《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-53:世界渡り

ユミールとの戦いの途中で、僕は暗闇に落ちていた。

原初の巨人は、世界を喰らって空間に裂け目を生む。それは大神殿の床を飲み込み、僕とユミール自を暗闇へ落としてしまった。

『黃金の炎』によって加速された思考が、いろいろな可能を僕に教えてくれた。

息を整えて。

目を見開いて。

父さんや神様達から教わったきを、何もないこの空間でも繰り返す。

まずは現狀の確認だ。

<狩神の加護>で魔力探知。

ユミールが放つ赤が、暗闇の向こうにあった。

僕と一緒に空間の裂け目へ落ちているということだろう。

不意に下が明るくなる。

裂け目の出口だ。僕は短剣を握って構える。

「――!」

出口をくぐった瞬間、生暖かい空気がぶわっと僕を包み込んだ。

目の前に迫る床。

僕は慌ててを取る。転がって跳ね起きると、ユミールが薄暗い中に立っていた。

だろう。崩れた壁から、外の黃昏が差し込んできていた。

僕は呟く。

「……ここは」

赤茶けた壁や床の材質に、見覚えがある。

ここは、『の夕焼け』が起きたダンジョン跡だ。僕らは一瞬で、王國の北限から移してきたのだと思う。

ユミールが走った眼で僕を見た。

原初の巨人が雄たけびをあげる。両腕にまとった赤黒い炎が揺れた。2メートル超の巨で筋が波打ち、背中まである金髪は別の生きのようにたなびく。

頭が割れそうな音に跡全が打ち震え、コウモリが逃げる羽音がした。

「おれの、心臓を……!」

が踏み込んできた。

火を吐くような言葉に、直で理解する。

ユミールは、おそらく、狙いがあってここに飛んだんじゃない。走った眼。顔中に浮き上がる痣が赤く脈打つ。今もまたの傷が口に変じ、ケタケタと僕を嗤った。

相手は、正気じゃない。

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無意識のうちに、かつての拠點へ飛んだんだ。

「おれは待った……!」

世界を喰らったのは、『飢え』のせいか、それとも苦痛をもたらす多すぎる魔力をしでも消費するためだろうか。

「おれの心臓が! もう一度、おれのるのを!」

突進。巨とは思えないスピード。

僕はとっさにをひねってよけた。

背後にあった迷宮の壁を、ユミールは軽々と打ち破る。唖然としてしまう。

原初の巨人はそのまま壁の向こう側に走り抜け、視界から姿を消した。もうもうとした土煙に、破砕音だけが響いてくる。

猛烈な力で迷宮を壊し回っている。

こんな魔、聞いたことない……!

バックステップで距離を取り、手近な壁に背中をつける。直後、そこから炎に包まれた腕が生えた。

「よこせ」

赤黒い炎がまとった指。

僕の頬をかすめる。び出したほどの熱と痛みだ。

「め、目覚ましっ」

振り向く。

崩れる壁とユミールに、風の霊(シルフ)と炎の霊(サラマンダー)による炎を叩きつけた。

さらに巻き上がる土煙の中、僕は距離をとるよう走る。

<狩神の加護>、能力『狩人の歩法』。足音も気配も殺して柱のる。

これなら、し時間が稼げる。

そう思ったのは、一瞬だけ。

どくん、と左ポーチから心音。

まるで『おれはここだ!』とぶような氷炎の心臓に、全が逆立った。

馬鹿か、僕は――!

1000年も探していたものを、この距離で相手が見逃すわけない。

「そこにいたか」

柱が砕けた。手のひらが僕のすぐ目の前で閉じられる。

あと半歩飛び退くのが遅ければ、顔面を握り潰されていた。

逃げるな。前を向いて、覚悟を決めろ。

「ユミール!」

敵を睨み上げ、踏み出す。

僕はすれ違いざま、ユミールの脇腹を短剣で切り裂いた。

手ごたえがあった。でも相手はにっと笑って、口をがばりと開ける。

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――オオォォオオオ!

