《悪魔の証明 R2》第76話 049 ミリア・リットナー(2)
「それはそうと、厄介なのは資産の凍結ね」
突如としてレイが話題を変えた。
「ああ、父さんの言った通りだった。自分の仕事の給與をれていた口座以外すべて凍結されていたよ。第六研の活資金をこれ以上援助するのは無理そうだ。でも、最も金がかかりそうなトゥルーマンとの決戦の會場は、すでに抑えてあるんだろ?」
話の途中で私の方に顔を向け、ミハイルが尋ねてきた。
「うん。し前に、十一月十四日國立アキハバラステートセンター、午前中から予約したよ。セオドア大統領の名前を出したら簡単だった。事前に口利きしてくれていたみたい。もちろん、お金はこっち持ちだけれど」
し吐息をつきながら、答えた。
「……セオドア大統領は、金には汚いから仕方がないな」
と、ミハイルが若干呆れ聲で言う。
「問題は今後ね。まだ前回ミハイルに金されている分は殘っているけれど、研究室から會場が広くなる分アイ・モスキートを増やさなければならないし、ジョンに使わせるネット回線料金も馬鹿にならないから――お金はほとんど余らないと思った方がいい。エヴラのときのように、家やエキストラを雇ったりする手段はもう使えないわ。他の活も厳しい――仕方ない。エリシナのお金を使いましょう」
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レイが若干諦め顔でそう述べる。
「先生、いいんですか?」
そんな彼に向け、問いただすかのように訊いた。
以前、レイが珍しく的に語った話を思い出したからだ。
「私も同じよ、ミリア。姉さんの住所さえ知らないし、しばらく連絡もとっていないわ。あなたのお兄さんと同じで、姉さん――エリシナは金さえ送ればいいと思っているのよ。あなたのケースとはし違って、私の姉さんの場合、継続的に小分けにしてお金を送ってくるけれど……そんなお金もう一銭も使ってない。今度會ったときに、振り込まれた分すべて叩き返してやるわ」
この話を聞いたとき、レイと自分の境遇を重ね合わせた私は深く銘をけた。
私にもフリッツという失蹤した兄がいたからだ。
兄フリッツのことが大好きだった。中學にあがったばかりの頃、私たちは両親を失くしたが、フリッツがすでに社會人となっていたということもあり、レイのように親戚に養子縁組されることもなく、貧乏ながらささやかで幸福な暮らしをしていた。
お金がなくて苦労することもあったが、フリッツとのふたり暮らしは総じて楽しく、一生これが続いても構わないとさえ思っていた。
だが、フリッツがシャノンというと付き合い出してから、そのすべてが変わった。
初めの一年程は、いい人だな、くらいにしか思っていなかった。
けれど二年目にったとき、兄の様子が急におかしくなった。家にあまり帰らなくなり、私に対して明らかによそよそしくなった。
時が経つにつれ、冷えていく一方の兄と私の関係。それとは逆に、彼とシャノンとの仲は深まるばかり。
いつもふたりでどこかへ出かけて行き、たまに家に帰ってくるときも一緒に帰ってきた。
不審に思った私がふたりに行き先をきいても、ふたりとも何も答えようとしなかった。
無論私はフリッツに文句をつけたが、彼は笑って取り合おうとはしなかった。 きっとシャノンのせいだと思い彼にも兄を返してくれと頼み込んだが、ただ悲しい顔をするだけ。
ふたりが一緒にいる時に外出を邪魔しようとしたこともあったが、これも無意味だった。
結局、私が何をしようと、兄やシャノンの生活態度は変わることはなかった。
そして、ある日の朝――ふたりはどこかに消えた。
この時すでにフリッツとは、兄妹としての仲が冷えきっていたので、特に何も思うところはなかった。
フリッツとシャノンが失蹤してしばらく経った後、フリッツ本人名義で、大學卒業までの授業料をはるかに超える大金が私の銀行口座に振り込まれた。
姉の金を貯め込んでいるレイとは違い、私は迷うこともなく自分の娯楽のためにそのお金を使った。
フリッツが振り込んだお金は、自分との手切れ金、そうけ取ったからだ。
多好きなブランド服の値上がりしたのにもかかわらず買い込んでしまったり、飲食に使い込み過ぎたりして大學卒業までのお金が足りなくなり、喫茶店でアルバイトをするはめになったが、それでも構わないと思っていた。
手切れ金なのだから自分の好きなように使えばいい。
フリッツのお金に対し私の持っている見解はそれだけだ。
だが、レイの場合は違う。
叩き返すと口悪く言っていたが、本當は姉に會って今まで口座に貯まった分や學業で消費した分をすべて返したいのだ。
例え、彼がけ取らなくても、彼と再び一緒に生活を始める資金として使う。
きっと、レイはそう決めているからこそ、人してから送金されたお金を一切使っていないのだ。
その大切なお金を使うとレイは言っているのだから、私が聲を荒げて確認したのも當然だった。
「背に腹は帰られないわ」
私の質問に対し、レイは目を細めて回答した。
「……先生が、それでいいのであれば、私は何も言わない。お金なんかより、トゥルーマン教団を潰す方が先決だもの」
若干不服だったが、そう返しながら私は椅子から立ち上がった。
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