《悪魔の証明 R2》第88話 057 ミハイル・ラルフ・ラインハルト(1)
「ミハイル。どうしたの?」
と、ドアの向こうからレイの聲。
「どうしたの? じゃない。何を悠長なことを……」
語気を荒げながら、ドア越しに聲をかけた。
ガチャリと鍵の開く音がするや否や、レイの部屋の中へと飛び込んだ。
怪訝そうな表をするレイを押しのけ、リビングルームへと向かう。
中央に置かれているテーブルにマグカップが三つ置いてあったが、リビングにはアリスしかいなかった。
ミリアの姿はなく、壁にかけられている時計を確認すると、すでに午後九時を回っていた。さすがにこの時間帯になれば彼も家に帰るようだ。
テーブルの上にあったリモコンを手に取り、テレビマークのスイッチを押す。
ニュース番組にチャンネルを合わせると、一息れる間もなく、目を丸くしているアリスの隣へと座り込んだ。
「何? いったいどうしたの? ミハイル」
ようやくリビングに戻ってきたレイが、不機嫌そうに聲を荒げた。
言葉を返さず、僕はテレビ畫面の方向を顎でしゃくった。
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ちょうどその時、畫面にひとりの男の顔寫真が表示された。それに合わせるかのように、ニュースキャスターが口を開く。
「速報です。本日、ジャック・ウィルソン・コバヤシさんが灣岸地域で海に落下しました。場所はスカイブリッジターミナル近辺で、ラインハルト社私設警察の発表によると、ナイフを持った五人の男に追われている最中だったとのことです。コバヤシさんは未だ行方不明。現在、ラインハルト社海上保安局が周囲を捜索中です。なお、ラインハルト社私設警察はこの五人の男の行方を追跡しており……」
もう十分とばかりに、僕はテレビのスイッチを切った。
レイに目をやってから、
「コバヤシが殺された。君も危ない」
と、忠告した。
僕の気勢とは裏腹に、やれやれと冷たい吐息をついてから、レイはゆっくりと前へ歩き出す。
テーブルに到著すると、首を軽く振り近くにあったファーチェアーへと座り込んだ。
コーヒーがったマグカップに手をつけてから、
「殺されたって……海に落ちただけでしょう」
開口一番、言う。
「どっちでも一緒だ。あんな油ぎった海に落ちたら、無事じゃ済まない」
灣の様子を頭に思い浮かべながら警告した。
スプーンでコーヒーをかき混ぜながら、
「だから、それがどうしたの?」
レイは他人事のように言う。
「どうしたのじゃない。君も襲われるかもしれないんだぞ」
「ミハイル。心配はわかるのだけれど、來る時間帯を間違えないでしいわ。そんなこと、電話で言えば済む話じゃない」
この臺詞を聞いて、膝から崩れ落ちそうになった。
ニュースを知り、もしかするとレイの部屋が襲撃されているかもしれないと思い立ち急いで邸から戻ってきたが、その努力をすべて無礙にするこのレイの言い草。
さすがにショックだった。
「それにコバヤシは今頃逃げているんじゃないかしら。ニュースでは海に落下したと言っていたけれど、自分から飛び込んだんだと思う。彼は初めから予測していたわ。あんな風にトゥルーマンを裏切れば、どんなことになるかってね」
続けざまにレイは推測を述べる。
「君はコバヤシが襲われることを知っていて、僕に教えなかったのか?」
頭を軽く振ってから、尋ねた。
「ええ。知っていたといえば語弊があるけれど、無論想像はしていたわ。というより、トゥルーマンの敵となったコバヤシが、海外に高飛びしてトゥルーマン教団の影響力が低い場所へ行こうとするのは、別に私でなくともわかることよ」
「それはそうかもしれないけど……」
「トゥルーマン教団青年活部も、當然それを予測していただろうから、海外への通の拠點スカイブリッジターミナルに刺客を送るのは當然のことだわ。コバヤシは逃げ切れると踏んでいたみたいなのだけれど、どうなったのかしらね。そう簡単に死ぬようなタマではないと思うのだけれど。詐欺師の才能だけはあるから」
レイは淀みなく言う。
「確かにコバヤシであれば、逃げ切る可能も高いな」
そう言葉を返してから、軽く吐息をついた。
『トゥルーマンの泉』においてのコバヤシの立ち振る舞いを鑑みれば、レイの言うことはもっともだ。
「それより、ミハイルくらいではないかしら。こんな簡単な次元のこともわからないのは。後、私が知っていて教えなかったという件なのだけれど。決して黙っていたわけではないの。そこまであなたの知能が低次元だとは、想像もしていなかったから」
レイは特に悪びれもせずに述べる。
くっ、と僕は奧歯を噛んだ。
「それは――」
急いで言い返そうとしたのだが、その途中で言葉に詰まってしまった。
レイの意見にまったく反論の余地は見當たらない。
「それは……何かしら?」
話の先を促してくる。
「いや、その件についてはいい。そもそも君は……コバヤシと君はどういう関係なんだ。なぜコバヤシが君に協力した。こんな事件が発生したんだから、今度は教えてくれ」
悔し紛れというわけではないが、話題を変えた。
『トゥルーマンの泉』放送終了直後に攜帯でレイと通話しコバヤシとの関係を問いただしたが、彼は曖昧な言いで何も説明しようとはしなかった。
その時は邸に戻らなければならないという差し迫った理由もあり、そんな短時間で主義者のレイが素直に質問に答えるとは思えなかったので、それ以上訊くのを諦めたのだが、このような事件が起こったのだから今は無理矢理にでも訊いておく必要があった。
「仕方ないわね」
レイはぼそりと言ってから、面倒くさそうに説明を始めた。
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