また、空間が鳴し足元が沈んだ。短剣の傷が『口』になって、ケタケタと笑う。

そして世界がひび割れた。

足元に開いた真っ黒い裂け目に、僕とユミールは飲み込まれていく。

「また……!」

瞬間移

ユミールの彫り深い顔が、喜悅に歪んでいた。心臓が近くにあるから? それとも――世界を喰らっているからだろうか。

次の移はすぐに終わる。

「はっ!?」

がぼっと、口から気泡が溢れた。

なに、ここ!?

腕を振る。水がある。というより――ここ、水中だ!

上に黃昏があるけど、とても弱い。

薄暗い水中は、かなりの深さなんだ。

「目覚ましっ!」

念じると、右手の籠手(ガントレット)から水の霊(ウンディーネ)が飛び出す。短剣のクリスタルからは風の霊(シルフ)が現れて、気泡で僕を包み込んでくれた。

僕は2メートルほどの泡に包まれて、呼吸を確保する。

水中戦。

まさかと思ったけれど、僕はユミールと水中で戦うことになる。

辺りには大きな巖が転がっていた。どうやらここが水底らしい。右にある白壁が目を引いた。

――湖に沈む、『白亜の塔』?

「フローシアの、湖か……!」

今度はフローシアに移したようだ。

ユミールが水中に漂っている。やがて赤黒い炎が巨を包み込んだ。

目を凝らすに、原初の巨人が変化する。

手足が大化し、指の間に水かきが生じたようだ。むき出しの上半にはウロコさえ見える。

まるで、サハギンだ。

どうやら原初の巨人は、魔も喰らったことがあるらしい。

湖底にびが轟く。水の壁が叩きつけられたようだ。

ぎゅんと巨は向きを変え、矢のように突っ込んでくる。

「す、水中なら……!」

こっちだって経験済みだ。

水の霊(ウンディーネ)が水流を作して、僕の気泡をる。ユミールの突撃を回避した。

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霊のおかげできはこっち優位だ。

「ありがとう!」

下半が魚の霊は、僕に向かって腰を折ってくれる。わん、と犬型の風の霊(シルフ)もその隣で尾を振っていた。

「さて、と」

僕はユミールを見つめる。

激しく泳ぎ回る巨だけど、僕が霊を味方にしているのは気づいているはずだ。だからこそ、迂闊に近寄ってこない。

向こうの攻撃も當たらないけど、こちらも手出し不能だ。短剣では長さが足りないし、霊だって気泡の維持に使っている。炎の霊(サラマンダー)は敵との間にある水が邪魔だ。

後は神様の能力だけど、水中で刃といえば――

「銛(もり)、か」

閃く。

に鎧姿の神様を思い浮かべて、僕は水底を移した。

沈んだ白亜の塔、その屋部分に足をつける。ソラーナと僕が壊した天井に、まだその跡がはっきり殘っていて、し寂しい。

――――

『シグリスの槍』……遠隔補助。魔法効果を槍にのせ、屆ける。

[+]薬神の魔力により効果が増加。

――――

――――

<スキル:魔神の加護>を使用しました。

霊の友』……霊達の力を引き出す。

[+]魔神の魔力により効果が増加。

――――

シグリスの槍に、炎の霊(サラマンダー)が宿る。炎槍(えんそう)とでも呼ぶべきなんだろうか。

僕は漁師さんが銛を使うように、水中を泳いで迫るユミールを狙う。

は危険を察してか僕へ頭を向け、一気に水を蹴ってきた。

すれ違う。

巖のような腕が気泡を突き破り、僕の脇腹をかすった。を吐きそうな衝撃をこらえて、泳ぎ去るユミールに槍を打つ。

「はぁっ!」

投擲した槍がユミールの肩に刺さった。水中で発が起こり、巨人の肩が深く抉れる。

水にと炎の軌跡を殘しながら、ユミールは狂ったようにき続けた。

頭が僕の方へ向く。ぐばりと開いた口からびが奔った。

――オオォォオオオオオ!

