《悪魔の証明 R2》第73話 049 ミリア・リットナー(1)

「ふーん、ルールねえ」

レイが珍しく興味深げに聲をらした。

ミハイルが興冷めやらぬじで、自に起こった事の顛末を語り終えた後のことだった。

「へー、ミハイル。危なかったんだね」

私も素直な想を述べた。

舊市街にある賃貸マンション。現在そのマンション最上階にあるレイの部屋のリビングルームで、私はレイたちと共に中央に置かれている楕円形のテーブルを囲んでいる。

先程まではアリスがこの場にいた。

にとって興味のない話が続いたせいか、結局一言も発しないまま寢室へとっていった。

レイはそうとは言わないが、この分だと普段の生活からしてほとんど口をきいていないはずだ。

「あの子、アリスだっけ?」

ミハイルは名前を確認してくると、寢室の方へと顔をやった。

「うん、そう。アリス・ウエハラ」

レイが答えると思えなかったので、私が代わりに答えた。

「この家に住むことになったのは良いとして、彼は大丈夫なのか? 世間の目に曬されなければ良いけど」

Advertisement

ミハイルは彼を引き取った理由を今聞いたばかりだ。アリスが敗北した後のことが気にしなったのだろう。

「アリスの顔や経歴は、第六研のサイトに載せていないわ。スマイルチャンネルや他畫サイトに投稿されたサイキック・チャレンジの映像も、ジョン・スミスが畫サイト側との渉に功したから、すべて削除されたはずよ」

レイが要約してミハイルに伝える。

結局のところ、アリスが詐欺師であったという事実は、レイの処置によってサイキック・チャレンジ生放送の視聴者や私たちの記憶の中に殘るのみとなった。

もちろん、誰かしらのパソコンなりタブレットなりのストレージに畫データは殘っているだろうが、アリスは大人びて見えても実際の年齢は低い。

年を重ねれば顔だって変わるし、今後の彼の人生に影響を及ぼす可能はほぼないだろう。

だが、これは大人である私の意見で、子供の彼にとってはそうではない。

自分の経歴に傷はつくことはないと理解しているのだろうが、神にけたショックはやはり大きいはずだ。

今後レイは彼とどう向き合うつもりなのだろうか。レイの格では上手く対応できるとはとても思えない。であるとすると、私がやるしかないがその自信はまったくなかった。

「何だ、ミリア。アリスのことを心配しているのか? 僕に任せておけば大丈夫さ。どんと來い、超常現象ってやつだよ」

ミハイルはニコリと屈託のない笑顔を浮かべながら言う。

全員があなたみたいに単純じゃないのよ。

そうでぼやいてから、深く吐息ををついた。

気を取り直してから、視線を前へと戻す。

當然、正面にいるミハイルが目にった。

いつもと同じく元気そうで、今も何やらレイに話しかけている。

「それにしても、たった二日前車で轢かれたのにもかかわらずここで平然と話ができるなんて、あなたのはいったいどのような構造でできているのかしら」

レイがそう訝りながら、目を細めた。

もちろん、私も同じような疑問を先ほどからに抱いている。

「そう危なくはなかったよ、レイ。父さんとトゥルーマンとは話をしただけだから。車に轢かれたときは、さすがにの危険をじたけどね、ハハハ」

と言って、ミハイルはきらりとした歯を見せて笑う。

この人は本當に馬鹿ではないかと私は訝った。

クレアスも同じような態度を示す時はあるが、ミハイルの場合は純真というか単純さが前面に押し出されている気がする。いや、単純というより、単細胞と言いかえてもそこは良いかもしれない。

私にそう思われたからというわけではないだろうが、一通り笑い終えた後ミハイルが急に真剣な顔をする。

「でも、驚いたよ。ARKが存在しないなんてね。まさかトゥルーマンがこんな事実を隠しているなんて、想像もしていなかった」

と、元々していた話題へと話を戻した。

「ARKが実在しない組織であるということなんてとうの昔からわかっていたわ。知らなかったの?」

レイが薄いを開いて尋ねる。

「レイ。き、君は知っていたのかい?」

ミハイルは揺したような聲で訊き返した。

「知っていたというのは、語弊があるわね」

と、レイ自ら否定する。

「語弊?」

「そうね……想像がついていた、といった方がより現実に即しているわ。ずいぶんと長い間全世界の政府が、ARKの撲滅にを乗り出しているのに、彼らによるテロが一向に止む気配はない。これは姿のない亡霊を殺そうとしているのと同じ。すなわち、存在しない概念を破壊しようとしているということに他ならない」

マグカップに手をやりながら、レイはその理由を説明する。

「なるほど、そういうことか。大統領が會見で宣言したテロとの戦爭。実態が摑めない以上、その戦爭にもならないってことだな。この僕がそれに気づかないとは、思っても見なかったよ」

真夏の太を思わせるような快活な聲で、ミハイルはそう言葉を返した。

「まあ、第六研のメンバーであれば、誰だって知っているけれどね。ひとり怪しいのはいるけど」

レイがさりげなく嫌味を言う。

だが、屈託のないミハイルの態度に、先程まで鋭かった彼の目はやんわりと緩んだ。

まだ付き合ってないみたいだけれど、関係は上手くいっているみたいね。

ふたりの様子をうかがった私は、何気なくそう思った。

      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください