《悪魔の証明 R2》第82話 050 ミリア・リットナー(2)

何だ、やっぱり知らない人たちか。

彼らから目を切った私は、でそうぼやいた。

雰囲気が仲のいい誰かに似ていただけなのかな――きっと私の勘違いね。

と、首を橫に振る。

吐息をついてから、クレアスの対面に座った。

當のクレアスは顔を下げていて、私が席についたことにまったく気がついていないようだった。

「顔を何度も合わせてはいるが……今のところ大丈夫だ。だが、確かにエリオット・デーモンだけは危険だな。いつか俺たちに行き著く可能がある」

よくわからないことを、クレアスは小さな聲で言う。

いつになく真剣な聲だった。

名前を呼びかけようとしたが、そのタイミングで、

「そうだな。トリックは暴かれることも考慮にれた方が……だが、今は逆に離れた方が……エリオット・デーモンが計畫を破滅に導くかもしれない……」

ぽつり、ぽつりとまた聲をらす。

攜帯電話で誰かと話しているのかと思ったが、テーブルの上に置かれた手の中には何も持っていない。

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「……俺たちは表裏一。だが、どちらが死んだ時はその死を素通りして目的を完遂しよう。そういう約束だったが、どうやらそいつのおかげで方針転換できそうだ。助かったよ。お互い死ぬ確率が高かったからな」

続けて、囁くようにクレアスは述べる。

ぼそぼそとひとりで呟いて……何を言ってるんだろうか。

しかも、死ぬとか騒な話をして。仕事関係の話だとしても、とても獨り言で済むようなものではない。

そう訝りつつも、

「クレアス、お待たせ」

と、聲をかけた。

「ミリア……」

はっ、と顔を上げながら、クレアスは驚いた表をして応答した。

「表裏一とか目的とかって、いったい何のこと?」

それとなく確認してみた。

「え、いや……」

と、歯切れの悪い聲を出す。

「というか、エリオット・デーモンて誰? ではないのはわかるけれど」

責めるような口調で言った。

もちろん、本気で怒っているわけではない。

「あ、ああ。ミリア。早かったね。待ち合わせの時間まで、ずいぶんと時間があるようだけど」

クレアスは取り繕うかのように、言葉を返してくる。

私が遅刻してきたのにもかかわらず、この臺詞。現在の時間すら把握していないようだ。

しかも、質問をはぐらかしている。

私が怪しんだ表を造り目を細めていると、仕方ないといったじで再び口を開いた。

「ああ、それでその目的とか何とかなんだけど……実は小説の臺詞を考えていたんだ。エリオット・デーモンもその登場人さ。恥ずかしいから言ってなかったんだけど、今推理小説を執筆中でね。『そして、クレアス以外誰もいなくなった』っていう題名で……」

「何、それ? そんな話、信じるわけないでしょ。しかも私もいなくなったってことなの? それ」

を前に乗り出しながら、強い口調で注意した。

え、と困った顔をして、クレアスは私の顔をうかがう。

一方の私はそれに構わず、眉を寄せて彼を睨みつけた。

その後、二人の間に靜寂が訪れる。

ウェイトレスがコーヒーを注ぐ音が、し先のテーブルから聞こえてくる。窓ガラスから見える木から葉っぱがゆらゆらと地面に落ちた。道路を走る車が風を切る薄い音もする。

クレアスにとっては、この時間が延々と続くかと思ったことだろう。

もうしいじわるしてやろうかな。

そう思ったが、束の間の後、ぷっ、と我慢を堪えることができず笑い聲を上げてしまった。

「クレアスが、小説を書いているなんて、ホント信じられない――でも、本當に書いているのであれば応援するよ。私は、いつだってクレアスの味方だから。小説家の彼かピザ屋の彼にもなってみたいしね。だから、私ミリア・リットナーは全面的にバックアップします。自分の名前を題名にしている時點で、小説の才能はまったくないと思いはするけれど」

と、堰を切ったように私の本心を伝える。

「まいったな」

そう言って、私の瞳を見つめながらクレアスは苦笑いをする。

この様子から察すると、私が本気で疑っていると思っていたようだ。

中々可らしくて宜しい。

私はし悅にって、そのようなこと思った。

そして、私がニマニマしながら、クレアスを見つめ返した瞬間だった。

突然ガタリと前方から音が鳴った。

クレアスの背後にいた青年が立ち上がったのだ。こちらを見向きもせず、ツインテールのの子を引き連れてローズマリアの出口へと向かっていく。

線は細いけれど、クレアスと同じくらいの背丈なのかもしれない。

彼の背中を見た私は、何気なくそう思った。

「どうした? ミリア。何かあったのか?」

きょとんとした顔をして、クレアスが尋ねてきた。

そっか、どこかで見たことがあると思ったのは、クレアスの後ろ姿と似ているからだ。

彼の聲を耳にして、ようやくそれに気がついた。

「何でもない」

そう短く返答してから、私は首を橫に振った。

よくよく見なくても、正面にいるクレアスの顔とさっきの青年の顔はまったく似ていない。そっくりなのは雰囲気だけということね。

それだけで見たことがあると思うとは、錯覚とは恐ろしいものだ。マジックのトリックとかでよく利用されるのも頷けるというものだ。

まあ、今はそんなことどうでもいいか。だって、デート中だし。

と思い直して、再びクレアスに笑いかけた。

そうして、クレアスとの會話が始まってから五分後――先程の青年との姿は、私の記憶からきれいさっぱりなくなっていた。

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