大きく開いた口が、噛み合わされる。僕の左右にひび割れが走って、またも空間が引き裂かれた。

僕らは周りの水ごと裂け目に飲み込まれる。

「次々と……!」

の夕焼け』、フローシアときて、次はどこだろうか。

ユミールは一緒に漆黒の空間を落ちている。巨が赤黒い炎を帯びた。まるで炎の巨人――炎骨スルト。熱波をけて、裂け目に巻き込まれた水がみるみる蒸発していった。

視界が明るくなる。

出口をくぐると、僕らは――空中に放り出されていた。

「ここって……!」

落下している。

眼下には大勢の人がいて、忙しそうにいていた。鼻を刺激するのは、煙の臭い。

ここは高さが4、50メートルに及ぶ大空間で、最下層には煙をあげる爐や、何かの資材をれたテントがひしめいている。カァン、と鎚(・)音(・)がして僕は悟った。

よくよく見ると、下で働いているみんなは子供くらいの大きさ。

「あ、小人の國(アールヴヘイム)!?」

スルトと戦った大空間に、僕らは移してきたんだ。あれから小人達は、かつて炎骨スルトを拘束していた特大ホールを鍛冶場に改造してしまったのだろう。

何人かが落下するこちらに気づいた。

僕は、はっとしてぶ。

「みんな、逃げて!」

空中にいる白小人(アールヴ)が、呆然とびしょ濡れの僕を見ている。

一緒に落下するユミールは赤黒い炎で顔からつま先まで包み込み、まるで炎骨スルトの再來だった。

地面に、著地。

『黃金の炎』の能力に任せてを取る。僕は砂置き場か何かに突っ込んで、土埃を巻き上げてしまった。

「けほっ――」

小人達の聲が連鎖する。

「リオン!?」

「リオン殿!?」

ユミールもまた起き上がっていた。棚や作りかけの武を崩しながら、僕の方へ歩いてくる。

赤黒い炎に包まれながら、原初の巨人は大笑した。

「はっはっは!」

僕は聲を張り上げた。

「逃げて! 早く!」

ユミールが床に拳を打ち付け、炎があがる。

樽や木箱が弾け、破片が僕を切り裂いた。手近にいた黒小人(ドウェルグ)をかばって、奧へ逃げてもらう。

巨人は足を止めて、鍛冶場の中央にある巨大設備を眺めていた。

それは高さ5メートルはある巨大溶鉱爐。鍋の怪みたいなものがレンガに支えられていて、もうもうと黒煙をあげている。おそらくここに溶けた鉄があるのだろう。

ユミールはそれを毆りつけた。

レンガが砕け、鍋がひしゃげる。一部の破片はになって砕けて、ユミールの口に吸い込まれた。

「な、なんてやつ――」

流れ出る、溶けた鉄。溶鉱爐の周りで煙があがり、小人達の悲鳴が聞こえた。

空間の溫度が一気に増す。

もうもうと上がる煙を切り裂いて、僕とユミールは戦った。火の近くにいたら、炎に巻き込まれてしまう。

熱で目が焼け落ちそうだった。濡れていた服が、今はありがたい。

「ふっ」

ユミールの腕を回避する。

切りつけた刃は、魔力障壁で防がれた。相手もだんだんと正気に戻ってきてる。

頭にまとう炎のから、にぃとひきつった口が見えた。

「目覚ましっ」

冷卻用の水を水の霊(ウンディーネ)でる。水撃をユミールにぶつけると、蒸気が巻き起こった。

一瞬の目くらまし。

溶鉱爐から距離を取り、僕は呼吸を整えた。

周囲を探すと、白いったバケツを見つける。起こし屋で何度か見たことがあるけど――

「はっ!」

を、追ってきたユミールに思い切りぶちまける。真っ白いがユミールの顔を覆った。

「ぐ、お……?」

石膏(モルタル)だ。レンガや壁の修理によく使われるから、小人達も爐のために持っていたんだろう。

原初の巨人とはいえ、瞼をべったりと覆われては、しばらく視界が利かないはずだ。足止めにはなる。

上から聲が降ってきた。

「リオン殿!?」

空中に浮かぶ年のような姿は――小人の國(アールヴヘイム)の長、小人王様だ。

僕は短剣を掲げる。

「大丈夫です! すぐ、出ますから……!」

