《悪魔の証明 R2》第78話 052 ミハイル・ラルフ・ラインハルト(2)
そのプロデューサーによると、エヴラの代わりに『トゥルーマンの泉』でメインを張ることになった導師コバヤシは、どこにがあってもそれを探し當てるという能力の持ち主であるらしく、今回はコインを使用してそれを証明するとのことだった。
「まあ、生活に便利な能力ではある気がするな」
説明だけを聞くとあまり凄みのある能力には思えないが、それを知った僕はそう呟いた。
「ええ、もちろん。コバヤシ導師はゲストにコインをのどこかに隠してもらい、その隠し場所を指し示し……」
と今後毎回番組冒頭にアイスブレイクとして、そのようなパフォーマンスを行う予定であるというような容をスタッフは訥々と説明する。
ふむ、と僕はこれに鼻を鳴らした。
コバヤシにとって、僕は最初のゲストなのだから毎回といってもこれが初回になる。
他の番組ではどうかは知らないが、『トゥルーマンの泉』で初めてのパフォーマンスとなるはずなので、必然的に張するはずだ。
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それにエヴラから擔當が代わったばかり。
いきなりそんな狀態でテレビ番組の看板となるなんて、慣れもしていないことだろう。
プラスして、今後どうやっていくかなどの悩みもあるはずだ。
逆に僕は、ほぼ普段通りなんら特別なことをする必要がない。コバヤシと対峙する上でそれはとても有利な狀況だ。
そう考えた僕は、コインを握りしめながらきょろきょろと天井に目を配った。
部屋に監視カメラが存在しないことを確認するためだ。
幸いなことに家などはほとんど置かれていないので、それはどこにも見當たらなかった。念のため天井にも顔をやったが、そこにもそれらしきはない。
次に、わざと怪訝な表を造りプロデューサーに視線を送った。
それを見たプロデューサーはすぐに僕の思を察したのか、罰が悪そうな顔をして僕に背中を向けた。
ほっと安堵した僕は、シャツの袖口のボタンと布の間にできた隙間にコインを挾み込んだ。
それから、上に著込んだ背広でシャツの袖を完全に隠せることを確認する。これで余程激しい運をしない限り、コインが下に落ちることはないはずだ。
隠し場所はこれで完璧。というより、誰もが想像するところであればどこでも良かった。
こういうゲーム的なものは、より単純な場所に隠す方が相手の視線がどこか読むことができる。そうすることによって優位を持って相手の心理狀況を観察でき、仕掛けてくるトリックをより見破り易くなるのだ。
もちろんコバヤシに隠し場所を當てられないことがベストだが、そうでない場合は現場を押さえる必要がある。
そのタイミングは、もちろん彼の視點が疑わしいきをした時だ。それが僕がトリックのを暴く最大のチャンスとなる。
「隠しました。さあ、スタジオに參りましょうか」
ので算段を終えた僕は、意気揚々とプロデューサーに聲をかけた。
スタジオに向かう通路を歩いている間、プロデューサーが蕓能人とのしょうもないエピソードを自慢げに話してきたが、興味がないので適當な相槌を打ってやり過ごした。
「うちの男スタッフが導するので、彼が合図がしたらスタジオにって頂けますか?」
スタジオの舞臺袖に到著するなり、プロデューサーは言う。
し先にいる番組名が書かれたプリントTシャツを著た男のスタッフを人差し指で示した。その後用事があるのか、すぐにその場を立ち去っていった。
誰も話し相手がいなくなったので、周囲を見回した。見知らぬ人々が僕の周りを慌ただしく駆け回っていた。
無論、誰も僕のことを知らないので聲をかけてくることはない。ひとり舞臺袖に取り殘されたようでし疎外をじた。だが、だからといってどうということもない。
プロデューサーと別れてから、五分程待った。
その後、ようやく先ほどのが駆け寄ってきた。
スタジオに通じる簡易のドアが開かれる。
スタッフは僕が座るべき椅子を指で示して、番組の流れを説明し始めたが、そんなことはどうでもいいとばかりに、 僕はスタジオへと目を向けた。
スタジオの奧にはトゥルーマンとスピキオがいた。
ふたりともゆったりと椅子に腰をかけており、特段気を張っている様子はなかった。
そして、その手前には、ジャック・ウィルソン・コバヤシ。その小柄な男が本日僕が相手をするトゥールマン教団の導師だ。
そのコバヤシはコマーシャルの最中だったせいか対戦する僕に目もくれず、ずっと攜帯畫面に顔を向けていた。
まさか、余裕を見せているわけではないだろう。ということは、今何かトリックを仕掛けている最中なのか?
彼の行を視界にれながら、僕はそう訝った。
だが、いくらなんでもこんなわかりやすい形で、敵に塩を送るような真似をするはずもない。まず間違いなく僕の勘違いだ。
頭を軽く振りながらコバヤシから視線を切り、次にすでに満員となっている観覧席の方を見やった。
レイはいないにしても、もしかして第六研のメンバーであるミリアなどがいるのかもしれないと思ったからだ。
だが、期待に反して、観覧席のどこにもそれらしき姿は確認できなかった。
「それでは、ミハイルさん。お願いします」
僕が顔を左右している最中、スタッフの合図が背後から聞こえてきた。
彼に促されるがまま、スタジオの中へと足を踏みれる。
すると、舞臺袖とは比べにならない量の照明のが僕のを包み込んだ。
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