《悪魔の証明 R2》第80話 050 ミリア・リットナー(1)

「あら、例の二十八歳の彼氏?」

レイがし目を細めながら尋ねてきた。

口調から現在の彼はうかがい知れないが、以前から彼は私とクレアスの関係をあまり快く思っていない。

その理由は単純で、クレアスが彼の姉エリシナと同じラインハルト社私設警察の人間だからだ。

將來私が悲しむことになるからと、私がクレアスと付き合ったことを報告した際レイは猛反対してきた。

にしては珍しいほどの剣幕だった。

話を聞くところによると、テロ関係の仕事に従事する可能が高いことからきているのは明らか。危険を承知でそのような職業に就いている人間が許せないようだった。

當然クレアスのことをよく知りもしないのにと思いはしたが、大切な人を大事にしたい彼の気持ちも良くわかる。

私にしても、兄フリッツがもしそのようなことを言い出したら、関係が冷え切っているとはいえ、一応思い留まるよう説得しようとはするだろう。

クレアスの場合であると、既に長年従事しているようなのでどうしようもないが、できれば転職して他の職に就いてしいとは常に思っている。

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だが、この不景気では転職もままならず、そのようなことを提案できるはずもない。

最近は私のしつこい説得により反対すること自を諦めたのか、レイはたいした文句を言わなくなった。だが、やはり會いに行くというとこうしてし嫌な顔をする。

會話さえわしたことがないのだから、一度くらい彼もクレアスと會って、その人柄を確認して見れば良いのだ。

會えば絶対にレイもクレアスの格を好きになるはずなのだから。

先生の格上すぐに変心するはずはないから、それがすぐにかはわからないけれど。

でも、きっかけさえ造れば後は何とでもなるはず。クレアスの私設警察という職業を除けば、嫌い合う理由はひとつもない。

今からローズマリアにレイをって、クレアスを紹介する機會を設けてみようか。

それから関係を構築していけば、いつかレイもクレアスとの付き合いを納得してくれることだろう。

と思いはしたが、私はすぐに首を橫に振りその案を脳から消去した。

修羅場は未然に防ぐことが鉄則だ。

レイはレイ・トウジョウ五百人委員會という非公式のファンクラブがあるくらい人だ。

そんな彼をクレアスが目にしたら、何かしら良からぬを抱く可能もある。

ミハイルがいる彼がクレアスをするなんてことはないだろうが、彼がどう思うのかわかったものではない。

結婚式まで紹介を控えよう。認めてもらうにはそれからでも遅くはない。

私は深くそう心に誓った。

若干迫していた雰囲気を和らげようとレイとミハイルに向け目配せを送る。

そして、首を傾げるレイを目に

「うん、先生。新市街のローズマリアで待ち合わせしているの。ちょっと時間は早いけれど――私がここにいて、おふたりさんの邪魔をしちゃ悪いからね」

と、聲をかける。

「何をしょうもないことを」

この臺詞に、ふたりは口を揃えて反論してきた。

それに抗おうとはせず、はいはい、と生返事をしてからすぐにを翻し、リビングルームを後にした。

テーブルから離れる時にちらりと彼らの様子を橫目で確認したが、両者とも顔を赤らめてまんざらでもないじだった。

相変わらずうぶな人たちだ。いったい自分のことを何歳だと思っているのだろうか。

彼らのを訝りつつ、マンションのドアを開けた。

細長い通路をし歩きマンションのエレベーターに乗り込む。

一階のスイッチを押すと、エレベーターは薄い音を立ててゆっくりと下へ向かっていった。

舊式のエレベータであるせいか、いつも以上に酷い揺れをじた。

マンションの玄関口に出た。

そのすぐ先には大きな幹線道路。十五分ほどかけてその道路を道なりに歩くと、やがて大きな橋が現れた。

この名前のない橋の先が新市街。クレアスが待つ喫茶ローズマリアのある區域だ。

レイのマンションからおよそ徒歩三十分程度でそこにたどり著く。

街の時計臺に差し掛かった時、

「あれ? もうこんな時間……ってことは遅刻?」

私は眉を顰めて、言葉を吐いた。

時計臺の時間と腕時計の時間が十五分ほどズレていることに気がついた。

「もうこんな時に」

と苛立ち紛れにまた聲をらし、腕時計の時間を直す。

クレアスをこれ以上待たせては悪いと、足早に大橋を通り抜ける。

新市街へと足を踏みれた。

レイのマンションから新市街はわりかし近いが、橋を挾むとその風景に限りなく格差がある。

雑多な舊市街とは違い、新市街はいつも通り閑靜な雰囲気だ。すれ違う人々はそれぞれ高級そうな服を著用していて、私やレイの住む舊市街の人間たちの服裝とはまったく趣が異なる。

大きなビルの數々が向こう側に見える區畫整理された道の歩道でランニングをしている人、犬の散歩をしている人。さらに芝生の公園で語り合うカップルや家族連れなど優雅に時間を過ごしている人々が多數見けられた。

あまりに清潔がありすぎて、やっぱりこの街は私に合わないな。

心の中でいくつかそのような批評しながら、目的地ローズ・マリアに著いた。

ドアを開け、店をきょろきょろと見回した。

「あ、あそこだ。待ったかな」

黒いスーツを著た青年とツインテールのの子が陣取るテーブルの向こう側――その奧のテーブル席にクレアスの後ろ姿が見えた。

クレアスと背中合わせで座る青年が視界にった瞬間、

「あれ? あの人どこかで――」

獨り言を口かららした。

俯き加減なので、り口に程近いここからでは顔が確認できない。だが、から漂うその雰囲気をどこかでじたことがあるような気がした。

「どこかで會ったことがあるような……」

と、また呟く。

いったい誰だったっけ?

記憶を探りながら、クレアスが待つテーブルへと近づいた。

すれ違い様、じろりと青年の方へ目をやった。

不自然にならない程度。束の間確認したが、その顔にまったく見覚えはなかった。それは、彼の橫にいるツインテールのも同様だった。

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