ユミールが放つ赤黒い炎が勢いを増した。

響き続ける聲は、僕に炎骨スルトを思い出させる。

僕は雷神の力を借りけた。

「トール、お願い!」

――――

<雷神の加護>を使用します。

『戦神の意思』……自分よりも強大な敵と戦う時、一撃の威力が強化。

[+]雷神の魔力により効果が増加。

――――

――――

<雷神の加護>を使用します。

『ミョルニル』……雷神から、伝説の戦鎚を借りける。

[+]雷神の魔力により効果が増加。

――――

これまでの冒険を思い出す。

ユミールは、きっと多くの魔の記憶をけ継いでいる。でも喰らって、力をものにしただけだ。

本當の強さを――僕らが神様と結んだ絆の強さを、きっと知らない。

短剣に雷が宿る。

はみるみる膨らんで、僕の背丈ほどもある巨大な鎚になった。裝飾付きの鎚頭で、雷がいくつも弾けている。

真橫に向けて振りかぶった。

赤黒く燃えるユミールの頭に、僕はミョルニルを叩きつける。

「はぁ!」

空間全が打ち震える。

赤黒い炎が消えて、ユミールの半面が見えた。雷で焼け焦げた顔が、驚異的な再生力で見る間に癒えていく。

でも、絶対に相手の力は削れている。

ユミールは大きく口を開け、さらに空間を噛み締めた。

足元がひび割れ、裂ける。本のページを破るように、僕らはこの巨人が覚えている場所を移しながら、戦っているんだ。

空隙に落ち込みながら僕はぶ。

「どこに行っても、どんな場所でも、僕は負けない……!」

々な場所を移して、かえってわかったことがある。

僕は神様達と多くの場所を旅した。そのたびに強くなって、今がある。

「ただ喰らってきたお前とは違う……!」

暗闇の空隙で、僕はユミールと睨み合う。

ふ、と巨人の口元が歪んだ気がした。

黃昏のに包まれて、僕らは空隙を抜ける。

さぁっと懐かしい風が渡っていった。

気づくと、僕はユミールと対峙し立っている。

見覚えのある空に、見覚えのある大塔、見覚えのある花壇。

ここは――王都のオーディス神殿だ。

まだ、きっと魔との戦いは続いている。そこら中に傷を負った冒険者がいて、聖堂から治癒を擔當する人が次々と外へ出てきていた。

「リオンさん……!」

パウリーネさんが僕とユミールに驚いている。

「リオン?」

服の母さんは、冒険者の傷を魔法で癒しているところだった。聖堂のところには鎚を持ったサフィもいて、僕の姿に目を見張っている。

みんなからの視線をけながら、僕はユミールと対峙した。原初の巨人もすでに肩が上下している。僕だって息が切れている。

お互い、長く空間を移した。

きっと消耗しているはずだろう。

だから、今決めたい。

神様が殘してくれた、魔力を使って。

――――

<スキル:太の加護>を使用します。

『太の娘の剣』……武に太の娘を宿らせる。

[+]神の魔力により効果が増加。

――――

僕はポケットから金貨を取り出して、短剣と一緒に握った。いつもは膨大な熱で金貨が短剣に融合するけれど、ソラーナ本人がいないから、そこまでの変化は起こらない。

コインだって、ソラーナも他の神様もいない、無地だ。

けれど、僕は天界で神様から太の魔力を引きけている。

け取った魔力を、スキルを意識して、短剣に通わせた。

金貨を通じて、神様の力が短剣に流れ込む。長剣(ロング・ソード)ほどの長さの、黃金の刀が生み出された。

ユミールが言った。

「……ここにいないはずの、神の存在をじるな」

僕は巨人を見つめる。

「僕に、魔力を託してくれたから」

ソラーナの明るい笑顔がを過ぎった。

絶対に、あの人のところまで帰るんだ。

黃金の刀をユミールに向かって振り下ろす。防の魔力障壁。魔力と魔力のぶつかり合いに、黃金の飛沫(しぶき)があがった。

じわじわと、太の魔力がユミールの防壁を熔かし切る。

黃金のがユミールの肩から足へ走った。

――ウォオオオオオオオオオォォオ!

