「コマーシャルりまーす」

スタッフの大聲がスタジオに鳴り響いた。

ほっと弛緩するスタジオ。僕はキョロキョロと周囲を確認した。

いつの間にか、コバヤシの姿が見えなくなっていた。

おそらく禮くらいは言っておいた方が良いのだろう。だが、の危険をじて既にスタジオから出てしまったのだろうか。

そう思った矢先のことだった。

トゥルーマンがこちらに近寄ってくる姿が視界にった。

「いけませんねえ、ミハイルさん。このような真似をしては」

僕の腕を摑むなり、そう聲をかけてきた。

「仕方がないだろう。こうでもしないと、おまえが公にサイキック・チャレンジをけるはずがないんだから」

と言い返した後、僕もトゥルーマンの腕をギリギリと握り締めた。

「いえ、そんなことはありません」

と言ってから、トゥルーマンはようやく僕の腕から手を離した。

「どういうことだ？」

含みのある言いが気になり、すぐにその理由を確認した。

「いずれにしましても、本日先生の申し出はおけしようと思っていたのですから」

と、意外な臺詞を述べてくる。

「今日のことを知っていたとでもいうのか？　そんなはずはない」

そう自問自答しながら、僕は片眉を上げた。

この反応を見たせいか、ふっと小さく笑ってからトゥルーマンは話を続ける。

「噓ではありません。あなたがセオドア大統領に、國立アキハバラステートセンターの借用を打診していたことは、ずいぶん前から知っておりました。いずれはトウジョウ先生からコンタクトをとってきて、サイキック・チャレンジ出演依頼を申し出ることはわかりきっていたので、先手を取りこちらの番組への出演を打診したのです。行き違いになれば、逆に面倒になりますからね」

「な……セオドアが、おまえにその報を教えたのか？」

驚きを隠せず、僕はすぐにそう尋ねた。

「いえ、そうでなくとも、それを知る方法はいくらでもあるでしょう」

トゥルーマンは曖昧な回答をよこしてくる。

間違いなく、大統領室には盜聴が仕掛けられている。

彼の濁った目を見た僕は、そう直した。

「ですが、重要なのはそんなところではありません。重要なことは、なぜ私がトウジョウ先生に出演を依頼しようと思ったのか、というところです」

「どういう意味だ？」

「お恥ずかしい話ながら、私の信者には兇暴な種類の人間がなからずいます。私の指示を待たずに暴発してしまうような輩がね。トゥルーマン教団に反抗する人間がほぼ皆無となった昨今では、トウジョウ先生のような存在は非常に目立ちますから、彼らにとっては格好の餌食です」

「おまえ、やはりレイに何かするつもりなのか」

脅迫ともけ取れる言葉を聞いて、瞬時に怒気を含んだ聲を返した。

「いえいえ。何もするつもりはありませんよ。ですので、トウジョウ先生が無茶をする前に、私は先生の申し出を素直にけようと考えていたのです。そうして私が穏便に応じていれば、彼らが暴発することなどありませんからね。ですが、今日のようなことをされては……」

「殺すとでも言うつもりなのか」彼の臺詞を遮って、言う。「彼を傷つけたら、ただじゃおかない。絶対に許さないぞ」

「そうとは言っておりませんよ、ミハイルさん。この狀況でそのようなことをされては、トゥルーマン教団にあらぬ疑いがかかってしまうのですから。そんな指示を、私が出すわけがありません。私たちの能力は本なのですから、このまま決戦に持ち込まれたとしてもなんら困ることはない。だから、トウジョウ先生には気をつけてしいだけですよ。ただ不慮の事故のあった場合は、その限りではありませんがね」

と取ってつけたような理由をまじえながら、トゥルーマンは脅し文句を言った。

話は終わったとばかりに、を翻しスピキオの元へと去っていく。

「サイキック・チャレンジの前に何かやろうとしても無駄だぞ」

彼の背中に向け、僕はそう聲をかけた。

そのタイミングで、こちらに顔を向けているスピキオの姿が視界に映った。

仮面のせいで彼の視線を追うことをできないが、こちらの出方をうかがっていると考えて相違ないだろう。

そして、

「レイに手出しはさせない」

と聲をらしてから、スピキオに詰め寄ろうとしたときだった。

攜帯電話のバイブが振した。

ちっと舌打ちをして、ポケットから攜帯電話を取り出した。

畫面を見てみると、そこにはセオドアという文字があった。

すぐに電源を切ろうと思ったが、これでも僕は大統領書だ。セオドアに現在何か問題が発生していたら僕が対処しなければならない。

仕方なく電話に出て、スピーカーを耳に當てる。

その瞬間、セオドアの怒鳴り聲が聞こえてきた。

「君は、いったい勤務時間帯に何をしてるんだね。いや、言い訳をしようとしなくていい。君が『トゥルーマンの泉』に出演していることはすでに知っている。何にせよ、早く戻ってきなさい。黨派を超えて國會議員の方々から書風が何をしとるという苦が大統領書室に殺到しておる。君が戻ってこないと、さすがの私でも庇いきれん……」

々と文句をまじえ報を伝えてきたが、彼の臺詞は途中で止まってしまった。

それはもちろん、

「あれ？　聞こえないな」

と言って、僕が通話を切ったことが原因だった。