煙る視界に、フェンリルの真っ赤な目が浮かび上がった。
目や口からだらだらとを流しながらも、大狼は戦意を萎えさせていない。
「フェリクス……」
「ミア、あなたは後ろに」
「へ、魔法使いが何を言ってるんだい」
「後ろに」
フェリクスは杖をついて前に出る。
魔力の使い過ぎか、ミアはなかなか起き上がれない。斧を杖にして半立ちになるのがせいぜいだ。
唸ってしまう。
「あんたら、どうして、そこまで……!」
目がちかちかする。追い詰めたと思ったが、一瞬でひっくり返された。
弱っているくせに。
これが――神と互角にやりあった魔なのだろう。
巨人兵やオークが迫ってくる。
「ミア!」
「うるせぇ! パーティーだろ、あんたがやるなら、あたしもだ」
そこに、方陣の冒険者らが追いついた。
「いけぇえええ!」
「あんたら、英雄になってくれ!」
「世界蛇(ヨルムンガンド)を倒すんだ!」
冒険者達の聲が背中を押した。見ると、地に伏した世界蛇(ヨルムンガンド)はけていない。
やはり傷は深かったのだ。
ミアは息を吐いて、腰を落としたフェリクスへ手を貸してやった。
「いこうぜ」
「ええ」
フェリクスと支え合って立ち上がる。
「あと一回、走れるか?」
「そうしなければ、今は」
パーティーは駆けだした。
フェリクスが魔法で、大蛇を守る陣形をこじ開ける。
ミアは鎖斧を世界蛇(ヨルムンガンド)にひっかけ、強引に闇の大蛇によじ登った。
地上を振り返る。
フェリクスは、反転、大狼と魔法を打ち合った。運搬係(サポーター)が投する霊石さえ注ぎ込んだ猛攻は、次第に大狼を圧倒しだす。
ミアは白い息を吐いた。
山の稜線を進むように、大蛇の頭に向かって歩く。
100メートルほどの大きさになった大蛇は、どうしてか、先ほどよりもずっと脅威をじない。冒険者としての冷靜な部分が告げている。
――この魔は、じきに、死ぬ。
ミアの手に、雷撃が弾けた。
天界から聲が聞こえた気がする。
――任せるぜ。
雷神は、いや、神々は人間に戦いを託した。だから、魔の終わり見屆けることさえも、ミアの役割だった。
大蛇の額に立る。
金の目は、虛ろにミアを見上げていた。
斧を振り上げる。
「じゃあな、神話の怪!」
ミアは、雷をまとう斧を世界蛇(ヨルムンガンド)の眉間に振り下ろす。
「あたしは、リオンじゃない。共はできねぇ。だが――覚えておくよ!」
ミアの世界蛇(ヨルムンガンド)への致命打。
眼下で魔法が弾け、大狼フェンリルの青白いがフェリクスらの炎撃に飲み込まれる。
黎明の空に、2のびが響き渡った。
轟音を立てながら、世界蛇はをよじる。
「うおっ!」
數十メートルの高さに放り投げられたミア。大蛇は、尾の先から真っ黒い灰になって消えていく。金の目は見る間にを失っていった。
「――じゃあな」
フェリクスが浮遊魔法で、ミアが雪原に叩きつけられるのを防いでくれた。
◆
フェリクスは、倒れた大狼を睨み上げる。
ちりちり、と巨が灰に変わる音が聞こえていた。
赤く燃えていた眼球はいつの間にか鎮まり、今は、靜かな口調で語り掛けてくる。大きな口が開閉し、フェンリルは最後の言葉を殘した。
「――まさか、神でなく、人間に、ここまで……」
フェリクスは杖をついた。戦士団のマントはちぎれて、杖も全も傷だらけ。
意地なのか、ひょうひょうと肩をすくめた。
「あなたの言葉を借りるなら、神も、人も、小人も、彼のおかげで1つの群れになったのです」
大狼は嘆息する。
「……角笛の年か……」
霊の魔法と、フェリクス自の魔法、そして冒険者による無數の矢と投げ槍。全てをけて、神話の大狼もまた命を失った。
閉じられた赤の目。
鼻の先からも灰になり始め、黒い灰が辺りに舞う。
じゃらりと鎖の音がして、フェリクスは振り返った。
大蛇から無事に降りたミアが、歩いてくる。
「……終わったな」
「ええ」
「こいつら、どうしたって、あんな――ユミールみたいな怪に従うんだろうね」
「そう創られた、という言い方もできるかもしれませんが」
答えながら、フェリクスはふとラタのことを思い出す。
魔でありながら、ユミールに対し反抗していた。
忠誠心が魔によって差があるとすれば、やはり本人にしかわからない意思があったのかもしれない。
創られ方がどうあれ、その後の気持ちは、生き方次第。
傲慢かもしれませんが――そう前置きして、フェリクスは言った。
「神話の名に相応しい、おそろしい魔であり、よい部下でもありました。彼らを、主のユミールはどう考えていたのか……」
フェリクスは、ミアと共に大階段をみあげる。高くそびえる神殿が、強くなり始めた雪煙にかすんでいた。
「行きましょう」
進もうとした時、強い風が吹きつけた。
雪の中に大量の黒灰が混じる。
「……おい」
ミアに呼び止められて、フェリクスは背後を向いた。
息をのむ。
「これは――」
大狼フェンリルと、世界蛇ヨルムンガンド。
強大な魔が倒れていた場所には、夜を押し固めたような闇の魔石がされていた。大きさは、1人では抱えきれないほど。
2の灰は凍てつく風に巻き上げられて、薄暗い空に溶けていく。
ミアが聲を震わせた。
「伝説の魔の、魔石か……!」
どれほどの力がめられているのか、想像もできない。
――オオオオオォォォオオオ!
神殿から巨大な吠え聲が響いてくる。落雷に似た音が轟き、びりびりと大階段が振した。連鎖するように崩壊音が聞こえてくる。
冒険者らが駆け寄ってきた。
「あんたたちは、先に階段を上ってくれ!」
「雪原の殘黨は任せろぉ!」
冒険者達に手を挙げ、ミアとフェリクスは神殿へ向かって駆け上った。
リオンが、そこで戦っている。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月12日(土)の予定です。
(1日、間が空きます)
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