ユミールがび、空間がひび割れる。ひゅうひゅうと冷たい風が僕らを包み込んだ。

頭の帽子を押さえる母さん達に、僕は聲を張る。

「大丈夫、帰ってくるから!」

暗闇の裂け目を、ユミールと共に抜ける。

やがて、僕らは元居た場所――霜の宮殿に著地した。荘厳だった神殿部は、大きく破壊されている。

年月で傷んでいた上、いくつもの柱が倒れて、一部では天井が崩落していた。

雪の混じった風が、僕とユミールの間に吹き込む。

「……ユミール、もう終わりにしよう」

僕が言うと、ユミールはを吐く。

この魔だって、おそらく天界でひどく消耗した。そのうえで神様から魔力を借りた僕と戦ったのだから――限界を迎えてもおかしくはない。

まともに戦ったら、僕は何度やってもユミールには勝てなかった。

けれどルゥや、神様達や、冒険者達がこの魔を消耗させてくれた。

だからこそ、今、決著がつきかけている。

原初の巨人は腕にべったりとついたを興味深そうに眺めていた。

「おれは、まだお前の強さのもとを知らない」

ぐう、と音が鳴った。ユミールの腹の音だった。

ユミールに刻まれていた傷に、赤黒い炎がまとう。傷は『口』になったり歪むことはなく、靜かに治っていった。

「……腹が減ったな」

ぞくりとする。

ユミールが口を開く。さっきよりも、何倍も、何倍も、大きく。真っ黒い奧は、まるで全てを飲み込んでしまうかのようだ。

「何もない場所でも、その強さは貫けるのか」

神殿の床全が巨大な裂け目に飲み込まれる。

僕らは暗闇に落ちた。

氷のような風。

まだ出口に至っていないはずなのに、落下する僕を凍てつく強風が襲ってきた。にまとう黃金の炎さえ、不安そうに揺れる。

青白い輝きが出口に見えた。飛び出した僕を極寒の空気が包み込む。震える手足でを取った。

そこは、延々と続く氷の大地。氷河という言葉が頭に浮かんだ。うっすらとる氷がどこまで続いている。

空は暗いのに、星さえみえない。何もない空間に僕とユミールは立っていた。

原初の巨人が告げる。

「――かつて、世界に何もなかった」

首筋の裏に鳥が立った。

ここには何(・)も(・)な(・)い(・)。それが強化された覚でわかる。

生きの聲はおろか、風の音、星の姿すら、ここにはない。ただ、大氷河のような足場が延々と続いているだけだった。

「……ギンヌンガの空隙と、神々はここを呼ぶそうだな」

ユミールが生み出された場所。

僕らの世界が創世された、大空隙。

この巨人の、故郷だ。

冷たい魔力と、熱い魔力がぶつかりあって、原初の巨人が生み出されたという。

神様達はかつてあった出來事を、大氷河からの氷塊と、大きな炎からの熱波がぶつかった、と教えてくれた。だとすれば――この氷河って……。

息が白くなる。

神様からもらった魔力が、圧倒的な冷たい魔力にさらされて、見る間に弱まっていく。ずっとそばにあったみんなの――神様の気配が、薄まり、消えていく。

「ここでも、お前は戦えるか。神々も仲間も、誰も力となれないこの場所で」

ユミールは僕に問いかけた。

幾度も世界を渡った末に、僕は元居た世界から放り出されてしまっていた。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は11月15日(火)の予定です。

(2日、間が空きます)

【コミカライズ版 コミックノヴァで連載中!】

・第2話(後半)が公開されました!

ソラーナとリオンが絆を結ぶシーンの手前まで描かれています。

神様の登場シーンとか素敵ですので、ぜひ見てみてくださいませ!

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