《悪魔の証明 R2》第74話 051 シロウ・ハイバラ(1)

新市街中央區にあるトゥルーマン教団の本拠地、トゥルーマン寺院――

紅葉を迎えた木々に囲まれた幾人ものトゥルーマン教団信者を出迎える真っ赤に染め上げられた鳥居。そこから中をのぞくと、広い庭園に所狹しと敷き詰められた小さな砂利が視界にる。さらにその奧へと目をやると、伝統的かつ壯大な本殿がどっしりとそのを落ち著けている様子がうかがえる。

その本殿は床板の通路で區切られており、多くの部屋がその中には配置されている。

整然と並べられた金箔塗りの柱は高い天井を貫き、その通路を闊歩する人間の心を奪いそうな程きらびやかな輝きを放つ。外に面した宮臺で宗教行事が多く行われることもあり、かぐわしいお香の臭いがその寺院の周囲を包んでいる。

このように本殿は宗教団の本拠地らしく、科學などと無縁な広々とした悠久の雰囲気を演出することに功していた。

だが、地下に降りてみるとその趣はがらりと変わる。

エレベーターに乗ると到著する地下三階。無機質なグレーの壁に沿って、明な自ドアが薄暗い照明の通路にいくつも並べられていた。

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それぞれのドアの向こう側には、無數のPCタワーの數々。カリカリという小さな音が各部屋からは聞こえてくる。このような近代的なものが寺院の地下で蠢いているとは、誰も想像し得ないだろう。

そして、その複數ある部屋ののひとつに俺はいた。

先刻から幾臺もの大型のサーバーコンピューターが、作業を行う俺を見つめている。

そのような機械群に視線を送られたところで、俺の神に何ら影響はない――つまり焦りをじるというようなことはない。

もちろん誰もいないので邪魔がることもなく、せっせと手をかし俺は自分の作業に沒頭した。

そんな折、耳に裝著していた小型のインカムから、

「シロウ、もうしで終わりだよ」

と、若干甲高い聲がれてきた。

「ああ、後これだけだったよな」

手順を思い返して、そう言葉を返した。

「違うね。後、三臺無線子機をサーバーに取り付けて」

ジョン・スミスがすぐに否定する。

舌打ちしそうになるのを堪えて、俺は作業へと戻った。

「それが終わったら、バックアップサーバーを含めたすべてのパソコンが僕の端末に繋がる。これでデータベースを完全にハックできるよ。ああ、呑気な君のために念のため言っておくけど、早くしてね」

余計な一言をまじえ、その聲は俺の作業を急かしてくる。

ポテチップスを食べる音も同時にってきて、それがまた俺の神経を刺激する。

ジョン・スミス、人事だと思いやがって。

腹立たしさを和らげようと、鼻息を強くらした。

その俺を馬鹿にするかのように、ぽりぽりとポテトチップスを食べる音がまたインカムからってきた。

その音がさらに俺の不快を増させた。

次に、

「ジョン・スミス。監視カメラはハックしているのよね」

と、レイの聲がインカムから聞こえてきた。

「大丈夫だよ。先生。監視カメラはすべて僕の範疇にある。シロウがってくる前の映像を何度も再生してるから、監視ルームにいる人間は映像の変化に気づかない」

いつの間にそんな仕掛けをしたのかは知らないが、ジョン・スミスは即答する。

玉蔥太っちょとはいえ、プログラム技は確かだ。そんなことくらい朝飯前なのだろう。

このジョン・スミスの言葉に対し、そう、とレイのいつもの淡白な吐息が、音聲となって流れてきた。

何でもいいが、作業している俺を無視して話し合いをするのはやめてくれ。

集中できないだろ。何かミスってあいつらにバレたら、どうしてくれるんだ。

そう思いながら、頭を軽く振った。

なぜ俺がトゥルーマン教団寺院へ潛などという危険な真似をしているかというと、レイが以前言っていた逆スパイ作戦が実行に移されたからに他ならない。

とはいえ本來であれば、スパイの素人である俺がサーバールームというセキュリティの高い部屋にわざわざ潛する必要はなかった。

ジョン・スミスがトゥルーマン寺院の回線をハックするところまではすぐに完了したので、そのままデータベースからデータを抜き出せばレイの作戦は終了するはずだったのだ。

だが、そのハックの最中、ジョン・スミスがトゥルーマン個人用のいくつかのサーバーがトゥルーマン寺院の本回線と繋がっていないことに気がついた。

どちらかといえば、そちらの方に重要なデータに置かれている可能も高く、ハックしないわけにはいかない。危険は承知の上で、すべてのデータを奪う必要がある。

そう考えたレイとジョン・スミスは、現在もトゥルーマン教団信者ということになっている俺をトゥルーマン寺院に送り込むことになった。

実は初め、レイは俺が寺院に潛することを渋っていた。

俺が捕まったときの第六研が被るデメリットを考えて、セキュリティが高いトゥルーマン寺院という堅牢な場所に俺を送り込むことを躊躇したのだ。

第六研で唯一の信者である俺が逆スパイであることがバレた場合、その時點から再度トゥルーマン教団に潛できる可能は二度となくなる。

そういう意味では、レイがそう考えたのも當然だった。

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